第202話 砂の国の王
砂の風が城壁を叩いていた。
エルザリア王国。
かつては緑の国だったと言われている。
だが今。
城の外に広がるのは、果てしない砂だった。
王は城の高い窓から外を見ていた。
風が砂を運ぶ。
遠くの丘がゆっくり形を変えていく。
「……また広がったか」
小さく呟く。
誰も答えない。
部屋には王と、もう一人しかいない。
研究官だった。
白い外套を着た男。
机の上には古い地図が広げられている。
かつてのエルザリアの地図。
そこには森が描かれていた。
川があり、湖があり、農地が広がっている。
今の景色とは、まるで違う。
研究官が言う。
「地脈炉は安定しています」
王は振り返らない。
「……そうか」
短い言葉だった。
研究官は続ける。
「資源の採取も順調です」
「兵器化した召喚存在の運用も問題ありません」
王は黙って聞いていた。
窓の外の砂を見ながら。
やがて王が言う。
「森は戻るか」
研究官は少し言葉を止めた。
そして答える。
「……難しいでしょう」
王は頷いた。
それ以上は聞かなかった。
静かな部屋だった。
しばらくして研究官が口を開く。
「ただ一つ、問題があります」
王は振り返る。
研究官が言う。
「西の地下施設」
「調査の痕跡が見つかりました」
王の目がわずかに動く。
「どこの者だ」
研究官は首を振る。
「断定はできません」
「ですが……」
少し間があく。
「召喚士が関わっている可能性があります」
王は黙る。
長い沈黙。
やがて王は窓へ戻る。
砂の国。
遠い地平線。
そこに昔の森を重ねるように見つめていた。
「……遅すぎたか」
小さな声だった。
研究官は何も言わない。
王は続ける。
「この国は生きなければならない」
風が強く吹く。
砂が城壁を叩く。
王は静かに言った。
「たとえ」
「この方法しか残っていなくても」
研究官は頭を下げた。
「はい」
部屋の扉が閉まる。
王は一人残った。
机の上には古い地図。
そこに描かれている森を、王は指でなぞる。
「……すまない」
誰に向けた言葉かは分からなかった。
外では砂の風が吹き続けていた。
その遠く。
地下では。
まだ眠る召喚存在があった。
そして。
さらに遠い東の街では。
一人の召喚士が静かに動き始めていた。




