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ARK  作者: 星河 翼
13/16

#13A MISSION

▼A MISSION▼


アスモデウスの不安は適中していた。

扉を抜け様々に領主の元に辿り着いた一行が費やした日数は、天界での三日を費やしていた。

『白虎』の地にいる『ウリエル』は、待ち望むレーダーに未だに何の知らせがない事に苛立ち始めていた。

「何をやっているのだ……私の力が及ぶ日数でないと、どうしようもないのだぞ」

今か今かと、眠りに就く事さえもったいなく感じる。

「よう!『ウリエル』。勝手に入らせてもらったぜ!」

と、背後から声が聞こえて来た。いきなりの訪問者に振り返る『ウリエル』。

「申し訳ございません……お止めしたのですが、力づくで通られると……」

その背後に『ウリエル』の配下が跪いていた。

『ウリエル』はこの動揺を悟られないように徽笑む。そして、

「これは、これは、『ラファエル』殿……如何致したのですか?何か、変わった事でもございましたか?」

東の地『青龍』の地を守護する『ラファエル』の姿がそこにあった。

「いや?……ただ遊びに来ただけさ。それより、『ウリエル』おまえ顔色が悪いぞ?」

それもそのはずである。『ウリエル』はここ三日の間、まともな睡眠をとってなどいない。

「気のせいだ。この部屋の照明のためにそう感じるんだろう……」

そう言うと、再びレーダーを見る。

「さっきからお前何やってるんだ?そんなレーダーを眺めて……」

そう言いながら、『ラファエル』は、『ウリエル』の隣に来てそのレーダーを覗き込んだ。

「ああ……これか?これは歪みを見つけるための装置だ……」

嘘は言ってない。ただし隠している事は有るが。

「へえ〜こんな物何時作ったんだ?と言うより、こんなので判る物なのか?」

と、『ラファエル』は関心を持って問い返す。

「ああ、判る。その内判ったらお前達に、働いてもらわなければならなくなる」

その言葉に、

「歪みねえ……そう言えば一つは見つかったんだよな?」

「そうだ。南の『朱雀』近くでな」

「『ケルビム』と、『セラフィム』が見付けたと聞いた……あいつ等見かけないけど今何処にいるんだ?」

「……いま、また偵察に向かっている。その内帰って来るであろう……」

確かに偵察だ。どう言う偵察かは教えられないが……

「何だか、取込み中の様だな……だったらこれで失礼しよう。歪みの件、何か分かったら連絡をくれ……」

そう『ラファエル』は告げると、もと来た通路を歩き始めていた。

「その時は頼んだぞ『ラファエル』」

「お前こそな……何隠してんだか知らないけれど、無茶だけはするなよ!」

手の平を『ヒラヒラ』させながらドアの前まで来るとそう言い残した。『シュン』と閉じられるドア。

残された『ウリエル』は『じっ』とレーダーを見つめていた。


魔界に挑んだ、五人と一匹は、それぞれ次の日を待ち望んでいた。

アスタルテは、同僚の『シェミハザ』に会い、明日からのことを話し含っていた。

ルシファーは、男子寮で一夜を過ごしていた。

アスタロトは、領主の怠惰さに呆れつつも、明日のことを考えていた。

トゥナは、夜道で野営をしながら、明日を待っていた。

リヴィアタンは、引きずり込まれた意臓に負けないように、ただ己を取り戻そうともがいていた。

アスモデウスは、二日後に帰還する『ダネル』を待っていた。

各人それぞれがそれぞれの意思を持ち、歪みのことを考えていた。


そして、時は訪れたのである。


『ウリエル』の部屋のレーダーに、赤色に輝く二つの点が現れた。

「来た!」

それは、五日目の朝のことであった。

「東の地、6.5地点に一つと、北の地3.9地点に一つ」

そう口走ると近くに有る単独の無線機に向かって叫んだ。

「『ラファエル』殿。聞いておられますか?東の地6.5地点に、歪みを発見。ただちに処理を願います!」

すると、

「了解!程なく処理する!」

と、返事があった。

そして引き続き、北の地に無線を切り替える。

「『ガブリエル』殿、北の地3.9地点に歪みを発見しました。速やかに、処理願います!」

そう言うと、

「はい、了解致しました!」

と返事が返って来た。

その言葉を聴くと速やかに無線を切る。そして、ドーム状の空間に光の道を繋げた。それは、

地庭に流れ込む砂漠の道へと繋がる光であった。

