第206話 砂の下にあるもの
朝の光が砂を照らす。
夜の冷えは消え、空気はすぐに乾き始めていた。
隊はゆっくり動き出す。
目的は一つ。
昨日、違和感を感じた場所。
レナが前を歩く。
「距離は覚えてるか」
エレノアは頷く。
「はい」
景色は変わらない。
どこを見ても同じ砂。
だが。
足が止まる。
「……ここです」
レナが周囲を見る。
何もない。
風が砂を流すだけ。
だが。
昨日と同じ場所。
エレノアは一歩踏み出す。
足を砂に沈める。
その瞬間。
“違う”
言葉にする前に分かる。
ネファルが言う。
(濃い)
ヴェルナシアが囁く。
(流れが止まっている)
ラグナが低く言う。
(……動いてるぞ)
エレノアはしゃがむ。
手を砂に触れる。
さらさらと崩れる。
だが。
その奥。
「……下に」
言葉を探す。
「何か、あります」
レナの視線が鋭くなる。
「掘るか」
エレノアは少し考える。
そして首を振る。
「いえ」
その時だった。
足元の砂が沈む。
わずかに。
だが確かに。
下へ。
空洞のように。
レナが一歩下がる。
「……おい」
周囲の隊員たちも気づく。
砂の表面が、不自然に揺れている。
風ではない。
下から。
押し上げられるような。
エレノアは立ち上がる。
目を閉じる。
感じる。
流れ。
重さ。
そして――
“意志”
ネファルが低く言う。
(これは……)
ヴェルナシアが続く。
(眠りではない)
ラグナが言う。
(起きてるな)
エレノアは目を開けた。
その瞬間。
砂が大きく動いた。
地面が波打つ。
一瞬だけ。
本当に一瞬。
巨大な何かが下で“身じろぎした”。
そして。
止まる。
何もなかったかのように。
静寂が戻る。
風の音だけが残る。
誰も動かない。
レナが低く言う。
「……見たか」
エレノアは答える。
「はい」
声は静かだった。
だが。
確信していた。
これは。
ただの異常ではない。
ただの地脈でもない。
“何か”がいる。
レナが短く言う。
「ここは印をつける」
「深入りはしない」
エレノアは頷いた。
それが正しい。
今はまだ。
だが。
視線は自然と足元へ落ちる。
砂の下。
見えない場所。
そこにあるもの。
それは。
こちらを“見ていた”。




