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ARK  作者: 星河 翼
14/16

#14A WISH

▼A WISH▼


ここ、中央部に出向中の船の一室で三人は大理石で出来ている丸いテーブルを囲み、話をしている最中であった。

そして、『ウリエル』からの通信を受けた晶は、この世界の秩序について疑問が生まれ始めていたのである。

「どう言う事なんだ?晶ちゃん!」

要は、先程から黙ってしまっている晶に詰め掛けた。

「地球上での時間に狂いが出ているなんて……宇宙始まって以来だわ!」

「それじゃ……ボク達は、死んでしまった事になっているの?」

結が問う。

「そう言う事になるわね……ごめんなさい。こんな事になるなんて思ってもいなかったわ……。もう猶予はないの、急いで中央部に行って、この話を纏めなければ、全てが手後れになる」

「でもどうやって?これはオレ達の話だけで纏まるものなのか?……それとも……まさか、最終的手段が何か有るっていうのか?」

 要が問う。

「最終的手段。奥の手が有るわ。直接神と対峙するつもりなの……」

 晶が『ボソリ』と呟く。

「そんな……神は何処にもいないって、以前晶ちゃんは言ったじゃない?」

 結が思い出したかのように言う。

「ええ、確かに今、この天界に神はいない。『神の玉座』と呼ばれている扉の向こう側に呼び掛けても……決して返事は帰ってこなかった……だけど、もう待てない!一刻を争うと言う事態にもなって、この世界の『創造主』が何の返答もしない何てことあり得る?余りにも不自然だわ……きっと何か有るのよ……それを調べるの!」

「『神の玉座』って何処に有るのさ?」

 晶の言葉を飲み込んだかのように、要は問いかける。

「中央部・第一監査室。そこから入った世界樹の一番上に有るわ……」

「そこに向かうのには何か策がいるの?」

「いえ……監査長にそのための手続きが必要になってくるわ……でも、礼拝をする事を理由に忍び込むの……つまり、今回の事変の話を持ち出し、今一度神のお言葉を聴きに行くという名目で!」

「なるほど……それだと怪しまれずに済むし……無駄な争いが起こる事はない」

 要はなるほどと頷く。

「後は、会議でどれだけの立証を得られるかだ……他の『トロンズ』や『ケルビム』『セラフィム』にどれだけ印象づけれるか……そこが問題だ」

「それには、私達の罪が暴かれる事になる。しかし、今回の事は巳む得ない調査ではあった。それをどれだけ理解してくれるか?なの」

 三人は沈黙した。

 魔界に入った、その事。それも、無断で『ウリエル』を味方に付けておこなった。その事がバレれば、どう言う処罰が下るか……

「『ウリエル』殿には良くしてもらったわ……しかも、これからその事を打ち明けに行かなければならない……彼にも罪を被ってもらう事になる……」

 晶は頭を抱えていた。

「ねえ。サタンが、神に連絡を取ろうとしていたのだったら、この天界にも連絡があったんじゃないかな……その点はどうなの?」

 結は、一度話を戻した。

「ええ、それに関しては調べてみないといけないわ……誰かがその事実を曲げてしまっている恐れが有るから……」

 晶は考えに耽って言う。

「それがあったとしたら?一体どうして隠していたんだろう?不思議だとは思わない?だってこうなる前に……つまり、歪みなんかを作り出す前に、自体の悪化を防げていたんじゃないかな?引っ掛かるんだ」