「我、この地から呼び戻す。我の支配に有るカフスを持つ者よ!今一度この地に戻りたまえ!」

その光は、神々しい光の渦となって二人の像を描き出した。そして暫くすると、そこには水と結が立っていた。

「よくお戻り下さいました……五日経っても何の動きも見せられないから、もうどうすれば良いのかと、考えておりましたよ」

『ウリエル』は安心したためか、その場に崩れるかのように膝を着いた。

未だ、その二人の背中には、残像のような光が付き纏っていたが、いきなりふらつく『ウリエル』の姿に駆け出すとようやく消え失せた。

 抱き起こす結。

「大丈夫ですか?『ウリエル』殿……これって衰弱してる!?」

「結!私、下に行って人を呼んでくるわ!それまで動かしちゃダメよ!」

 水は、すぐさま駆け出して救護してくれる者を呼びに行った。

 ドアが開くと、その場に近衛兵が待機していた。理由を話し、『ウリエル』を療養させるようにと促す。

「『ウリエル』様!」

 駆け込んで来る、兵。

「何と言う無茶をなさるのですか!歪みのことは、ボク達が受け持ちます。もし、西の地のどこかに歪みがあった時いかが致すのですか?それまでに力を貯えて下さい!」

 結は、忠告をも兼ねてそう言った。

「これくらい、平気だと思っていた……それに、レーダーを見ていないとこちらに貴方達を引き戻す事が出来ない。後になればなる程、それは困難になって来る……私の力が及ぶ限りは何とかしたかったのだ」

 額に汗を掻きながら答える『ウリエル』。

「分かりました。取りあえず、レーダーに反応があったらお呼びします。それまでに何とか、休まれて下さい!」

 結には分かった。これが並々ならない、大変な事であるのだと言う事を。

「『ウリエル』殿こちらへ……」

 そういうと、担架たんかを運び込んだ近衛兵はその上に『ウリエル』を乗せて運んで行った。

「結くん、ここは二人で交代に番をしましょう!?まず、私が休んでおくわ。夕方になったら起こして!そして今度は、貴方が休むのよ!?」

 水はそう言って床に布を広げ眠る用意をした。

「分かった。それじゃ……」

 と、レーダーに目を光らせる結。

 そして、『ウリエル』の言葉を思いだしていた。


―五日だって?そんなに経ったような気がしない……時間のズレが有るんだ……他の皆はその事に気付いていない……―


 心配になって来た。しかし、レーダーには何の変化も見られなかったのである。


 時間は刻一刻と流れて行く。

 こんな日々を『ウリエル』はたった独りで乗り越えて来たんだ。

 そう思うと、胃が痛くなって来た。


―晶ちゃん、要、鎮さん、道さん……早く何とか返事して!―


 思いが通じたのか、交代するその時刻が来た時、レーダーに一つの光が点滅した。

「西の地9.5地点」

 直ぐさま、『ウリエル』に連絡をとった。

 すると、ふらつかせた身体で赴く『ウリエル』。

 そして、その者を呼び戻す。

 すると、輝かしい光に包まれ要がこの地に舞い戻ったのである。

「それでは、私は、歪みに出かけます。後のことはお任せ致します。もし何かあったら連絡を下さい!」

 そう言うと、ドアを急いで出て行った。

「要!無事で何より!」

 結は駆け寄って手をとった。

「手間取ったんだけど、何とかなったぜ!あそこの領主、すげえ腹立つ奴でさあ〜、ど突いてやろうかとか思っちゃったぜ!!」

 頭の後ろに腕をまわしながら、そんな事を言う要。

「それはボクもそう!何が自分に変わって任務を受けてくれだ!?冗談じゃないよね!?」

 と、あの『怠惰』な領主のことを思い出して、穏やかな結さえも腹を立てていた。

「領主の変わりに?」

 何時の間にか起きて来た水。

「そうなんだ。同じ名前だから良いだろうとか言ってたよ?」

 と、説明を付け足す結。

「知ってる?魔界では、歪みのことを『魔天道』と言うらしいわよ……そして、各領主が『サタン』の命令であの道を守る事を任じたらしい」

「へえ、そんな事調べたのか……?」

「調べたと言うか、教えてくれたと言うか……あの扉の有る部屋憶えてる?」

「うん。七つの扉のあった部屋の事だよね?」

「そう。あの場に、一つ閉ざされた部屋があったの……それが『暴食』の部屋。そこは、以前歪みを潰されたせいで、その為潰されたらしいの……そして、その領主『ベルゼブブ』は、その責任をとって死刑にされるそうよ!」

