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戦わない召喚士エレノアの異世界記録 ――名を受け取り、世界に触れる  作者: ぷにゅん


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第39話 言葉にならない支え

工房の中は、

まだ同じ温度のままだった。


火は落とされ、

鍋はそのまま。

焦げの匂いだけが、

微かに残っている。


エレノアは椅子に座ったまま、

しばらく動かなかった。


時間が、

少しだけ歪んでいる気がした。


外では人の足音がする。

話し声もある。

いつも通りの街。


それなのに、

自分だけが取り残されたようだった。


「……」


“嫌だって、言っていいんでしょうか”


さっき口にした言葉が、

まだ胸の奥に残っている。


言ったはずなのに、

言えていないような感覚。


エレノアは、

自分の手を見た。


震えは止まっている。

でも、

力が入らない。


「……作れないですね」


もう一度、

今度ははっきりと。


誰に聞かせるでもなく、

ただ事実を確認するように。


そのとき、

工房の奥で、

小さな音がした。


――こと。


棚の上に置いてあった、

空の瓶が一つ、

わずかに揺れた。


風はない。

工房の扉も閉まっている。


「……ルミナ?」


呼ぶと、

すぐ近くで気配が応えた。


でも今日は、

「そこにいる」だけじゃない。


寄り添っている。


エレノアは、

その感覚に少しだけ驚いた。


「……何も、言わないんですね」


返事はない。


それが、

不思議とありがたかった。


「……大丈夫、って言われたら」

「たぶん、

 余計に作れなくなってました」


小さく息を吐く。


「……頑張らなくていい、も」

「今は、違います」


ルミナは、

何も言わない。


ただ、

気配の距離を保っている。


近すぎず、

離れすぎず。


エレノアは、

その距離が心地いいことに、

遅れて気づいた。


「……選ばなくていい時間、

 ってあるんですね」


立ち上がり、

作業台に近づく。


でも、

鍋には触れない。


代わりに、

布をかけた。


今日は、

終わりにする。


「……今日は、

 ここまで」


その言葉は、

誰にも許可を取っていない。


それなのに、

胸が少し軽くなった。


扉を叩く音がする。


一瞬、

体が強張る。


「……」


でも、

今度はすぐに開けなかった。


深呼吸を一つ。


「……はい」


扉の向こうにいたのは、

リネアだった。


「突然ごめんなさい」

「明日の予定を確認したくて」


エレノアは、

少し考えてから答える。


「……明日は、

 工房を閉めます」


その言葉は、

思っていたよりも

静かに出た。


リネアは、

一瞬だけ目を瞬かせる。


「……分かりました」


それだけ。


理由を聞かない。

説得もしない。


「必要なら、

 また改めて伺います」

「今日は、

 無理をしない日ですね」


“無理をしない”。


同じ言葉なのに、

今日は違って聞こえた。


「……ありがとうございます」


それは、

反射じゃなかった。


リネアが去ったあと、

工房は再び静かになる。


エレノアは、

扉を閉め、

背中を預けた。


「……言えましたね」


胸の奥に、

小さな灯りがともる。


劇的ではない。

でも、確か。


「……嫌だ、

 じゃなくて」

「……今日は、できません」


それで、

いい。


ルミナの気配が、

ほんの少しだけ強まった。


――一緒に。


エレノアは、

椅子に戻り、

目を閉じる。


今日は、

作らなかった。


でも――

自分を、

 少しだけ守れた。


それが、

何よりの前進だった。


(つづく)


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