第195話 鎖を断つ炎
地下施設の空気が震えた。
遠くの通路から、重い足音が近づいてくる。
ドン……
ドン……
ドン……
まるで岩が歩いているような音だった。
レナが槍を握る。
「来るぞ」
グレンは斧をゆっくり構える。
「数は?」
リサが耳を澄ます。
「三……いや四」
カイルが魔術の準備をする。
「この施設、完全に戦闘用ですね……」
ヴァルクは冷静だった。
「隊形」
すぐに全員が動く。
前衛
グレン、レナ
中央
エレノア
後衛
カイル、リサ
その時だった。
通路の奥から影が現れた。
巨大な影。
最初の一体が姿を現す。
人工召喚獣。
熊のような体。
背中に黒い結晶。
目が赤く光っている。
レナが低く言う。
「昨日の奴よりでかいな」
グレンが笑う。
「ちょうどいい」
その背後から、さらに二体。
合計三体。
地下通路を埋めるような巨体。
男は装置の前で静かに言った。
「試してみよう」
「契約の力と」
「作られた力」
エレノアは召喚存在を見た。
鎖に繋がれた光の獣。
苦しそうに震えている。
ネファルが低く言う。
(先に守れ)
ラグナが笑う。
(俺が行く)
エレノアは静かに言う。
「ラグナ」
炎が爆ぜた。
空気が熱を帯びる。
炎の召喚存在が姿を現す。
ラグナ。
地下空間に炎が広がる。
グレンが目を丸くする。
「……本当に出た」
レナが笑う。
「見慣れてくるぞ」
最初の巨獣が突進する。
ラグナが踏み込む。
拳が振り抜かれる。
炎が爆発する。
衝撃。
巨獣の体が横に弾かれる。
壁に激突。
結晶が砕ける。
レナが叫ぶ。
「行くぞ!」
槍を突き出す。
結晶の隙間へ。
グレンが斧を振り下ろす。
金属音。
結晶がさらに割れる。
二体目がグレンに飛びかかる。
リサの矢が飛ぶ。
目に刺さる。
巨獣が吠える。
カイルが魔術を放つ。
光の衝撃。
巨体が揺れる。
ヴァルクが一瞬で間合いに入る。
剣が閃く。
結晶の核へ。
破壊。
巨獣が崩れ落ちる。
一体目撃破。
だが。
残り二体が同時に動く。
地下の床が震える。
ラグナが笑う。
「まとめて来い!」
炎が広がる。
拳。
蹴り。
爆発。
地下空間が赤く染まる。
その間。
エレノアは動いていた。
装置へ。
鎖に繋がれた召喚存在。
光の獣。
弱々しく呼吸している。
エレノアは近づく。
男がそれを見て言う。
「無駄だ」
「鎖は魔術構造だ」
エレノアは鎖に触れる。
冷たい。
だが。
ネファルが言う。
(切れる)
エレノアは小さく頷く。
「ネファル」
黒い影が広がる。
鎖の魔術構造に入り込む。
装置が震える。
男が少し驚いた。
「……ほう」
その時。
最後の巨獣がラグナに突進する。
ラグナが受け止める。
炎が爆ぜる。
レナが叫ぶ。
「今だ!」
グレンの斧が振り下ろされる。
結晶の核。
破壊。
巨獣が崩れ落ちた。
戦闘が止まる。
地下が静かになる。
その瞬間。
鎖が――
パキン、と音を立てて砕けた。
召喚存在の光が広がる。
弱っているが、自由になった。
エレノアは静かに言う。
「もう大丈夫」
光の獣は彼女を見た。
そして。
ふわりと宙へ浮いた。
男はその光景を見ていた。
怒ってはいない。
むしろ。
興味深そうに言った。
「……なるほど」
「君が召喚士か」
エレノアは振り返る。
地下施設の灯りの中。
二人の視線が交差した。
思想の境界。
そして物語は、さらに深く動き始める。