 あの紙きれの事を思い出しながらそう答える。

「死刑!?」

「結くん!あんた、ちょっと間違ってたら、『サタン』に殺されていたわね?」

「本当だ……」

 身震いする結。

「しかし、潰されるってどうなっちゃうんだろう?」

「部屋、と言うか……世界自体が消減するんじゃないかしら?実際、私達がその場にいる訳ではないから、解かりっこないんだけど……」

「……『タミエル』……」

 と、ふと要は呟く。

「えっ?」

 と、結と水は要を不思議そうに見た。

「魔界にだって良い奴は居たんだ……これで本当に良かったんだろうか?」

 と、短い時であったが、『タミエル』とコンビを組んだ要は、その事を悔やんでいた。

「確かにね、人間界に居そうな人物だって居た。私より優れた人物も居た。でも、天界を守る事が、第一条件じゃない!」

 水は要に忠告した。

「『サタン』は、一体何を恐れていたんだろう?初めに、魔界が圧迫されている事を唱えていた……そして、『創造神』の事を嘆いていた……」

 結は、思い出すかのように言葉を発する。

「そう、圧迫とは何を意味していたんだろう?一方的にその……水が言っていた『魔天道』とは何の必要があって作られたんだろうか?そして、この世昇を襲う地震……」

 要は普段にない真剣な面持ちで考え込んでいた。

「私達がそんな事を考える必要はないんじゃない?私達の使命に従っていれば、間違いはないわ!」

「しかし考えなきゃいけない事じゃないのかな?数千年も前に、聖戦は終わっている。その事を未だ根に持っているとは思えなかった……確かに戦を仕掛けるとは聴いたけど。あの老衰し切った『サタン』からその野心など見受けられなかったし!?」

 要は頑固にも、未だ考えている。

「ボクも同感だ。一度ちゃんと話し合いを持った方が良いのではないだろうか?」

 結は要の意見を聞き入れた。

「あんた達どうかしたんじゃないの?」

 しかし水は断固として、反対を押し切る。仕掛けられたら、その責任を取るべきだと思っているらしい。

「中央部は何をしているんだ?……話し合いもしないつもりなのか?」

 疑惑が生まれた。

 そんな時、地震が起こった。

 何時の間にこんなに酷い地震が来るようになったのか……その揺れは、今までに感じた事のない程大きな揺れであった。

 周りの物に掴まりその地震に耐える三人。長い地震は、程なくして何とか収まった。

「歪みを潰す事と何かかかわりが有るのかも知れないな……」

 要は思った事を素直に言った。

「何かの秩序を壊しているのかもしれない……」

 結はその可能性が有るのではないかと思い始めていた。


『シェミハザ』は、気持ちの良い女性であった。何に関しても、速やかに行動出来る。

「『アスタルテ』どう?魔界も捨てた所じゃないでしょう?」

 そう言う『シェミハザ』の顔はにこやかであった。

 そんな彼女に共感が持てた。

「そうね。住めば都。とは恐れ入るわ?」

 こんな火山帯にいるのに、アスタルテは、慣れ始めていた。

「ほら、あそこよ。『魔天道』は!」

 途中厳しい山をいくつも越えながらも、二人は疲れも見せず語り合っていた。

「なぜ、貴方はこの魔界に来る事になったの?」

 気さくにアスタルテは『シェミハザ』に問いかけた。

「言うなれば、親殺しの罪『受胎告知』昔は、『ガブリエル』様がしていた仕事だったけど……今ではマザーコンピューターが支配しているでしょう?そこの意識にちょっとした思いで、受胎するアンプルを摩り替えてしまったの……」