 結は、丸いテーブルに肘をつきながら不思議そうに問う。

「確かに変ね……この事は何の議題にも上がってこなかった……ただ、歪みが地震に関係が有るかもしれないからと言う名目で動いて来たに過ぎない……」

「ほらっ、おかしい……不自然すぎる」

「誰がこの指揮をとっていたんだ?」

 要は晶に問いかけた。自らは、ただ晶の指示を受けたに過ぎない。

「私達『トロンズ』には七人の長とその上に総指揮をする『トロンズ』総指揮長がいるの。その、指揮長から下った命なの」

「その指揮長って、『ケルビム』や、『セラフィム』にも有るの?」

「そうよ。その各指揮長がそれぞれの命令を配下の天使達に下すの……」

「膨大な人数がいるんだな」

 要はフムフムとだけ頷く。

「ええ。その七人の『トロンズ』に私は、位置するのだけれども……権限は十分にあるわ」

「ボクは?」

「あなたは、私の指示に従う『トロンズ』の一員……でも、私のめいで行った事の証明になるの……だから来て欲しかった」

「そう言えば、オレってどう言う身分なの?」

 とここで要は問いかけた。

「あなたは……アークエンジェル。天使の階級(ヒエラルキー)で言う所の『ラファエル』と同じ大天使。しかし……」

 突然晶は言葉を濁す。

「しかし?」

 その言葉に問い返す要。

「いえ。その内にわかります。あなたの使命については……今はそうだと思っていて下さい」

 その言葉に、何かを隠してると思った要は言葉を無くした。

「中央部まで、あと三十分もすれば着きます。それまでに、会議で発言出来る全てをまとめておいて下さい!」

 そう話を元に戻すと、晶は報告書を取り出して、それに目を通させる。

「書き出せるだけ書き出しておいて下さいね。会議後それを提出しなければなりませんから……」

 その報告書を眺める結と要。

「何だかめんどくさいな……ロ答で喋るだけじゃダメなのか?」

 それで良いじゃないか。と、文句を垂れる要。

「そうだよ。突然思った事を言う時はどうするんですか?」

「その時は、メモをおとりりなさい」

 そうして、めんどくさいと思いつつも、二人は向かい合ってその報告書にペンを走らせた。

「終わったら、私の所に持って来て下さい。判を押さなければなりませんから……」

 そう言った晶は、二人の邪魔をせぬようにと席を外し、自らも報告書作成のためにペンを走らせるのであった。


『嫉妬』と、刻まれた扉の前に『ケルベロス』に導かれた鎮は、今その扉を開こうとしていた。

 何とか、『レテ』の導き、『サタン』との対話を程よくこなした鎮は、安堵のため息をついた。

「もう残される部屋はここだけです。あなたはここで、生涯過ごさなければなりませんが……覚悟は出来ておりますか?」

 そんな事を問われた。

「はい」

 なんて殊勝に答えたが、鎮には『さらさら』そんなつもりはなかった。


―オレは、必ず道を連れ戻す。オレ達がいるべき場所に……―


 そうして、道が辿ったであろうその回廊に足を踏み入れた。

 辺りは雷鳴が轟く世界であった。


―道の奴、良く我慢してこの回廊を通って行けたよな……―


 と、雷嫌いの道の事を思い浮かべていた。

 行けども行けども、鳴り止む事のない雷鳴。


―あいつどっかで気絶でもしてるんじゃないか?―


 そんな事さえ頭を過った。

 今一度、カフスに手を伸ばし、時間を確認する。

 残り時間十二時間。

 刻む秒数は、天界のものに比べて二秒程遅かった。


―ツイている!―


 と、鎮は思った。

 そして翼を使った。少しでも早く目的地に着きたかったからだ。程よくして、扉が見えて来た。


―ここを抜けると、道がいる……―


 と、その扉を開いた。

 しかし、その先にあったのは自らの姿であった。

「なんだ?ここは……」

 四方、鏡で覆われた世界。それに気付くのに時問が掛った。


―痛っ!―


 鏡にぶつかって、頭を押さえる鎮。

「ようこそ、コカビエル殿」

 鏡の中から声が聞こえて来た。

「誰だ!?」

「私は、この地を治める『シャリート』」

「有り難い。領主様自らのお出ましですか……」

 鎮は答えた。

「この地は鏡の迷宮。私がたまたまこの場に居ただけですよ」

「へえ……それは運が良かったと言う事か……それじゃあ、先にこの地に赴いた者の事はもう知っているだろう?」

「そうですね……この迷宮に上手く入る事が適った者であればね」

と、『シャリート』は答える。

「それじゃ訊くが、『リヴィアタン』と言う者は知っているか?約、一週間前にこの地に入ったはずだ」

 冷ややかに問う鎮。

「リヴィアタン?それは、私の事だ」

 と、答える。

