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戦わない召喚士エレノアの異世界記録 ――名を受け取り、世界に触れる  作者: ぷにゅん


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第46話 壊れかけた契約のそばで

街の外れは、

いつもよりざわついていた。


空気が、

少しだけ荒れている。


エレノアは、

その違和感を

足先で感じ取った。


「……魔力が、

 乱れてますね」


遺跡とは違う。


古くもない。

深くもない。


けれど――

雑で、痛い。


「……ルミナ」


呼ぶと、

すぐに応えが返る。


――近い。


それだけで、

胸の奥が引き締まる。


エレノアは、

音のする方へ歩いた。


人だかりの向こうで、

魔法陣が

まだ微かに残っている。


焦げた地面。

乱れた線。


「……強引に、

 引きずり出しましたね」


中心にいたのは、

若い召喚士だった。


息が荒く、

顔色が悪い。


その前に――

“何か”がいた。


形は、

人に近い。


だが、

目が合わない。


視線が、

どこにも定まっていない。


「……」


エレノアは、

一歩、距離を取った。


戦うためではない。


近づかないために。


「命令しろ……!」


若い召喚士が、

叫ぶ。


「契約は成立してる!

 言うことを聞け!」


返事はない。


だが、

空気が軋む。


「……」


エレノアは、

その場に立ったまま、

声を張らなかった。


代わりに、

ゆっくりと話す。


「……あなた、

 名前を聞いてますか?」


若い召喚士が、

振り向く。


「何だ、あんたは!」


焦りと怒り。


「……召喚士です」


それだけ。


「でも……

 戦いに来たわけじゃありません」


「じゃあ、

 何しに来た!」


エレノアは、

視線を

“召喚された存在”に向ける。


「……話を、

 聞きに」


空気が、

一瞬だけ止まった。


若い召喚士が、

笑う。


「馬鹿なことを……

 こいつは、

 呼ばれたんだぞ!」


呼ばれた。


「……はい」


エレノアは、

否定しない。


「でも……

 選んだかどうかは、

 別です」


その言葉に、

若い召喚士の表情が

歪む。


「選ぶ……?

 契約したんだ!

 魔法陣が、

 証拠だ!」


「……魔法陣は、

 拘束です」


エレノアは、

淡々と言う。


「契約ではありません」


ざわ、と

周囲が揺れる。


「何が違う……!」


若い召喚士の声が

震え始める。


エレノアは、

一歩、前に出た。


でも、

境界は越えない。


「……あなたは、

 来てほしいと

 言いましたか?」


「……」


「それとも、

 来い、と

 言いましたか?」


沈黙。


若い召喚士の唇が、

わずかに動く。


「……早く、

 成果が欲しかった」


小さな声。


「認められたかった」


それは、

敵の言葉ではなかった。


「……だから、

 力を借りた」


エレノアは、

ゆっくり頷く。


「……分かります」


その一言で、

若い召喚士の肩が

崩れた。


「でも……」


エレノアは、

視線を

“彼”に戻す。


「それは、

 壊れます」


静かな断言。


「壊れた契約は、

 あなたも、

 相手も……

 救いません」


空気が、

さらに重くなる。


そのとき――

“彼”が、

わずかに動いた。


怒りではない。


困惑。


「……」


エレノアは、

そっと言葉を投げる。


「……もし、

 帰りたいなら」


誰にも聞こえない

声量で。


「帰って、

 いいですよ」


魔法陣が、

一瞬、揺れた。


若い召喚士が

目を見開く。


「な……!」


「……命令じゃありません」


エレノアは、

目を逸らさない。


「お願い、

 でもない」


ただ――

選択肢。


“彼”は、

一拍、

静止した。


そして――

ゆっくりと、

後退した。


魔法陣の縁が、

崩れる。


契約は、

成立しなかった。


空気が、

元に戻る。


その場にいた全員が、

息を吐いた。


若い召喚士は、

その場に座り込む。


「……失敗、

 したんですね」


エレノアは、

首を横に振る。


「……壊さずに、

 終わりました」


それは、

成功でも、

敗北でもない。


“途中で止めた”

選択。


ルミナの気配が、

強く寄り添う。


――正しい。


境界の向こうで、

ネファル=ディアは

それを観ていた。


「……」


言葉はない。


だが――

待つ価値がある

と、

初めて確信した。


エレノアは、

空を見上げる。


まだ、

星は出ていない。


それでも――

呼ぶという行為は、

確かに変わった。


(つづく)


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