#16A STARTING POINT
▼A STARTING POINT▼
「こうして、私違達は『創造神』と対話をする事が出来ました」
会議は翌朝開かれた。
休む間もなくその会議に出席した晶達は、疲労困憊していたものの、そうは見せないでいた。
「では、神はこの世界を救ってくれたのか?良かった……」
何もしなかった、者共がざわめき始めた。
「これからは、もっと自分の意志を持つようにとおっしゃってました。つまり今の私達に欠けている物を取り戻す事が重要なのです」
そう言った話し合いがもたれた。
正確に伝えられたであろうか?それはこの先の私達の行動によって実証される事であろう。
そして、無事会議は幕を閉じたのである。
「長い間、本当にごめんなさいね……」
晶が、要達に礼を言う。
「でも良かった!…一時はどうなる事かと思ったよ?地震もおさまったようだし」
と、結が語る。
「それに、要の言葉!『創造神』に向かってタメ言葉だもん。ヒヤヒヤした!」
「そんなに、凄かったのか?要……」
と、道が問う。
「それはもう……冷や汗が出るってもんだわ」
鎮が、要の頭を揺すぶりながら答える。
「私もその場に行きたかったなあ」
とは水。
「水には使命があったでしょう?」
と、四季が、水の肩に手をかけて宥めていた。
「まあ、でも無事終わって良かったよ」
と、光一が、腰に手をやりやれやれと言った感じで答える。
今ここに、八人が揃った。
その様子を、『ウリエル』が眺めていた。
「それじゃ、そろそろお別れね……地球に還ったら、この記憶は無くなるけど、どこかで感じていて欲しいの……決して無駄な事じゃ無かったのだと言う事を」
晶は、胸の前で手を組み、別れを惜しんでいた。
「忘れないよ!きっと憶えてる!」
拳を握りなおし、要が自慢げに語る。
「ボクも」
「私も!」
それぞれが、ロ々に晶に向かって言付ける。忘れたくなど無い。
「本当は、『マザーコンピューター』を廃止にしたかったのだけれど……そうすると、今までの秩序が壊れてしまう可能性が出て来るの……だから、『玄武』『青龍』の地を守る二人にはこれまでと同様に地球に還ってもらいます。お世話になりました」
と、四季と光一の手を取り握手をかわす晶。
「また、何かあったら呼んで下さい」
と、四季が一言残す。
「いつでも構わないぜ!あっ、出来れば夜中にしていただけると助かるんだけど?」
とは光一の言葉。
「まあ……」
と、晶が微笑ましく呆れていた。
「それじゃあ魂を地球に返すわね?」
それぞれの、棺には既に眠っている『トロンズ』、『ルシフェル』『ミズチ』『ケルビム』『セラフィム』『ラファエル』『ガブリエル』の屍体。
全てはここから始まった。
それはまた目覚める事があるのであろうか?それは今は分からない。ずっと先の事。
「元気で!」
その晶の腕からシャボン玉のように煌く光が七人を取り巻く。
そして、やがて消え去った。
「これで良かったんですよね?『トロンズ』長?」
と、後ろから肩に手をかける『ウリエル』。
「ええ、これで良かったんですよ」
二人は消えて行ったその先をいつまでも見守っていた。
「要!」
と、母の声を耳元で聴いた。
「オレ、どうしたんだ?」
見なれない、白い天井が目に入って来た。
「もう……どうしたの?じゃないわ……どれだけ心配したか……」
すると、涙目の母が要の視界に入って来た。
「突然、舞台から落ちるや、息をしていないんだもの。心配かけただけじゃ済まないわよ!?」
「舞台?ああ……ロミオとジュリエットの劇か……」
だんだん思い出して来た記憶。
「宮下の水ちゃんも同じに倒れ込んだのよ。あなた達一体どうしたって言うの?」
と、隣を見る。
すると、そのベッドには水が横になってこっちを見て笑っていた。
「水ちゃんもさっき目を醒ましたの。もうダメか?と言われてたんだけど、よく還って来てくれたわ……」
