第204話 砂の境界
街を出て数日。
景色はゆっくり変わっていった。
草が減り。
土が乾き。
やがて、色が変わる。
足元が砂に変わった。
「……ここからか」
レナが呟く。
前方には、どこまでも続く砂の大地。
風が砂を運び、地面の形をゆっくりと変えている。
エレノアは足を止めた。
靴の先で砂を軽く踏む。
沈む。
細かく、軽い。
ラグナが言う。
(歩きにくいな)
「はい」
「体力を使います」
隊は小さく隊列を整える。
無理に広がらず、一定の距離を保って進む形だ。
日差しは強い。
雲はほとんどない。
レナが振り返る。
「水は計算して使え」
「まだ序盤だ」
「はい」
エレノアは頷く。
腰に下げた水袋を軽く触る。
そして、背負っている荷の中に意識を向けた。
昨夜作った道具。
簡易の集水器。
そして保存箱。
まだ使う場面ではない。
だが、いずれ必要になる。
風が吹く。
砂が流れる。
ヴェルナシアが囁く。
(乾いている)
ネファルが言う。
(流れが浅い)
ラグナは短く言う。
(熱いな)
エレノアは周囲を見る。
空は高い。
何もないように見える。
だが。
静かすぎた。
足音と風の音しかない。
生き物の気配がほとんどない。
レナが前を見たまま言う。
「妙だな」
エレノアは同意する。
「はい」
しばらく歩く。
時間の感覚が曖昧になる。
景色が変わらない。
ただ、砂が続くだけ。
その中で。
エレノアは足を止めた。
「……ここ」
レナが振り返る。
「どうした」
エレノアは地面を見る。
砂の下。
見えない場所。
「少しだけ」
「違います」
ネファルが低く言う。
(歪み)
ヴェルナシアが言う。
(風が避けている)
ラグナが言う。
(嫌な感じだな)
エレノアはゆっくりしゃがむ。
手を砂に触れる。
さらさらと崩れる。
だが。
その下に、わずかな違和感。
「……ここだけ」
言葉を選ぶ。
「流れが重いです」
レナが眉を寄せる。
「地脈か」
エレノアは頷く。
「強くはありません」
「ですが……」
その先を言わない。
説明できるほど、はっきりしていない。
ただ。
違和感だけがある。
レナは周囲を見渡す。
何もない。
砂。
風。
空。
それだけだ。
だが。
「覚えておく」
短く言う。
エレノアも頷く。
二人は立ち上がる。
隊は再び進み始めた。
砂の大地。
何もないように見える場所。
だがその下で。
何かがわずかに動いている。
エレノアは振り返らなかった。
それでも。
足の裏に残る感覚だけが、消えなかった。