「何?」

 動揺する鎮。

「今、私の中に『リヴィアタン』はいる。それは私の半身であるからだ」

「それじゃ……リヴィアタンは?」

「二度と私の中から出て来る事は出来ない。捜し者がそいつであれば……」

「莫迦な!」

 呆然とする鎮。

「そう、ここに『リヴィアタン』の屍が有る。そいつを葬っていなかった事に気付いて私はここに戻って来た」

 そういうと、足下を指さす『シャリート』。

「……道……」

「道?その者の事をそう呼ぶそなたは何者だ?」

 瞳孔が開いているその死体はもう肉塊のそれであった。

「お前……道に何をした!?」

 崩れ落ちるかのように跪いた鎮は、背中で息をつきながら、『シャリート』を見上げた。

「ただ、失われた半身の魂を我が身に取り込んだだけだが、それがどうした?」

『シャリート』は平然と答える。

「お前の中に、道の魂が有ると言うのか?……むりやり道の魂を取り込んだのか!?」

 仰け反るように、鎮は立ち上がる。

 そして、『シャリート』の胸倉を掴んでいた。そうしないと、この激情を何処に持って行けば良いか分からなかったからである。

「今すぐ、道の魂をこの体に戻せ!」

 要求する鎮。

「ほう……触れて分かった……そなたが、我が半身、『リヴィアタン』の弟か……それならば、思いの持って行き場に困っている事であろうのう?」

「何!?」

 もう一度胸倉を大きく揺さぶる鎮。

「そなたの『リヴィアタン』……いや、道は、素直に私の魂に同化したのだ!」

「何を、莫迦な……」

 すると、周りに囲まれた鏡から、少年の道の手が伸びて来た事に気がついた。

「……わ……わたる?」

 そして、鏡の中に引きずり込まれる。

「見ておくが良い。そなた達の嫉妬が生み出す世界を……そして、我が元に跪くのだ!」

『シャリート』の言葉半ばに鎮は、身体全部を鏡の中に埋もらせていた。

 その先には、微笑んでいる少年の道。

 その手に導かれるように、鎮はその先に有る鏡の中の世界に身を投じたのであった。


「なんで、まもるは、ボクのおもちゃであそびたがるの?」

 道が問いかける。

「だって、わたるおにいちゃんのおもちゃのほうがいいんだもん」

 小さい頃の日常の一コマであった。

「ボクのおもちゃのほうがいいの?」

「うん」

 素置に首を縦に振る鎮。

「おにいちゃんがあそんでるののほうがいいんだもん」

「じゃあ、それあげる。だったられこれ、ボクがもらうからね……」

 と、車の玩具に手をかける、道。

「ダメ!」

「えっ?なんで?それじゃ、ボクがあそぶおもちゃがないじゃないか!」

 と、分からないという風に、思いっきり叫ぶ道。

「わたるおにいちゃんは、ボクとこれであそぶの!」

 つまりは、一緒に遊ぼうと言いたい訳であるらしい。

「わかたよ……それじゃあいっしょにあそぼう!」

 と、笑いかける道。

 その二人の様子を見守る鎮。


―オレはお兄ちゃんっ子だったっけな……―


 そんな事が思い出された。


 そして場面が変わる。


 必死で鎮は道を追い掛けているシーン。

「ぜえ、ぜえ……道兄速い!!」

 鬼ごっこをしている二人。

 この頃、近くに遊び相手となる同じ年頃の子供がいなかったため、二人だけで鬼ごっこをしたものである。しかも、じゃんけんでは、道に勝っためしがない鎮はいつも鬼になっていた。

鬼になると、どうしても歳の違いで追い付く事が出来なくて、泣きべそをかいていた。

 そんな鎮に、しょうがないなと言う顔をして、足を止めてくれる道。

「今度は、道兄が鬼だよ!十数えてから追い掛けるんだよ!!」

 そんな感じで毎日を過ごしていた。


 そして、また場面は変わる。


 小学生に上がった道。

 ランドセルを嬉しそうにかるっている。

 その横でベソを掻いている鎮。

「これからは、お昼に道兄と遊べなくなっちゃうの?」

 と、悲しそうな表情の鎮。


―そう言えばこの頃、よく、道のランドセル隠してたよな……―


 と、学校に行かせないようにするために、そんな事をしていた事を思い出した。

 しかしその一年後、自分も、幼稚園に通うようになった。

 でも、その幼稚園では、ろくに友違もできず、やはり、道の後を追い掛けてばかりいた。


 そして又場面が変わる。


 小学六年生の事だった。

 一人の少女が自分宛に手紙をよこしたのだ。

 一言、『好きです。付き含って下さい』とだけ書いてあった。

 この頃の鎮は寡黙で、真面目な印象。その上、そこそこ頭も良くて、スポーツ万能。容姿だってそこら辺にいる小学生に比べて劣らない。そんな鎮に憧れる女の子がいても不思議ではなかった。

