第209話 砂を支えるもの
地下は静かだった。
風の音も届かない。
光は少ない。
石の通路が奥へと続いている。
エルザリア王は、その奥を歩いていた。
側には数人の兵と、研究官。
誰も声を出さない。
足音だけが響く。
やがて、空間が開ける。
巨大な空洞。
天井は高く、壁は黒い岩で覆われている。
中央。
そこに“それ”はあった。
完全な姿ではない。
大地の一部のように、埋もれている。
だが。
確実に“生きている”。
わずかに動く。
ゆっくりと。
呼吸のように。
研究官が小さく言う。
「安定しています」
王は何も答えない。
ただ見ている。
長い時間。
やがて、王が口を開く。
「……どれだけ持つ」
研究官は答える。
「現在の状態なら、問題ありません」
「地脈の流れは維持されています」
王の視線は動かない。
その存在から、離れない。
「維持、か」
小さな声だった。
研究官は続ける。
「このまま稼働を続ければ、砂漠の拡大は抑えられます」
「資源の確保も――」
王が手を上げる。
それ以上は言わせない。
沈黙。
空洞の中に、重い空気が流れる。
王はゆっくり言った。
「これは」
言葉を選ぶ。
「……生きているのか」
研究官は少しだけ迷う。
そして答える。
「はい」
「ですが、意識は極めて低い状態です」
王は目を細める。
その言葉を聞いても、納得していない。
その時。
“わずかに動いた”
地面が、ほんの少し。
王の足元に伝わる。
微かな震え。
研究官がすぐに言う。
「問題ありません」
「反応は定期的なものです」
王は何も言わない。
ただ、足元を見た。
そして。
再び“それ”を見る。
ゆっくりと、言う。
「……目を覚ましたら」
研究官は即答する。
「制御可能です」
迷いのない声。
王は視線を外さない。
その存在を見ながら、言う。
「……本当にそうか」
研究官は答えない。
空気が止まる。
その時。
空洞の奥で。
“低い音”が鳴った。
誰にも聞こえないほどの音。
だが。
王だけが、顔を上げた。
わずかに。
ほんのわずかに。
“視線が合った気がした”
研究官は気づかない。
兵も気づかない。
王だけが、感じる。
沈黙の中。
王は静かに言った。
「今日はここまでだ」
研究官が頭を下げる。
「はい」
王は背を向ける。
歩き出す。
だが。
一度だけ止まった。
振り返らない。
そのまま言う。
「……これ以上、傷つけるな」
研究官は一瞬、言葉を止める。
そして答える。
「必要な範囲で運用します」
王はそれ以上何も言わなかった。
通路へ戻る。
足音が遠ざかる。
地下に残るのは。
静かな“それ”。
やがて。
わずかに動く。
ほんのわずか。
砂の上で感じたのと、同じ動き。
そして。
“外の気配”を感じている。
遠く。
砂の向こう。
別の場所。
もう一つの存在。
“触れようとした者”
それを。
覚えていた。