「何故そんな事を!?」


―永久犯罪だ―


 と、アスタルテは思った。

「私は、自分の子供が欲しかったの。でもそれが適わない身体だと知った時に、怒りが込み上げて来たの……不様だなって!」

『シェミハザ』は答える。

「そう、愛していた人が居たのね?」

「ええ……罪だとは知っていた、だけど、どうしようもなかった」

 ふさぎ込む『シェミハザ』。

「……」

「その事がバレた時、私は『ウリエル』様に身柄を渡され、この魔界に降り立ったの。でもここは良い所よ。愛する者に何時でも話し掛けられる……愛しあう事ができる」

「シェミハザ』は、なおも続けた。

「私の愛する人も、私の事を追い掛けて来てくれたわ……第一級犯罪。『憤怒』の罪を彼って……」

「そして、この世界のどこかにいるのね。もう出会ったの?」

「ええ、今、私は幸せよ」

 その言葉に、心が熱くなったのを感じた。

「さあ、もう少しよ!頑張りましょう!」

 と、『シェミハザ』はアスタルテに言う。

 こんな『シェミハザ』を見て、アスタルテは悩んでいた。


―私がこれからする事は正しい事なの?―


 心から迷っていた。

―この魔界で、幸せでいる者を裏切らなければならない。『サタン』の言葉、あの事も気になるでも相談出来る者はいない……―


しかし、アスタルテは、天界人である。


―ごめんなさい……―


 次第に近付く『魔天道』。

 アスタルテは、耳のカフスに指を持って行った。


―私こそ、罪人ね……―


 そう心に思った瞬間、ボタンを押した。

 それから程なくして、大きな暖かい光に包まれて、アスタルテは、この地を去ったのである。


「晶先輩!」

 現れたシルエットに向かって水が駆け寄る。

「ただいま、戻りました」

 それは、六日目の明け方のことであった。

「ご無事で何よりでした……」

『ウリエル』が晶に話し掛ける。

「他の皆は?」

 辺りにいないことに気付き、問いかける。

「貴方で、四人目です。もう後一日しかないのに、後の二人がこの地におりません」

「何ですって!?もうそんなに時間が経っているって言うの?」

 魔界での日々はたったの二日である。

「時間の流れが違うのです。これは私の計算ミスですね……」

『ウリエル』は頭を抱えていた。

「落ち込まないで下さい。それが始めから解かっていたら、私一人で行っていたら、ここに戻って来る事など出来ませんでした……」

 と、晶は『ウリエル』を励ますかのように話しかける。

「で、後二人とは?」

「『ラファエル』殿と、『セラフィム』殿です……」

『ウリエル』は答える。

「あと、一日と、半日……」

 そんな所に、要と結が顔を覗かせた。

「晶ちゃん!」

 要が嬉しそうに駆け寄る。

「心配掛けたようね……ごめんなさい」

 頭を下げる晶。

「無事で、本当に良かった!」

 と、結が続ける。

「『ウリエル』殿?ところで、これから中央部に行きたいのですが。一台船を用意して頂けませんでしょうか?」

 『ウリエル』の方を見上げながら、晶は問う。

「どうしたのです?『トロンズ』長こんな早々に!少し休まれた方が……」

『ウリエル』は不可思議な晶の言動を問う。

「そう言う訳には行かなくなったのです!」

「えっ?」

 四人は、晶を見る。

「改めて、魔界の『サタン』と話をしなければなりません……こちらの歪みと地震について……話によっては、これ以上勝手な事は出来ないかも知れませんゆえ……」

「それは一体どう言う事なのですか?」

「私違『トロンズ』は中央部に所属する者。上からの命令で動いて来ました……しかし、本当にこれで良いのかという疑問が生まれたのです……」

 考える所があると、晶は唱えた。

「それじゃあ、やはり何か有ると言う事ですか?ここ数日地震は酷くなる一方だ」

『ウリエル』はそう答える。

「晶ちゃん?」

 要は、自分の中に生まれつつある疑問を晶も感じ取ったんだと思った。

「結も来てくれますよね……あなたの地位も、中央に属する者。あなたの発言も必要となり得ますから……」

