第196話 解き放たれた光
地下施設の戦いが終わると、しばらく誰も動かなかった。
砕けた結晶。
倒れた人工召喚獣。
そして、まだ揺れている装置。
静寂の中で、一番強く光っているのは――
解き放たれた召喚存在だった。
光の獣はゆっくりと宙に浮いている。
鎖から解放されたばかりで、まだ動きは弱々しい。
レナが槍を肩に乗せて言った。
「助かったのか?」
カイルが慎重に近づく。
「……魔力はかなり削られています」
「でも、生きています」
グレンが斧を肩に担いだまま、少しだけ安心したように息を吐く。
「よかったな」
リサは天井近くを警戒しながら言う。
「まだ油断はできないけど」
ヴァルクは装置を見ていた。
「止まっていない」
全員がその言葉に反応する。
確かに。
巨大な結晶装置は、まだ微かに振動している。
地脈の光が、床の溝を流れている。
エレノアがその流れを見つめる。
ネファルが言う。
(まだ繋がっている)
ラグナが低く言う。
(根元が別にある)
ヴェルナシアが静かに囁く。
(嵐の根)
エレノアは光の獣を見る。
「大丈夫ですか」
その声に、光の獣がゆっくり顔を向けた。
瞳は淡い金色。
苦しそうではあるが、恐怖はない。
むしろ。
安堵。
光の獣はエレノアに近づいた。
ふわりと。
まるで風に運ばれるように。
レナが小さく言う。
「懐かれてるな」
カイルが驚く。
「召喚契約をしているわけじゃないのに……」
光の獣はエレノアの前で止まる。
そして。
ゆっくり目を閉じた。
その瞬間――
エレノアの意識の奥に、光が流れ込んだ。
景色。
地下の通路。
さらに奥。
巨大な構造。
地脈の流れが一か所に集められている。
そして。
もっと奥。
さらに巨大な装置。
ネファルの声が響く。
(見せている)
ラグナが言う。
(場所だ)
ヴェルナシアが囁く。
(嵐の源)
エレノアは目を開けた。
息が少し荒い。
レナがすぐに聞く。
「何が見えた?」
エレノアは静かに言う。
「……まだ奥があります」
ヴァルクの目が鋭くなる。
「本体か」
エレノアは頷く。
「ここは……中継です」
カイルが息を飲む。
「じゃあ……」
「森の地脈全部が」
ヴァルクが言う。
「さらに奥へ運ばれている」
グレンが低く言う。
「ずいぶん大きな話になってきたな」
その時だった。
奥の通路から、ゆっくり足音が響いた。
コツ……コツ……
全員が振り向く。
黒い外套の男が歩いてくる。
静かな表情。
戦闘の焦りはない。
男は解放された召喚存在を見る。
そして小さく笑った。
「……なるほど」
レナが槍を構える。
「まだやるか?」
男は首を振る。
「いや」
「今日は十分だ」
ヴァルクが低く言う。
「逃がすと思うか」
男は答える。
「逃げない」
そしてエレノアを見る。
「確認できた」
エレノアは静かに聞く。
「何を」
男は少し考えた。
そして言う。
「契約の召喚士」
「本当に存在した」
地下施設の空気が、再び張り詰める。
男は続ける。
「君のような者がいるなら」
「この研究は、さらに価値がある」
ラグナが低く笑う。
(嫌な奴だな)
ネファルが言う。
(敵だ)
ヴェルナシアが囁く。
(嵐は、まだ始まったばかり)
エレノアは男を見つめた。
この男は。
まだ何も終わらせていない。
むしろ。
これから始めるつもりだ。
地下施設の奥。
地脈の流れ。
そして。
まだ見ぬ装置。
物語は、さらに深い場所へ続いていた。