 しかしそんな事、おくびにも見せないでいた鎮。

 それがやけにウケていたのである。

 中学生になった鎮は、バスケット部に入った。

 そして、今まで以上に、人気が出ていたのである。

 練習試合だって言うのに、観戦しにやって来る女の子は皆、鎮を見に来ていた。

 でも、鎮はそんな事知らない風に、練習に励んでいた。

 毎朝、開ける靴箱は手紙で溢れる。しかし一切その手紙に興味がなかった。

 逆にそれが好評で、『硬派の鎮』として定評があったのである。

 しかし、そんな鎮にも弱点があった。それが、道であったのだ。


 過ぎ去って行く時の流れ。次々と場面が変わって行く。


「明後日の文化祭、模擬店やるんだ……お好み焼き屋!是非来てくれよな!」

 家に戻った鎮は、道の部屋に駆け込むと、そう言った。

「へえ……だったら、食べに行くよ。一年B組だったよな?お前のクラス」

「そうだよ、道兄が来るの待ってるから!」

 そう言うと、ベッドに腰を掛けて鎮が尋ねる。

「道兄のクラスは何するの?」

「オレか?」

 勉強机に腰掛けて、早くも受験勉強をしている道。

「オレのクラスは……」

 と言いかけたが、突然黙る。

「何?」

 と、無邪気にその言葉を待っている、鎮。

「……何だって良いじゃんか!当日くれば分かるよ!」

 と、突然勉強の邪魔だとでも言うかのように、言葉を切る。

「……分かったよ。それじゃ、当日行くから。えっと、三年C組だったよな……?昼は混んでると思うから、朝か、夕方にでも行くよ!」

 そう言い残すと、鎮は部屋を出て行った。

 しかし、これが後の祭りになるとは思いもよらなかったのである。


―そうだ、あの時ちゃんと聞いていれば……―

 と、記憶の中で鎮は思い返していた。

 当日、鎮のクラスの模擬店は、繁盛していた。

 鎮目当てにやって来る学校中の女の子で、賑わっていたからだ。

「結城!お前のおかげで、大繁盛じゃん!」

 と、クラスの男達が声をかける。

「オレ、疲れた。奥の方手伝っても良いか?歩きっぱなしで足がもう棒のよう!」

 と、ウキウキとしているそいつに言う。

「だめ、だめ!お前は外!」

 言い切られてしまった。

 仕方なく、ホールの方でお客さんを持て成している。この分だと、道が何時やってくるか分からない……それに、何時動けば良いかさえも。

 そこで、夕方まで待ってみようと思った。

「おいっ、三時になったら、休憩取るからな!絶対!」

 と、奥に控えたクラスメイトに一方的に言う。それを渋々と受けるクラスメイト。今は二時、後一時間もすれば、道のクラスに行ける。

 そう思うと、一頑張り出来た。そして、刻限が来たのである。


「オレ抜けるからな!」

 そう言うと、身に付けていたエプロンをはずし、一目散で道のクラスへと向かった。

 三年生は、別館であった。渡リ廊下を走って駆け抜ける。訪れているお客達をよそにして……

 そして、クラスの前に来たのである。

 その前には人だかりで一杯であった。教室の窓にはり紙があった。それを何と無し気に読む鎮。

『美人コンテスト?』


―へえ……こんなのやってるんだ―


 と、初めて知った。

 そして中を覗き込む。

 暗くなっている教室内。そこで、今それが決まったと言う発表があった。

「一位!結城さん前へ……」

「結城?」

 自分と全く同じの名字に不思議と目を奪われた。遠目で見ているから『ハッキリ』とは分からなかった。が、それが道である事に驚きを隠せなかったのである。


―何なんだ、これ!―


「さて、結城さん女装部門ナンバーワンに輝いた感想は?」

 という言葉に、

「女装?」

 と、言葉が漏れた。

 隠していたのはこの事だったのか。と悟った鎮は笑いを押し込めていた。しかし、次の瞬間、その笑いが冷めたものになった。

 花束贈呈に、なぜか、光一の姿があったからである。