 その言葉に結も決心していた。

「オレも行きます!地位的には下っ端なんだろうけど……オレの証言も必要だろ?」

 要もそうしたいと思った。

「晶先輩が行くんだったら、私も!」

「いえ……あなたは、北の地『玄武』に行きなさい。そして、『ガブリエル』殿の手伝いをしなさい!」

「えっ!?でも……」

 水は思いっきり渋った。

「でも……ではありません。今、この天界の北の地をあなたのお姉さんが、一人で切り盛りしているのですよ……手伝って差し上げなさい!」

 と言うと、晶は『ウリエル』に進言する。

「船の用意が出来たら教えて下さい!出来れば、『セラフィム』殿と『ケルビム』殿が戻ってくださったらとは思うのですが、これ以上は待ってはいられませんゆえ……」

 そして、レーダーを眺める。

 既に、五つの歪みが消滅してしまった。

「『ウリエル』殿。カフスのボタンが押されない限り……引き戻す事は出来ないのですか?」

 と、晶は問う。

「ええ、そう言う仕組みにしたものですから……押さない限り、こちらからはどうにも出来ません」

 残念そうに答える。

「そうですか……分かりました。では、後のこと宜しく御願い致します」

 そういうと、近くの椅子に腰を掛けて仮眠をとりはじめる晶。

 その様子を眺める四人であった。


 仮眠をとった晶が目覚めると、用量された簡易版の船に乗り込んだ。

 七日という期眼の内、あと丸一日を残して、中央部へと向かう。

『セラフィム』、「ケルビム』の帰還もなされないまま、誰もが張り詰める緊張の中、晶に全てを託していた。

「では、『ウリエル』殿。もし、二人が帰って来たのであれば、中央部に乗るように伝えて下さい。お世話をおかけ致します」

 そう言い残すと、晶と結、そして要はこの西の地『白虎』を旅立った。

 残された『ウリエル』と水はそれを見送っている。

「では、『ミズチ』殿。あなたも、一刻も早く北の地『玄武』へ旅立たなくては行けませんね」

 と、今もなお、その船を見送っている水に向かって『ウリエル』は告げる。

「……そうでしたね」

 気のない返事に、

「やはり、一緒に着いて行きたかったのですか?」

 と優しく言葉をかける『ウリエル』。

「そうですね……でも晶先輩は、私の使命を果たすようにおっしゃったのです。だからそれに従います……」

 そういうと、思いを断ち切るかのように、『ウリエル』を振り返った。

「では、小一時間もすれば『玄武』から送迎の船が来ます、それまで中でお待ち下さい」

「御迷惑をおかけします」

 そう言って二人は、『ウリエル』の部屋へと入っていった。


「『ウリエル』様。取りあえず今の所は別段何の変化も見られません」

「大儀であった……下がって良いぞ」

 と、近衛兵に伝える。

 晶遅の船を見送る間、レーダーに変化がないかを監視させていたのである。

 それからの二人は、そのレーダーの前に立っていた。

 依然と何の変化も見受けられない。

「『ウリエル』様は、何故地球へ転生されなかったんですか?」

 水はふと、今まで感じてた疑問を投げかけた。

「私が?地球へ?」

「そうです。だって変ですよね……私の姉『ガブリエル』や、兄『ラファエル』は転生していたと言うのに……」

「私は、天界の死活を維持しなくてはいけない使命を受けた者、これに関しては、コンピューターで補う事は出来なかったからです」

「コンピューター?」

「そう。この天界は、今では『マザーコンピューター』と言われる物が全てを担っているのです……そのため、必要であるもの以外は、地球や、その他の生命が生きて行く事ができる惑星へと転生しています」

「私達にはその……必要がなかった類に入るのですか?」

 少し心外だという風に水は問いかける。

「必要が無い……と言うには言葉が悪かったようですね。天使である……天界にいる要素が不可欠で無くなった者は人員削減のため……そう言う魂の流れを作ったのですよ。『マザーコンビューター』は……」

