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戦わない召喚士エレノアの異世界記録 ――名を受け取り、世界に触れる  作者: ぷにゅん


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第25話 召喚研究跡にて ――名を持つものと、名を呼ぶ者

遺跡は、思っていたより静かだった。


崩れた石柱。

半ば埋もれた床の紋様。

かつて、ここで何かを“呼ぼうとした”痕跡だけが残っている。


「……ここが、

 召喚研究跡……?」


同行していた冒険者の一人が、低く呟いた。


「危険度は低いって聞いてたけどな」

「ゴブリン程度なら、問題ないはずだ」


実際、入口付近では

すでに数体のゴブリンが倒れている。


剣と魔法。

連携の取れた動き。


――普通の戦い。


エレノアは、少し距離を取ってその様子を見ていた。


「……」


視線は、魔物ではない。


人の動き。

召喚獣の、わずかな違和感。


「……止まって」


小さな声だった。


だが、

すぐそばにいた召喚士の青年が、ぴくりと肩を揺らした。


「え?」


「……その召喚獣、

 今、

 あなたの命令、

 聞いていません」


「は?」


青年が自分の召喚獣を見る。


獣は、命令を待つ姿勢のまま――

ほんの一瞬、

別の方向を見た。


「……気のせいだろ」


そう言いかけた瞬間。


空気が、歪んだ。


遺跡の奥。

半壊した召喚陣の上。


「――ほう」


声が、響いた。


姿は、はっきりしない。

人の輪郭をしているようで、

どこか欠けている。


「名を呼ぶ気配がしたが……

 縛る気は、ないらしい」


冒険者たちが一斉に身構える。


「悪魔か……!?」

「いつの間に……!」


エレノアは、一歩前に出た。


剣は抜かない。

杖も構えない。


ただ、見た。


「……あなたが、

 ここに居着いた理由は、

 “場所”ですね」


気配が、わずかに揺れる。


「察しがいいな」


その存在は、

ゆっくりと形を整えた。


「我が名は――

 ネファル=ディア」


名を告げる声音に、

威圧はない。


むしろ、

観察するような静けさがあった。


「この場所は、

 未完成の器だ。

 我にとって、居心地がいい」


「だから、

 人や召喚獣に、

 触れている」


エレノアの言葉に、

ネファル=ディアは、くつりと笑った。


「“触れる”……悪くない表現だ。

 壊してはいない」


「でも」


エレノアは、はっきり言った。


「……ここでは、

 それは、

 許されません」


「ほう?」


「この人たちは、

 あなたの居場所ではない」


冒険者たちの間に、

緊張が走る。


「エレノア、下がれ!」

「戦う気か!?」


「……戦いません」


エレノアは、振り返らずに答えた。


「……ただ、

 断ちます」


足元で、

魔力が、静かに広がる。


「ルミナ」


名を呼ぶ。


姿は、現れない。


だが――

遺跡の空気が、変わった。


召喚陣の線が、

淡く光り、

つながりだけを拒む。


ネファル=ディアの表情が、初めて歪んだ。


「……なるほど」


魅了が、解ける。


召喚獣が、正気に戻る。


「これは……

 “排除”ではないな」


「はい」


エレノアは、静かに答える。


「……ここでは、

 あなたは、

 居られないだけです」


沈黙。


やがて、

ネファル=ディアは一歩、退いた。


「面白い」


消え際、

その声が残る。


「次に来るとき――

 お前は、

 何を呼ぶ?」


気配が、消える。


遺跡に、

静けさが戻った。


冒険者たちは、言葉を失っていた。


「……終わった、のか?」


エレノアは、

ゆっくり息を吐く。


「……はい」


ルミナの気配が、

そっと寄り添った。


――守った。


それだけ。


エレノアは、

遺跡の奥に残る召喚陣を、

一度だけ振り返った。


「……また、

 来ます」


理由は、

まだ分からない。


でも――

この場所は、

彼女を覚えていた。


(つづく)


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