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ARK  作者: 星河 翼
11/16

#11JEALOUS

▼JEALOUS▼


『嫉妬』と刻まれたその扉を開いた。その中は、雷鳴が鳴り響く暗闇であった。

道自体は、石畳で作られているらしく、歩く度に『カツーン、カツーン』と辺りを反響させている。

 扉が閉ざされた時、稲光りと供に光が走った。

「うわっ」と、退くリヴィアタン。

 その時、思い起こしいていた。


―男として生まれて来たと言うのに、何故だか小さい頃から雷と言う物が苦手であったな……―


 条伴反射的に、その音その光で身を引いてしまう。

 でもそんな事を気にている暇などなかった。


―ここで、根を上げたら天界に戻れない―


 すぐさま足を進める。


―そのためには、全てを断ち切る他ない―

 

 リヴィアタンは一歩一歩確実に足を進める。道は闇の中何処までも続いている。そして、止む事のない雷鳴。


―そう言えば、あの日もこんな天気だったな―

 

 と、ふと思い出していた。

 もう二度と思い出したくない出来事。弟である鎮に告白を受けた日の事だった。


―莫迦じゃないか……あいつは!―


 雨の降りしきる日。雷鳴をも伴っていた。

 突然、奴はオレを抱き締めて、

「愛してる」

 と言ったのだ。

 その行動に、どうしても身が竦んで反発できなかった。ただ、恐かった。雷鳴が……そして鎮の事が…そして……。


―思い出しただけで腹が立つ。あいつが天界に来てまであんな事言うから、こんな時に思い出してしまう……どうしてくれるんだ!―


 そんな自分に嫌気がさす。

 そんな事を考えながらも、リヴィアタンは黙々と足を運ぶ。


―思い出さないようにしよう…―


 ただ気持ちを鎮めたかった。しかし、次から次に思考はその事で一杯になる。

「道兄……」

 何時かしら、鎮が自分を呼んでいる。そんな声が、幻聴となり聴こえて来る。

「止めろ!」

 リヴィアタンは、次第に聴こえるその幻聴から逃れるために走り出していた。

『カツーン、カツーン』

 その足音はだんだん早くなる。

 雪鳴の間隔さえ早くなった気がする。

『何で……光一の約束に応じたりなんかしたんだ……オレの約束は……』

押し寄せて来る記憶の嵐。

「五月蝿い!黙れ!」

『カツーン、カツーン、カツーン、カツーン』音はそれから逃げるかのように鳴り響く。


―誰もオレの事なんか分からない!―


 どれだけ走ったか分からない。次第に近付く視界の先に、一つの扉を見付けた。

―やった、これでゴールだ!―


 その扉を開く。

 そこには自分自身の姿があった。それが鏡に映った自分の姿であるのに気付くのに少し時間が掛った。

 遠くで雷鳴の音が聴こえている。


―悪趣味な世界だ―


 リヴィアタンは思った。

 四方を鏡で覆った世界であったのである。

 暫く立ちすくんでいた。


―ここが歪みなのか?しかし、天界の空がない……―

 

