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ARK  作者: 星河 翼
10/16

#10GREED

▼GREED▼


『貪欲』と刻まれたその扉を開く。

すると、何処までも続く氷の道が続いていた。

『キーッ』と閉まる扉。周りが暗くなる。

しかし暫くすると、その氷から光が生まれたらしく、ぼんやりと明るくなった。

トゥナは、もともと『ミズチ』であるがゆえに、この氷の道はそう大して苦には成らなかった。

途中、階段が続く道。そこをまるで滑るかのように駆け下りる。

床になった所は、スケートでもするかのように足を滑らせる。すると、螢のような光が辺りにちりばめられた。


―なんて綺麗……―


と、トゥナは思った。魔界だと言う気がしなかったからだ。

ふと、旅の途中で話をしていた、七つの大罪の事を思い出していた。


―大罪に見立てた歪みか……何とも粋な趣向じゃないの……―


と、憶えているその言葉に今一度、アスタルテの事を思い浮かべていた。


―先輩も今頃、私と同じように扉の向こうの世界を目指してるんだろうな……―


とは、昌先輩を助けるために挑んだこの魔界行きの決断だったためである。


―これからは、自分自身の考えで行動しなきゃいけないんだ!―


そう思うと、ふと心寂しくなった。


―ダメダメ!強くなんなきゃ!そして、成功させなきゃ……二度と先輩に会えなくなっちゃう―


新たに、心構えをするトゥナ。

程なく、この通路の終わりが見えて来た。

そして、ぶち当たったその扉を開く。

地底の街であるらしく、氷で覆われた、空のない空間がその先にはあった。

『キョロキョロ』と、辺りを見渡す。

行き交う人々は、自分と同じ爬虫類の羽根を持った者が忙しそうに歩き回っていた。

その中を、今来たばかりのトゥナは目配りをしながら、一部に寄ってたかっている人の集団を見付け、そこに向かって歩き始めた。


「号外!号外〜!!」

紙切れを振り撒く魔界人が、三人掛かりでそれを行っていた。

「なんと、あの、『暴食』の地が天界人によって閉ざされたんだとよ〜!!」

「これから、この魔界もどうなってしまうんだろうねえ……」

「『サタン様』!万歳〜!!」

その周りにいる者達はいろいろな事を言っている。

「ちょっと、失礼……」

と、その集団の中に割って入るトゥナ。

そして、一枚のそのばら撒かれている紙を手にとった。

そこには、『暴食』の地の事が列ねられた言葉が書かれてあった。

「『暴食』の地、敗退する。支配領主『ベルゼブブ』その任を解かれ、只今死刑までの日数を数える……」

見出しはこうであった。

「……」

その集団を抜け出し、トゥナはその紙切れに一通りの目を通していた。そんな折り、

「あれ?彼女!新参者だね?それだったらここの領主様に一度顔見せしておかなきゃダメだぜ!」

と、声を掛けて来る一人の魔界人に出会った。

「領主様?」

「そう、この『貪欲』の地では、何より先にそれを初めにしなくちゃiけない事なんだ……もっとも出世をしたければね?」

そう言うと、その魔界人は立ち去ろうとしていた。

「ちょっと待って!その領主様って何処に住んでるの?」

トゥナが問う。

「ああ、この通りを抜けて、左に曲がった所に住んでいらっしゃる……なんなら、付き合ってやっても良いぞ?」

「いいえ、結構。自分で行くわ!」

「なんでえ。気が有るのかと思ったぜ!一つ忠告しておくけどな、この地では自分の事第一に考えて生きてる者が大半だ!他人に何かを要求するには、それだけの報酬を考え動くんだ。お前が何かをオレに託さない限り、答えをやったオレの気が済まないって寸法だ!」

その言葉を聞いて、トゥナは面喰らった。

そして、怒りが込み上げて来たのである。

「そう?……でも私はあなたの力が欲しいって思った訳じゃないの。悪いけど、今あなたにあげられる物なんてないわ!有るならこれだけね……」

と、にっこり徽笑むと、手に持っていた紙切れを渡す。そしてトゥナは歩き始めた。

「……」

その言葉を聞いた魔界人は、その様子を見届けて一言、

「莫迦ヤロー!!」

と叫んだ。

 その声を聞かない振りして、『スタスタ』と歩くトゥナ。


―何てとこなの、ここは!―


 悪意の言葉が心の中を駆け抜けて行った。


 あの魔界人が言っていた、領主の館が近くに来ると、どう言って入ろうかと悩んだ。

 果たして、取リあえずの顔見せでここを訪れて来る者なんているのであろうか?

 それほどに大きい屋敷であった。仕方なく、呼び鈴を鳴らしてみる。すると、執事らしき男が顔を覗かせた。

「あの、ここに来て初めての者なのですが、領主様にお目通り致したく参上致しました」

 その言葉に、にっこりと笑って対応する執事。

「顔見せの方ですね、どうぞお入り下さい。奥の間に御案内致します」

 そう言うと、執事の後を着いて歩くトゥナ。

 きらびやかな装飾品、それに多くのメイド達。まるで、王様でも住んでいるかのようである。


 奥の間に着き、

「顔見せのお客さまが参りました」

 と、軌事がその扉の前で声をかける。

「よろしい。入りなさい」

 中の住人が答えるのを聴いて『ガチャリ』と、その扉が開かれた。

 中には、数名の美女をはべらせた大柄の男がごつい椅子に腰掛けている。

「そちの名前は何と申す?」

 思った通りの野太い声が返って来た。

「初めまして、トゥナと申します。お見知り置き下さい」

 ここは、静かに礼を尽くそうと思った。

「トゥナ。大儀であった我の名は『マモン』……で、そち。特技など有るか?……この地では、少しでも特技が有れば、出世の道が開かれる。何でも良い。申してみよ!」

「はい、私は御覧のとおり天使では有りませんでした。しかし、もともと水を操る特枝を持っております。もちろん、氷をも操る事が出来ます。以上です」

 とだけ述べる。

「ほう……氷を操る事ができるとそう申すのか?」

「はい」

「では、明日からそちに、魔天道建設の任を与えてやろう」

「魔天道?」

 トゥナは何の事か分からないとでもいう風に訊き返す。

「『サタン』様直々に頼まれた、天界への道を建設し、守ることを任務とする仕事じゃ」

「わかりました。私にそのような大任を与えて下さり誠に有り難うございます」

 深々と一礼をする。

「北の地にて行っておる。案内する者を与えてやるから、頑張って仕事に励みなさい」

「期待に添えるように、頑張らせて頂きます」

 そういうと、この部屋を後にした。通り抜ける通路。そのきらびやかな通路を、一瞥しながらトゥナは思っていた。


―なんて事?こんなに早くに歪みに行けるなんてラッキー!としか言い様がないわ!!―


 しかしその心の裏で、


―でもこの地を潰す事で、ここの領主は死刑になる…―


 心のどこかで引っ掛かる物が有るトゥナであった。

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