第199話 地脈炉の守護者
地下空間の空気が変わった。
巨大な地脈炉の光が揺れる。
床を流れる魔力が、まるで生き物のように脈打ち始めた。
その奥。
暗闇の中で――
何かが動いた。
レナが槍を構える。
「……来るぞ」
グレンが斧を握り直す。
「でかいな」
影がゆっくり姿を現した。
巨大な体。
四足。
岩のような外殻。
そして全身を覆う黒い結晶。
カイルが震える声で言う。
「……守護獣」
ヴァルクの目が鋭くなる。
「地脈炉の防衛体だ」
守護獣が頭を持ち上げる。
赤い光の目。
その視線が遠征隊を捉えた。
次の瞬間。
地下が震えた。
守護獣の咆哮。
空気が揺れる。
レナが笑う。
「いいね」
槍を回す。
「久しぶりに暴れられる」
守護獣が突進する。
地面が割れる。
岩のような脚。
巨大な影。
ヴァルクが叫ぶ。
「散開!」
遠征隊が一斉に動いた。
守護獣の爪が地面を砕く。
石が飛び散る。
グレンが前へ踏み込む。
斧を振り上げる。
「止まれ!」
斧が結晶へ叩き込まれる。
衝撃。
だが。
結晶は砕けない。
グレンが目を見開く。
「……硬い!」
守護獣の尾が振り回される。
グレンが弾き飛ばされる。
レナが跳ぶ。
槍を突き込む。
結晶の隙間へ。
火花が散る。
守護獣が吠える。
リサの矢が飛ぶ。
目へ。
だが守護獣は怯まない。
カイルが魔術を放つ。
光の爆発。
地下空間が白く染まる。
しかし。
守護獣はまだ立っている。
ラグナが笑う。
(やっと面白い奴だ)
エレノアは静かに言う。
「ラグナ」
炎が弾けた。
地下空間が赤く染まる。
ラグナが姿を現す。
炎の召喚存在。
守護獣が咆哮する。
ラグナが拳を握る。
「俺が相手だ」
炎の拳。
守護獣の頭へ。
轟音。
衝撃波。
地下の空気が揺れる。
守護獣が一歩後退する。
レナが叫ぶ。
「今だ!」
グレンの斧。
ヴァルクの剣。
同時に結晶へ。
だが。
守護獣の体が光る。
地脈炉から魔力が流れ込む。
結晶が再生する。
カイルが叫ぶ。
「再生しています!」
ヴァルクが言う。
「炉を止めろ」
エレノアは地脈炉を見る。
巨大な結晶の輪。
そこに魔力が集まっている。
ネファルが低く言う。
(核)
ラグナが言う。
(壊すか)
ヴェルナシアが囁く。
(嵐を呼べ)
エレノアは守護獣を見る。
守護獣もまた。
何かに縛られている。
守るように作られている。
エレノアは言う。
「倒すだけじゃ終わりません」
ヴァルクが答える。
「わかっている」
レナが笑う。
「じゃあどうする」
エレノアは静かに目を閉じた。
地脈。
風。
炎。
影。
すべてが流れている。
そして。
その奥にある装置。
エレノアは目を開く。
「炉を止めます」
守護獣が再び突進した。
ラグナが迎え撃つ。
炎が爆発する。
地下空間が震える。
その隙に。
エレノアは走った。
地脈炉へ。
ネファルの影が広がる。
装置へ潜り込む。
結晶が震える。
守護獣が吠える。
再生が止まる。
レナが叫ぶ。
「今だ!」
グレンの斧。
ヴァルクの剣。
ラグナの炎。
三つの攻撃が同時に叩き込まれる。
守護獣の結晶が――
砕けた。
巨体が崩れ落ちる。
地下が静かになる。
地脈炉の光も、ゆっくり弱くなっていく。
遠征隊はその場に立っていた。
戦いは終わった。
だが。
エレノアはまだ炉を見ていた。
ネファルが低く言う。
(まだ終わっていない)
ヴェルナシアが囁く。
(嵐は続く)
ラグナが笑う。
(奥に何かいるな)
エレノアは静かに言った。
「……ええ」
地脈炉の奥。
まだ見ぬ存在が、そこにいた。




