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戦わない召喚士エレノアの異世界記録 ――名を受け取り、世界に触れる  作者: ぷにゅん


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第32話 作るという選択

工房の扉を開けた瞬間、

エレノアはほっと息を吐いた。


木と金属の匂い。

乾いた空気。

外の世界とは、少し違う時間の流れ。


「……ここは、

 落ち着きますね」


誰に言うでもなく、そう呟く。


畑と同じだ。

ここもまた、

“何かを生み出す場所”。


エレノアは、

遺跡から持ち帰った欠片を

作業台の上にそっと置いた。


小さな金属片。

だが、

ただの金属ではない。


「……軽い。

 でも、

 脆くはないですね」


指先で転がし、

光の当たり方を変える。


反射が、

どこか柔らかい。


「……不思議」


剣にするには、向かない。

防具にするにも、心許ない。


でも。


「……道具、

 なら……」


その考えに至った瞬間、

胸の奥で、

小さく何かが噛み合った。


――壊すためじゃない。

――守るためでもない。

――使うため。


エレノアは、

棚から簡単な工具を取り出す。


削る。

叩く。

熱を加える。


力は、ほとんど要らなかった。


「……抵抗、

 少ないですね」


素材が、

“拒まない”。


まるで、

加工されることを

前提に存在しているようだった。


エレノアは、

ふと手を止めた。


「……研究、

 されていた、

 んでしょうね」


召喚研究跡。

繋げるための場所。


ならば、

そこで使われていた素材もまた、

“媒介”としての役割を

持っていたはずだ。


「……錬金、

 向きかもしれません」


次に向かったのは、

錬金用の作業台だった。


瓶を並べ、

溶媒を用意する。


火を点ける前に、

一度、深呼吸。


焦らない。


畑と同じ。

無理をすれば、

全部台無しになる。


「……少量、

 から」


欠片を、

ほんのわずか削り、

溶媒へ落とす。


反応は、

穏やかだった。


泡立たない。

爆ぜない。


ただ、

溶ける。


「……安定、

 してます」


エレノアの声が、

自然と低くなる。


これは、

危険な素材じゃない。


むしろ――

扱う人を選ぶ素材。


錬金液を、

小さな瓶に移す。


色は、

ごく薄い透明。


「……効果は、

 即効性じゃ、

 なさそうですね」


回復薬ではない。

強化剤でもない。


でも。


「……流れを、

 整える……?」


試しに、

ごく少量を、

既存の調合液に混ぜる。


すると、

今まで微妙に不安定だった

薬液が、

すっと落ち着いた。


「……あ」


思わず、声が出た。


「……これは……

 補助、

 ですね」


主役にならない。

でも、

全体を支える。


召喚研究跡らしい。


エレノアは、

その瓶に印を付け、

慎重に棚へ戻した。


「……最後は……」


調理台に向かう。


普通なら、

金属素材と料理は

結びつかない。


でも、

この世界では、

必ずしもそうじゃない。


「……道具、

 として、

 使えますね」


削った欠片を、

鍋の縁に取り付ける。


熱の回り方が、

変わる。


「……均一」


火が、

暴れない。


素材が、

“熱を仲介している”。


エレノアは、

野菜を切り、

鍋に入れる。


香りが立つ。


「……いい、

 ですね」


出来上がった料理は、

見た目は普通。


でも、

一口食べて、

すぐに分かった。


「……疲れが、

 残らない」


強く回復するわけじゃない。

元気になるわけでもない。


ただ――

後に引かない。


「……これ、

 必要な人、

 多そうです」


エレノアは、

少しだけ微笑んだ。


戦場ではなく、

日常で。


前に出る人ではなく、

支える人に。


「……作るって、

 こういう、

 ことかもしれませんね」


剣も振らず、

魔力も大きく使わず。


でも、

世界に確かに影響を与えている。


その感覚が、

エレノアの中で、

静かに広がっていった。


作業台の端で、

ルミナの気配が、

穏やかに寄り添っていた。


――理解している。


そう伝わる。


「……一緒に、

 育てて、

 いきましょう」


畑も。

遺跡も。

素材も。


そして――

この世界との関係も。


エレノアは、

瓶と料理を

丁寧に並べながら、

次に何を試すかを考え始めていた。


戦わなくても、

進める道はある。


その道は、

思っていたよりも、

ずっと広かった。


(つづく)


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