表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わない召喚士エレノアの異世界記録 ――名を受け取り、世界に触れる  作者: ぷにゅん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/114

第59話 重なり合う核

朝の光が、工房の床に落ちていた。


エレノアは机に地図を広げ、

昨夜リネアから受け取った報告書を、静かに読み返している。


海。

山。

戦場跡。

小さな集落。


場所は違う。

状況も違う。


それでも、

どの報告にも、同じ言葉が並んでいた。


――倒せない。

――暴れていない。

――理由が分からない。


「……同じですね」


独り言のように呟き、

エレノアは紙の端に、短い線を引いた。


異変の“形”ではなく、

“在り方”が似ている。


(力が過剰なわけじゃない)

(意思が敵対しているわけでもない)


なのに、

生活だけが壊れていく。


「……戦う人ほど、困る」


そう口に出した瞬間、

境界の向こうで、

ネファル=ディアの気配が、わずかに応じた。


(当然だ)

(これは戦闘対象ではない)


エレノアは、ペンを置く。


「……あなたは、もう分かってますね」


沈黙。


だが、

否定はなかった。



昼前、リネアが再び訪れた。


今度は書類ではなく、

口頭での報告だった。


「各地のギルドが、同じ判断を出し始めてる」


「……撤退、ですか」


「一時的にね」


リネアは肩をすくめる。


「深入りすると、被害が増える」

「でも、放置しても回復しない」


エレノアは、視線を地図に戻す。


「共通点は、ありますか」


「ある」


リネアは即答した。


「どの異常も、“呼ばれた痕跡”がある」


その言葉に、

エレノアの指が止まる。


「召喚陣……?」


「完全な形じゃない」

「古かったり、簡略化されてたり」

「もう使われていないはずの場所も多い」


「でも」


リネアは言葉を選ぶ。


「どこも、呼ばれ続けた場所だ」


エレノアは、静かに息を吸った。


(……やっぱり)


畑。

森。

名を失った存在。


全部、

同じ方向を指している。



その夜。


エレノアは灯りを落とし、

一人、椅子に座っていた。


考えないようにしても、

思考は自然と、同じ場所へ戻る。


「……ねえ」


名は呼ばない。

でも、問いかける。


(これは、一つの存在ですか)


境界の向こうで、

ネファル=ディアは、しばらく沈黙した。


やがて、

低く、慎重な感触が返ってくる。


(“一つ”ではない)

(だが、無関係でもない)


エレノアは、目を閉じる。


(……集合、ですか)


(近い)


ネファル=ディアの気配が、

ほんのわずか、重くなる。


(呼ばれた)

(使われた)

(忘れられた)


(それぞれは小さい)

(だが、数が多すぎる)


エレノアの胸が、

きゅっと縮む。


「……世界が、耐えられなくなってる」


(そうだ)


否定はなかった。


(世界は)

(切り離すことで、均衡を保ってきた)


(だが)

(切り離しすぎた)


その言葉は、

責めでも、警告でもない。


事実の提示だった。



翌朝。


街は、いつも通り動いている。


市場は開き、

人々は行き交い、

パンの匂いが漂う。


それでも、

エレノアの目には、

薄い歪みが見え始めていた。


誰かが、

理由もなく水を買い溜めている。


別の誰かが、

護符を握りしめて歩いている。


恐怖は、

まだ形になっていない。


だからこそ、

広がりやすい。


(……全部は、見られない)


初めて、

エレノアはそれを、はっきりと自覚した。


(全部を救おうとしたら)

(どこも救えなくなる)


境界の向こうで、

ネファル=ディアが、静かに応じる。


(理解が、早いな)


「……嬉しくないです」


(それでも)

(理解した者だけが、選べる)


エレノアは、ゆっくりと歩き出す。


次に向かう場所を、

もう一度、地図で確かめる。


点と点を結ぶのではなく、

核に近い場所を。


「……一つずつ、です」


世界規模の異変。

集合体の兆し。


それでも、

向き合い方は変わらない。


一つの声に、耳を澄ます。

一つの関係を、ほどく。


その積み重ねしか、

この世界には、残されていなかった。


境界の向こうで、

ネファル=ディアは、歩調を合わせる。


切るべき時が来るかもしれない。

だが――


まだ、来ていない。


その判断を、

二人は共有していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