第219話 交差する意思
地上。
砂が流れている。
風は強くない。
だが。
空気が張り詰めている。
エレノアは地上へ戻った。
一歩。
砂の上に出る。
その瞬間。
「――止まれ」
声。
前方。
あの女性。
昨日の先頭の人物。
すでに立っていた。
距離は遠くない。
だが。
近づかない。
その後ろ。
数人。
同じ配置。
逃げ道はない。
ネファルが言う。
(包囲)
ラグナが言う。
(完全に読まれてるな)
ヴェルナシアが囁く。
(見ている)
エレノアは止まる。
言われた通りに。
動かない。
女性が一歩前に出る。
砂を踏む音だけ。
静かに。
「……二度目だな」
短い言葉。
エレノアは頷く。
「はい」
それだけ。
女性は続ける。
「警告はした」
エレノアは答える。
「覚えています」
沈黙。
風が砂を流す。
女性の視線は逸れない。
「なら、なぜ触れた」
逃げ場のない問い。
エレノアは少しだけ間を置く。
そして答える。
「壊していないことを確認するためです」
女性の目がわずかに細くなる。
「それは理由にならない」
当然の言葉。
エレノアは頷く。
「はい」
否定しない。
だが。
引かない。
ラグナが言う。
(いいな)
ネファルが言う。
(揺れていない)
ヴェルナシアが囁く。
(立っている)
女性は一歩近づく。
距離が縮まる。
圧が増す。
「ここは管理されている」
「許可のない接触は禁じられている」
エレノアは静かに答える。
「理解しています」
女性は続ける。
「なら」
ほんのわずかな間を置く。
「なぜ従わない」
エレノアは視線を外さない。
そして言った。
「……守るためです」
沈黙。
その一言で。
空気が変わる。
後ろの者たちがわずかに動く。
女性は動かない。
ただ。
見ている。
「何をだ」
エレノアは答える。
「壊される前に」
それだけ。
ネファルが言う。
(通った)
ラグナが言う。
(刺さってるな)
ヴェルナシアが囁く。
(揺れている)
女性はしばらく何も言わない。
長い沈黙。
そして。
「……それは我々の役割だ」
静かに。
だがはっきりと。
エレノアは首を振る。
「違います」
初めて。
はっきりと否定する。
空気が張る。
一瞬だけ。
だが。
女性は動かない。
ただ。
聞く。
エレノアは続ける。
「あなたたちは管理している」
「でも」
言葉を選ぶ。
「……繋がってはいない」
沈黙。
長い。
重い。
女性の目がわずかに揺れる。
ほんの一瞬。
だが。
確かに。
後ろの一人が言う。
「……拘束するか」
低い声。
女性は手を上げる。
止める。
一瞬で。
「まだだ」
短く。
はっきりと。
そして。
エレノアを見る。
「証明できるか」
問い。
だが。
試している。
エレノアは少しだけ息を整える。
そして言う。
「完全にはできません」
正直に。
逃げない。
「ですが」
一歩だけ前に出る。
距離がさらに縮まる。
「壊さない方法は知っています」
沈黙。
風が強くなる。
砂が舞う。
女性は目を細める。
そして。
ゆっくりと言った。
「……なら見せろ」
それだけだった。
命令ではない。
選択。
ネファルが言う。
(来た)
ラグナが言う。
(ここで決まるな)
ヴェルナシアが囁く。
(境界)
エレノアは頷く。
「分かりました」
逃げない。
戦わない。
だが。
引かない。
風が強くなる。
砂が流れる。
止まっていたものが。
動き出す。




