第198話 地下の奥
アルベルトが消えた後。
地下施設は、しばらく静まり返っていた。
砕けた結晶。
倒れた人工召喚獣。
そして、まだ微かに光る地脈の流れ。
レナが槍を肩に乗せた。
「……感じ悪い奴だったな」
グレンが斧を持ち直す。
「研究者ってのは大体ああいう顔だ」
カイルは装置を見ていた。
「でも……」
「ここは中継装置です」
ヴァルクが頷く。
「そうだ」
彼は床の溝を指した。
そこを流れる光。
森の地脈。
それが地下通路の奥へと流れている。
ヴァルクが言う。
「まだ終わっていない」
エレノアはその流れを見つめていた。
ネファルが低く言う。
(奥だ)
ラグナが言う。
(まだ燃やせるな)
ヴェルナシアが静かに囁く。
(嵐は、深い)
エレノアはヴァルクを見る。
「……行きますか」
ヴァルクは少しだけ考えた。
地下通路。
未知の施設。
敵の研究者。
それでも。
彼は頷く。
「進む」
レナが笑う。
「それでこそ遠征だ」
リサが先を警戒する。
「音は……今のところ無し」
グレンが斧を肩に担ぐ。
「行こう」
遠征隊は、地下通路をさらに進んだ。
通路は長かった。
石の壁。
天井の低い場所。
そして。
床の溝を流れる光。
まるで地下の川のようだった。
カイルが言う。
「この構造……」
「かなり古いです」
レナが言う。
「アルベルトが作ったわけじゃない?」
カイルは首を振る。
「違います」
「もっと前のものです」
ヴァルクの目が細くなる。
「古代構造か」
しばらく進む。
やがて。
通路の先が開けた。
巨大な空間。
全員が足を止める。
グレンが低く言う。
「……なんだこれは」
地下空間の中央に。
巨大な構造物があった。
黒い柱。
結晶の輪。
そして。
その中心に――
巨大な結晶装置。
森の地脈が、すべてそこに集まっている。
光が渦を巻いている。
カイルが震える声で言う。
「……地脈炉」
レナが眉をひそめる。
「炉?」
カイルが説明する。
「魔力を集めて……圧縮する装置です」
「でも」
「こんな規模は見たことがない」
ヴァルクが言う。
「つまり」
「ここが本体だ」
その時だった。
エレノアの胸が、強く痛んだ。
ネファルが言う。
(感じるか)
ラグナが言う。
(いるな)
ヴェルナシアが囁く。
(風が泣いている)
エレノアは装置を見る。
地脈炉。
その奥。
さらに奥。
何かがいる。
苦しい。
閉じ込められている。
エレノアは小さく言った。
「……まだいます」
レナが聞く。
「召喚獣か?」
エレノアは首を振る。
「もっと……大きい」
ネファルが低く言う。
(古い)
ラグナが言う。
(強い)
ヴェルナシアが囁く。
(嵐の前の静けさ)
ヴァルクが剣を握る。
「警戒」
その時。
地脈炉の光が揺れた。
地下空間の奥。
巨大な影が動く。
リサが小さく言う。
「……何か出る」
遠征隊は武器を構えた。
そして。
地脈炉の奥から。
新たな存在が姿を現そうとしていた。