 早く見つけ出し、この場を立ち去りたかった。

 すると、鏡の中の自分が突然座り込んだ。その事に気付かずに、未だ立ちすくんでる。ようやっと、その姿に気付いた時、

「なんだ……これ?」

 と、声を出していた。

 まるで、自分自身を抱き込むかのようにうずくまっている自分。

「ようっ!」

 その顔が幽かに持ち上がったかと思うと、こちらを見た。

「何だ……お前?」

「オレか?オレはお前」

 四方に囲まれたその鏡の中の自分が答える。そして、

「本当の自分だ……」

「何だと?オレが本物だ!ふざけた事言うな!」

 リヴィアタンは己の胸に親指を押し付けて叫ぶ。

「お前は知らない……オレが本物だ」

 なおもその虚像はそう言う。

「オレの知らない?」

「そうだ、こちらに来い!案内してやる」

 そう言うと、鏡の中の自分の腕が伸びて来た。そして、リヴィアタンの腕を掴む。

「いたっ……」

 力強く掴まれ腕は、その鏡の中へと促される。

「こちらに来い!今見せてやる。お前の本当の姿を!」

 そして、鏡の中に引きずり込まれたリヴィアタンは、渦巻く闇の中その姿を見た。

「……ば、莫迦な……」

 そう言うと、その先に見た者は、まだ小さな少年の道の姿をしていた。

 その少年はリヴィアタンに手を差し伸べている。

「お兄ちゃん、こっちへおいでよ」

 無邪気に呼び掛けて来る少年。

「こっちに、面白い者が見れるよ!」

 そう言った少年に導かれてリヴィアタンはその少年の手に導かれてその方へと進む。

「これは……」

「嬉かしいでしょ?弟が誕生するのを心待ちにしていた瞬間だよ!」


―三歳の自分……。そう、母親が鎮を出産する日に居た病院だ!―


 この日、初めて弟ができると言う事で、父に連れられて、この病院で、今か今かと待っていたその時が目の前に映し出されていた。

「おとうさん、ボクおにちゃんになるんだよね?はやくうまれないかな?」

 そう言って、心待ちにしているかのように笑っている。

「そしてこれが、弟の名前を考えている所だよ……」

 

 いきなり場面が変わる。

「ねえ、なんてなまえにするの?」

 母の手に抱かれている道。

「ボクね。かっこいいなまえがいいな〜」

 と、自分の名前を決めているかのような発言。それに苦笑いする両親。

 

 また場面が変わる。

「おかあさん!まもるがボクのおもちゃをはなさないんだ!!」

「道は、お兄ちゃんでしょ?少しぐらい我慢出来るよね?」

これは、鎮の癖で、いつも与えられた玩具を投げ出しては、道の玩具を奪っては遊んでいた時の場面。

「鎮ちゃん待ってよ!」

 

 鬼ごっこしている時の場面、

 次々と過去の自分の姿が流れて行く。

 何時も何時も、鎮が側にいて笑いかけて来る。そんな懐かしい場面が……

 しかし、成長して行く鎮に抱かれている自分の姿。

 その場面が流れた時。

「やめろ!!」

 と、リヴィアタンは叫んだ。

 振り向く少年の道。

「どうしたの?これは望んでいた姿じゃないか?」

 と、冷ややかな顔で語りかけて来る。

「違う!こんなのオレじゃない!」

「どうちがうの?確かにボクの望んで来た姿じゃないか……鎮のことを愛し、そして嫉妬して来た君の姿!」

「黙れ!」

 少年の姿が己の涙で霞む。

 そんな折、声が聞こえて来た。

「ようこそ、この『嫉妬』の地へ参られました、リヴィアタン殿!」

「誰!?」

 辺りを見回す。

 そこには、一人の女性が立っていた。

「過去の自分の罪。如何でしたか?お気に召しましたでしょうか?」

「……お前は誰だ!?」

 と、訊き返すリヴィアタン。

「私は、ここの領主『シャリート』別名『リヴィアタン』と、申します」

「リ、リヴィアタン?」

「あなたの本来の姿であり、『サタン』様の命令で、今まであなたに変わってこの地を治めて参りました。が、あなたがこの地に足を運ばれた瞬間、今一つになり、これからの魔界の一つの砦を担って行く者です」

「オレが、お前だって!?」

「そうです。これからは、打倒『天界』を目指して共に頑張りましょうぞ!」

 そう言うと、リヴィアタンの身体は、その『シャリート』に引きずり込まれるかのように、魂を投げ出していた。

 こうして一つになる。

「これで私達は、やっと完成したのです。それでは、屋敷に戻りましょう」

 渦巻く暗闇の中、一つになった『シャリート』は、導くように、足を館の有る方へと運び出した。


―オレが……オレの使命は……―


 しかし、リヴィアタンのその意識は、『シャリート』に支配されて成すすべがなかった。

―ま……鎮……―


 最後に残した魂は鎮を呼んでいた。

 しかし二度と、リヴィアタンは目覚める事はなかったのである。

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