表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わない召喚士エレノアの異世界記録 ――名を受け取り、世界に触れる  作者: ぷにゅん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/114

第68話 噛み合わない地図

集まったのは、昼を少し過ぎた頃だった。


工房の中央に置かれた長机。

その上に、地図と報告書、素材の小袋が広げられている。


「久しぶりだね、エレノア」


ミラは、少し日焼けした顔で手を振った。


「……お久しぶりです」

「遠方に出ていると聞いていました」


「うん。採集の依頼が続いてて」

「でも、変だったから戻ってきた」


その“変だった”という言葉に、

周囲の空気が、少しだけ張る。


リネアのほかに、

調査屋が二人。

鍛冶系の職人が一人。


専門は違う。

見ている場所も違う。


でも、

全員が「おかしい」と感じている。



「まず、港町の件から」


調査屋の一人が話し始める。


「潮位は正常」

「魔力反応も薄い」

「なのに、船が出ない」


「原因不明?」


「原因はある」

「ただ……説明できない」


次に、山間部。


「水車は壊れていない」

「水も流れている」

「でも、力が乗らない」


「素材の質が落ちてるわけでもない」


職人が首を振る。


「作れはする」

「ただ……仕上がりが、鈍い」


その言葉に、

ミラが小さく息を吸った。


「……畑も、似てます」


視線が集まる。


「育つ」

「枯れない」

「でも……“伸びが遅い”」


「土が悪い?」


「違う」

「土は、ちゃんとしてる」


ミラは、少し迷ってから続けた。


「……手応えが、薄いんです」



エレノアは、

それらを一つ一つ、繋いでいく。


港。

山。

畑。

工房。


(……全部、機能はしている)


壊れてはいない。

止まってもいない。


でも――

応えが、遅れている。


「……世界が」

「即座に返事をしなくなっている」


ぽつりと出た言葉に、

全員が黙った。


誰も否定しない。

でも、肯定もできない。


「……原因は?」


リネアが聞く。


エレノアは、

一瞬だけ言葉を探した。


「……切られた場所があります」


視線が集まる。


「正確には」

「守るために、離した」


「それで?」


「支えが、なくなりました」


説明としては、不十分だ。

でも、

これ以上は、今は言えない。



沈黙。


重たい空気。


その中で、

ミラが、静かに言った。


「……じゃあさ」


「戻す、って選択肢は?」


エレノアは、すぐに首を振らなかった。


考える。


「……同じやり方では、無理です」


「でも」

「代わりは、作れるかもしれない」


その言葉に、

職人が反応する。


「代わり?」


「完全な支えじゃなくていい」

「“間”を埋めるもの」


「即応じゃなくて」

「遅れても、返る仕組み」


ミラの目が、少し輝いた。


「……畑なら」

「土と水の“間”を整える方法、ある」


「素材も」

「加工段階を一つ増やせば、吸収できるかも」


少しずつ、

言葉が重なり始める。


完璧な答えじゃない。

でも、

手がかりは、確実に増えている。



エレノアは、

その光景を見ながら思った。


(……一人で考えてたら)

(この発想は、出なかった)


境界の向こうで、

ネファル=ディアが、低く言う。


(繋いだな)


「……はい」


(切った場所を)

(別の形で、支える)


「それが……今の私に出来ることです」


ネファル=ディアは、何も言わない。


でも、

拒まれなかった。



会議が終わる頃、

全員が、少し疲れていた。


答えは、出ていない。

でも、

進む方向は、見えた。


「……じゃあ」


リネアが立ち上がる。


「役割分担、決めましょ」


「世界が下手になったなら」

「人間が、少し器用になればいい」


誰かが、笑った。


エレノアは、

その笑い声を聞きながら、思う。


(……まだ、間に合う)


理由は、分からない。


でも、

今度は一人じゃない。



その夜。


しおりは、

メモの最後に、一行足した。


※相談できる人、探す


それだけで、

少しだけ肩の力が抜けた。



世界は、まだ不安定だ。


でも、

支え合う場所が、増え始めている。


切られた余白は、

完全には戻らない。


それでも、

人の手で、繋ぐことは出来る。


そのことを、

エレノアは、初めて確信していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