『パチパチ』と拍手の乱れる中、鎮は呆然とした。


―なんでここに、光一がいるんだ!?―


 今でもその光景が脳裏に蘇る。

 そう言えば、一度も、道は自分のクラスに寄ってこなかった。何故来なかったのか?そう考えるが答えは出ない。

 程なく、その授賞式が終わった時、道と光一が教室から出て来た。

「道兄!」

 と、呼びかける鎮。

 その呼び掛けに、一瞬身を凍らせるかのように立ち止まる道。

「オレに話さなかったのは分かったよ。でもなんで、光一には話していたんだ!」

 詰め寄る。振りかえる道。その姿は、驚く程美しかった。

「やあ、鎮!?これには事情があって……」

 と、光一が話し掛けようとするのを制するかのように、

「オレは、道兄に訊いてるんだ!他人は黙っていてもらおうか!」

「何を……!?」

「良いんだ……光一……済まなかったな、模擬店に行けなくて……この格好で学校中歩き回らなきゃいけなかったんだ」

「学校中?」

「已む得なく、投票してもらうために、顔見せ程度だけど……」

「だったら、オレのクラスにも顔出せただろ」

「……そうだな」

「そんなに嫌だったのか?オレにその姿見られるの……」

「……そう言う訳じゃ……」

 押し黙る道。

「……お前には判らないよ……」

 そして、その言葉が出て来た。

「判らないって何が!?」


 二人の沈黙は続く。


「鎮……少しは道さんの気持ちも考えてあげたら…」

「お前は黙ってろ!」

「光一ごめん……オレこの化粧落として来る……」

 そう言うと、道は『パタパタ』と、廊下を走って、トイレに駆け込んで行った。

 その後ろ盗を黙って見ている鎮と光一。

「何だって、オレとの約束をすっぽかしてこんな事やってるんだよ……」

 咳く鎮。それを、光一は、

「お前!少しは、考えてやれよ!自分の事ばかり……オレ、見損なったぜ!」

 と言うと、道の後を追う。

 ただ独り取り残された鎮は、ただその場に立ち尽くしていた。


「こんなものを見せるんじゃねえよ!!」

 と、鎮は叫んだ。

「でも本当の事だよ!君はこんな風にして道に、光一に嫉妬したんだ……何故自分が仲間外れにあったのか?その事が判らずに……」

 少年の道は何時の間にか、自分の姿をしていた。

「ああ、オレは嫉妬したさ……光一に!」

「いいや、道にも……」

 と、自分の姿が唱える。

「道に嫉妬なんかしていない!」

「そんなはずはないだろう?」

 と、腕組みをするもう一人の自分。

「正確に言えば……何も言い訳をしてくれない、道にだ!」

「……」

「本当は、鎮のクラスに行きたかった。とでも言って欲しかったんだろう?」

「……」

「そして、モテる鎮を見たくはなかったと、言い訳して欲しかったんだろう?」

「よせ!それ以上言うな!」

 鎮は眉間に皺を寄せて、頭を抱えた。

「何故道は、お前には分からない!って言ったと思う?鎮のことが好きだからに決まっているからさ!」

「黙れ!」

 傲慢にも自分はそんな事を望んでいたかと思うと吐き気がして来た。

「オレは、道を追い込むために、愛してると言った……きっと、道は反発してくれると思った……こんな不毛な事があってたまるもんか!」

 と、肩で息をしながら鎮は言い捨てる。

「でも、オレ達は愛しあった……それは違うのか?」

「黙れ!お前なんか消えて無くなってしまえ!」

 叫ぶ鎮。


 そして、思い出す快楽。


―道もこんな風に、過去を見たのか?―


 心臓が『バクバク』と音を響かせている。


―そして自らの魂をあの者に委ねたと言うのか?―


 ならば全て、鎮に責任が有る。

「道兄!出てこい!オレが苦しめたんであれば……もうその苦しみを解き放ってくれ!…オレは確かに道兄を愛してる……でもそれが嫌なんだったら、二度とそんな事は言わない!だから、自分に負けないでくれ!」