「その、『マザーコンビューター』って見た事有るんですか?」

「ええ、建築のおり、一度だけですが」

「一体誰が作るように言ったのですか?」

 そうそれが問題だ。

「今では、その発案者が誰であったかは分かりません……中央部に行けば分かるかも知れませんが……それが?」

 逆に問いかける『ウリエル』。

「何だかうさん臭いから……だって変じゃないですか?天使の手で出来ない事だけを押し付けて、そうじゃない者には転生させているなんて……」

「言われてみれば……そうなのかも知れません……しかし、聖戦を終え、この数干年もの間、ずっとこの体制を敷いて来ました。誰も不思議に思う事もなく」

「もし、今度のような事が起こってなかったら……私達は、この地に来る事はなかったの?」

「そうです。危機迫った事がない限り、この天界にお呼びする事はなかったハズです」

 その言葉に、考えるふうにしている水。

「私達の役目が終わったら、また再び、地球へと、戻されるのですか?」

「もちろんです。そのために『トロンズ』長は計らっています」

「晶先輩が?」

「そうです。一度、地球での魂の一生を終えない限り……本当の転生は出来ない決まりですから」

「それじゃあ、私達の記憶は?」

「記憶は私が消させて頂きます」

 静かな物言いだった。

「……来なければ良いのに……」

『ボソリ』と水は言った。

「えっ?」

「ううん。何でもない!」

「……」

 水は、後ろに有る椅子に腰を掛けた。

「それにしても遅いわね……」

「そうですね。こんなに、各自バラバラになる程……時の進み方は違うのでしょうか?不安になります」

 この六日間の事を『ウリエル』は思い出していた。

「魔界では、たったの二日間だったのよ?」

 とは水の言葉。

「変ですね。地球とここでの時の流れ方は、計算できます。もちろん、魔界での時の流れも……こんなになるなんて思ってもいませんでした……まさか!!」

 と、『ウリエル』はいきなり声を荒げた。

「えっ?どうしたの?」

 驚く水。

「……これまでの異蛮で、すべての時間に狂いが出来たのでは……!?」

 と、拳を振り上げるようにしてレーダーに叩き付ける。

「一体どう言う事?」

 突然のことに、立ち上がる水。『ウリエル』のこう言う所を見た事が無かったからだった。

『ウリエル』は、突如、レーダーから離れ、近くの機械類に手を伸ばした。

「やっぱり……大変な事になった」

 その様子を追い掛けるように覗き込む水。

「こ……これは?」

 それは、小さくはあったが、モニターであった。

「これってどう言う事!?」

 そこには、地球の自分の器を救急車で運んでいる姿が映し出されていた。

「確か、ここでの一日が地球では、百分の一秒だって事じゃなかったの……!?」

 そうである。ここに着いてから一週間そこらだと言うのに、この有り様はおかしかった。

「秩序が……壊れかけている……」

『ウリエル』は小さく咳いた。

「こうしてはいられない!すぐに、『トロンズ』長にお知らせせねば!!」

 そう言うと、『ウリエル』は身を起こし、無線機の有る所まで駆け出した。

 その時である。レーダーに赤い点が輝き始めたのは。

「『ウリエル』様!」

「こんな時に!?」

 そう言った、『ウリエル』に、その赤く光った地点を確認し、無線を使った。

「「ガブリエル』殿、北の地7.9地点に歪みを発見しました。速やかに、処理願います!」

 拳をきつく握りながら『ウリエル』は伝える。

「北の地?」

 水も焦っていた。

「はい、了解致しました!」

 と、『ガブリエル』より直接返事が帰って来る。

「私も行きます!『ウリエル』様!送迎の船はまだ来てませんが……この西の地からもそう遠くはないようですね。姉上にお伝え下さい。そして、これにて失礼します!」

 そう言うと、水は駆け出していた。

「『ガブリエル』殿!『ミズチ』殿もそちらに参られます。着きましたら、少しお待ち下さい」

「水が?分かりました。ありがとう」

 そして、無線は途絶えた。

「我、この地から呼び戻す。我の支配に有るカフスを持つ者よ!今一度この地に戻りたまえ!」

 その後、直ぐさま『ウリエル』は行動を起こす。その両手から放たれる光は、神々しい光の渦となって一人の像を描き出した。

 そして暫くすると、そこには鎮の姿が浮き上がったのである。


「ご無事で何よりです……」

『ウリエル』は近付いて鎮に声をかける。

「少し手問取っちまった。二日後に帰って来るという『ダネル』を待っていたんだ。だけど、四日経っても帰ってこない。心底間に合わないかなって思ってたんだ」

 その言葉に、

「では、魔界ではどれだけの時間を過ごしたのですか?」

『ウリエル』は不思議な気分に陥った。

 確かに時間のズレが有るはず。

「六日は経っていた」

 しかし、同じ時間の流れだ。

「……」

『ウリエル』は考えていた。


―どう言う事なのだ?選んだ道の違いで、これだけの誤差が出るとは……―


 沈黙する『ウリエル』。

 その理由を知らずに、鎮は問いかけた。

「後の皆はどうしたんだ?もう帰って来てるんだろう?」

「……」

「おいっ?どうしたんだ?『ウリエル』さん!?」

 鎮が問いかける。

「……ああっ。すみません。考え事をしてたものですから……」

「他の皆は?」

「ああ、ええ……『セラフィム』殿以外は戻って参りました……今、中央部へと参られています」

 その言葉に、

「道がまだ戻っていない……?」

「ええ、天界と魔界では時差が生じているんです……そのために、みなさん、ここに戻って来る日がまちまちで……『ケルビム』殿が初めてです。同じ時間を過ごされた方は……」