と、ハンカチで目もとを拭っている。
「光に包まれたんだ……夢なのかな……」
「えっ?」
「凄く長い夢を見たんだよ、母さん!」
でもどんな夢だったのかは忘れた。そして、何時の間にか頬を涙が伝っていた。
「あれっ?何だろう……どうしてかな?涙が出る……」
それは次から次に溢れ出して来る。
「こんな事、今までなかったのに……」
晶が死んだ時だって、涙を流した事は無かった。どんなに辛くたって、一度も流した事など無かった。
「何だか思い出さなきゃいけない事が有るような気がするのに……思い出せない」
込み上げて来る思い。
涙で滲んだ視界で隣の水をもう一度見た。
同じように涙をこぼしている。
「母さん、オレ……」
言葉に詰まった。
「もう良いのよ。ゆっくりお休みなさい……」
そういうと、額に手が寄せられた。
「うっ……」
また込み上げて来る涙。
母の掌は水仕事で『カサカサ』に荒れていた。
―これがオレの母さん……―
そう思うと、止めど無く流れて来る涙を、押さえる事は出来なかった。
―生きて還る……―
それがどんなに大切な事か、骨身にしみた。そんな一コマがここにあった。
この日、要達三人は、それぞれ同じ病院に運ばれていた。そして、一時間の間止まっていた心臓が再び動き始めたのである。
もともと痛弱だった晶の身を案じた晶の母は、要と水二人とは別の個室を用意してもらっていた。しかし、目覚める事が出来た。
その事をたいそう喜んだと言う。奇跡が、二度起きたのだから。
そして鎮は、練習試合の最中、突然倒れたと言う事で、要とは違う病院で治療しているとの事であった。今は父が、付き添っているとのことだ。
道は、たまたま家で寝ていたため、この事に気付かれる事は無かった。
しかし後で聞いた話だが、突然苦しくなったと言っていた。
一番大変だったのは、宮下家の人たちであった。
長男の光一は、道を歩いている際に突然倒れて、死んでいるとみなされ、警察に通報された。
長女の四季は、神社の片づけをしている際に倒れたとの事で、父親に運ばれて即刻病院へ。
しかし、こうも同じ症状で、原因不明の病気に掛ったのである。この事件は、要達一族の間で密やかに後々まで語り継がれたこととなる。
「水!倒れていた時の事、憶えてるか?」
二日の安静を取ってから、学校に出て来た水に話し掛ける。
「ううん…それが、思い出せないんだ」
そう言っている水は、悲しい事があったかのような雰囲気であった。
「実はオレも…思い出せない。まるで、晶ちゃんの事と関係があったんじゃないかって……そう思ったんだけど」
と言葉を濁す。記憶は、晶が死んでしまったと言うその前が無い。
つまり、結と言う存在を忘れてしまっていた。
「もしそうなら、きっと忘れてはならない事ね?」
と、水は言う。
「こんな想い、どうしようもないな……」
「でも、想い出そうとする意志が有ればそれも適うんじゃないかしら?」
そんな会話をしていた。
そんな折、授業が始まるチャイムが鳴る。
「はーい。席に着きなさい!あらっ?結城くん、宮下さん。もう良くなったのね?」
と、久々に学校に出た要に、担任の先生は微笑んだ。
「はい。御心配おかけしました……」
こうして、今一度、出発点に立った六人。
それぞれの思いを乗せて、時は流れて行く。
それは、破減の道か……それとも、輝かしい未来なのか……今は、誰にも判らないことであった。
FIN
未来なんて判らない。
それも有るけれど、この世界の秩序を造り出している物は何なんだろう?その辺りから、この話は始まりました。
今回は、天使や悪魔を題材として書いたのですが、余りにも名前を乱用してしまったので、(只でさえキャラ多いのに・・・)判りづらい話になったのではなかろうか?と言う感じがします。でも、描いてみて楽しかったのは然り。またこのテーマに関しては形を変えて書いてみたいと思います。