幕間 呼ばないという選択
ルミナは、呼べば来る。
それは、今も変わらない。
名前を呼べば、応えてくれる。
境界の向こうで、必ず気配が返る。
それでも――
エレノアは、呼ばなかった。
理由は、はっきりしている。
呼ばない方がいい、と分かっていたからだ。
「……頼らない、っていうのとも違うんですよね」
独り言のように呟いて、
エレノアは小さく息を吐く。
ルミナは、力だ。
相棒だ。
心強い存在だ。
でも、それ以上に――
エレノアが前に進むことを、ちゃんと信じてくれる存在だった。
「……今、呼んだら」
自分が、少しだけ楽になる。
迷いも、不安も、半分になる。
それを、ルミナは分かっている。
だからこそ。
「……今は、来ないでいい」
その言葉は、拒絶ではない。
距離でもない。
信頼だった。
呼ばなくても、関係は切れない。
見えなくても、失われない。
それを、お互いが知っている。
「……私が、一人で立てる間は」
そう呟いた瞬間、
胸の奥に、静かな温度が残った。
不安が消えたわけじゃない。
怖さも、迷いも、ちゃんとある。
それでも――
誰かに預けなくても、崩れない自分がいる。
その事実を、
ルミナはきっと、喜ぶ。
「……大丈夫」
誰に向けた言葉でもない。
でも、確かに届く相手がいる。
境界の向こうで、
呼ばれなかった気配が、静かに応える。
応えないことで、応える。
それが、
今の二人の距離だった。