「何だって?時差?」

 恐ろしい気分に陥った。もし間違っていたら、二度と天界に戻って来れなかったかもしれないなんて……

「そう、『トロンズ』殿からの伝言です。この地に戻ったら、中央部に来て欲しいそうです。ただちに船を用意致しますのでそれまで待機して下さい」

『ウリエル』はそう言うと、まず晶に連絡をしようと無線機に手を伸ばす。

「こちら『ウリエル』。『トロンズ』長に内密なお話が有りますので、変わって頂けませんか?重大な事です!」

「了解致しました!暫くお待ち下さい!」

 そういうと船員は晶に変わるように連絡をつける。

 その刹那の間に、

「「ウリエル』殿。申し訳ないんだけど、オレが中央部に行くのを待ってもらえるか訊いてもらえないか?」

 と、鎮が持ちかけた。

「……『ケルビム』殿?何を言って?」

「良いから!黙って言う事を聞いてくれ……」

「……」

 その、鎮の真剣な面持ちに圧倒された『ウリエル』は黙って頷いた。

「こちら、『トロンズ』。『ウリエル』殿、如何致しました?」

「落ち着いてお聞き頂きたい……どうやら、魔界だけではなく、地球に対しても時差が出来ているようです。少なくても、一分以上の誤差が出ています……これが、この天界の異変と何か係わりが有るやも知れませんゆえ、お伝え致します」

「何ですって!一分……それでは、これ以上の長居が、地球での結達の生死に係わると言うのですか……何てこと……」

「あと、ただ今『ケルビム』殿が帰還されました……しかし、中央部に行くのは一度見合わさせて頂きたいとの申し出です」

「……そちらに関しては、承知致しました。『ケルビム』殿に一任致しますと言付けて下さい……」

「それでは、以上の報告を終わらせて頂きます」

「御苦労榛です。『ウリエル』殿」

 晶がそう言うと、『プツリ』と無線は切れた。

 後には静けさが戻って来る。

「『ウリエル』殿。申し訳ないが、もう一度、魔界にオレを戻して下さい!」

 その申し出に、

「何を莫迦な!?」

 と、驚きの表情の『ウリエル』。

「莫迦な事は承知の上です。でも、道があの場に残されているのは、どうしても我慢ならないんです……今思えばあの時……確かに道の声を聴いたんだ……何かが起こっている可能性が有る……それを確かめに行きたい」

 と、鎮は一歩足を踏み出して言い寄る。

「しかし、危険です。時差が……」

「分かっています。そこを何とか……」

「……」

 『ウリエル』視線を外す。

「このカフスに、天界の時間を刻む事は出来ないのですか?」

「……出来なくは有りません……ただし、魔界特有の磁気などが働いたら、全く使い物になりませんよ…」

「それなら大丈夫だと思いますよ。だって、しっかりと、こちら側のレーダーは働いていたのだから!」

「なる程……」

 鎮の言葉に一理有ると思った。

「分かりました。ただし、必ず戻って来るのですよ。そうして頂かないと……」

「判ってる。祈っていてくれ!道のいる場所の時差が、ここより遅い事を!」

 そう言うと、鎮ははめていたカフスを『ウリエル』に渡す。

 そのカフスに細工するのに、三十分掛けてやっと出来た。

「これが、この天界を指し示す時刻です。と、言うより残り時間の方が解かりやすいので、その時間を刻み込みました。かならず『セラフィム』殿を連れて帰って下さい。約束ですよ!?」

「ああ、判っている……オレだって、あんな魔界に居たくなんかないからな」

 そう言うと、鎮は再び魔界に行く支度を始めた。

 一度入った道、その道をまた辿るなどとは思ってもいなかった。ただし今度は、たった一つの部屋に入る事になる。

 目的地は一つであった。

「『サタン』に不審がられないように名前をすり変えておきました。こちらが手形です。

何分偽造なので怪しい所が出るやも知れませんが上手く切り抜けて下さい」

 そう言うと、『ウリエル』は手形を渡した。

「感謝致します」

「御武運を……」

 そういうと、再び魔界への道が開かれ鎮は旅立って行った。

 その姿を見つめる『ウリエル』。

「神よ、あの者にご加護を……」

 静まっていく砂吹雪。

 その視界から離れた所から『ラファエル』が見詰めていた事など知る由もなかった。

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