 すると、もう一人の自分が、道の姿に変わったのである。


「鎮……」

「道兄……」

 二人は初めて心にゆとりを持って、対峙していた。

「道兄が弱い人間だって事はオレがよく知ってる。それは、弟である特権だ!」

「鎮……?」

「道兄が、どんなに苦しんでいたか、どんなにオレを愛していてくれたか……もう十分に判った。だから、もう一度本来の自分の魂を信じてくれ!」

「ありがとう……鎮。でも今だから言える事がある。あの時、お前のクラスに行きたくはなかった。それは、オレの嫉妬がそうさせたんだ……お前にはそれを信じて欲しい」

「道兄……」

「こんな感情を持ったまま、天界にはいけない……だから……」

「それは間違っている!オレ達は人間だ、今は天使かもしれない……でもそれは、あって然るべきものだとオレは思ってる!だから、オレと供に天界へ、地球へ戻るんだ!」

「……鎮」


 その瞬間、この暗闇にまばゆい光が灯った。それは神々しくも渦を巻いていた。

 暫くすると呻き声が聴こえてきた。

『うおーーー!』

 その声と供に元の鏡張りの地に戻されていた。

 地面に横たわっている二人。そして、うめき声を上げている『シャリート』。

 目覚めた鎮は、カフスを取り外す。あと、二分で七日になるのを確認した。

 すると、今までピクリとも動かなかった、道の瞳孔が元に戻ったのである。

 このチャンスを逃さない手はなかった。

 直ぐさまカフスのボタンを押す。

 そして、道の身体を抱き寄せた。

 その中、『シャリート』のうめき声は続いていた。


「『ウリエル』……早く!」


 時は一刻を争っていた。

 レーダーに気付いた『ウリエル』は、その地点を見詰めるより先に、後、一分もないこの時刻に目を光らせていた。

「我、この地から呼び戻す。我の支配に有るカフスを持つ者よ!今一度この地に戻りたまえ!!」

『ウリエル』のその両手から放たれる光は、神々しい光の渦となって二人の像を描き出した。そして暫くすると、そこには鎮に抱きかかえられた道の姿が浮き上がったのである。

「ただいま」

 と、鎮は、『ウリエル』に声を掛けた。

「寿命が縮まる思いでしたよ。『ケルビム』殿!」

 と駆け寄る『ウリエル』。

 そして、抱きかかえられた道の為にベッドを用意するように近衛兵に連絡した。

「この『セラフィム』殿の衰弱の仕方、並々ならないですね……よほどの危険があったのですか?」

「ああ、魂を抜かれていた……」

「何ということ……しかし、良く取り戻せましたね……時間も少なかったのに!」

「あっちの世界の時間の流れが、ここよりも遅かったおかげだな……」

「そうですか……しかし、この天界は一体どうしたんでしょう」

「さてな?……ところで、中央部に行かなきゃならないんだったっけ?」

と、話しを戻す。

「ええ、そうして頂ければ、『トロンズ』長も助かるはずです。ところで魔界での歪みの場所は特定できたのですか?」

「いや……それをする暇はなかった。申し訳ない事です『ウリエル』殿……」

「いえ……ここまで漕ぎ着けたのです。一つ欠けたくらい、なんともない事でしょう……それに、全て消してしまうには、何だか問題も有るかも知れませんから」

 そう言うと、『ウリエル』は言葉を濁した。

「……」

「それでは、『セラフィム』殿の事は私どもに任せて、中央部に行って下さい。ただ今船を用意致しますので!」

 そう言うと、『ウリエル』はレーダーの前から立ち去った。

「よう!『ケルビム』殿」

 片手を振り上げながら光一が部屋に入って来た。

「光一……いや、『ラファエル』!?」

 と、驚く鎮。

「どう?仲直りは出来たかい?」

「……どうしてそれを?」

「今、さっき『セラフィム』を運んだ担架を見かけたからな……『ピンッ』と来ただけだ」

 と、人さし指を立てて語る。

「『ラファエル』には、なんて言って良いか……」

 と、俯く鎮。

「何。気にする事はないさ……でもちょっと妬けるけどな?」

 と、腕組みをする。

「えっ?」

「こっちのこと……じゃ、お前の使命、ちゃんと果たせよ!『セラフィム』の事はオレに任せておけば良い!必ずいやしてみせるさ……」

 そう言い残すと、その場を去る光一。

「光一……」

 何が言いたいのか少しだけ判った。でもそれはどうする事も出来ない。

「ありがとう……」

 と言う言葉が自然と漏れた。

 船の準備は滞る事なく行われた。

 そして、鎮を乗せた船が出立するのは夜更けの事であった。

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