第190話 地脈を集める者
森の地下。
長い通路の奥。
石の壁に灯りが揺れていた。
青白い光。
魔力灯だ。
その下で、一人の男が立っている。
年は四十ほど。
黒い外套。
そして胸元には小さな金属の紋章。
男は地面の溝を見ていた。
そこを流れる光。
地脈の流れ。
まるで地下の川だ。
男は静かに言う。
「……やはり弱い」
後ろで控えていた若い術者が答える。
「森の地脈は細いですから」
男は首を振る。
「違う」
「使われていないからだ」
術者は黙る。
男はゆっくり歩く。
石の床。
刻まれた溝。
その全てが魔力を導くための構造だ。
男は続ける。
「世界には無駄が多い」
「流れているだけの力」
「眠っているだけの存在」
術者が小さく言う。
「召喚獣……ですか」
男は足を止める。
少し笑う。
「彼らは力だ」
「だが」
「人はそれを使わない」
術者は躊躇いながら言う。
「しかし……」
「召喚獣は契約するものでは」
男は振り返る。
その目は冷たい。
「契約?」
少しだけ笑う。
「そんなものは理想だ」
男は地面を指す。
「見ろ」
地脈の光が流れている。
「世界の力は」
「誰のものでもない」
「だが」
「それを使う者が世界を変える」
術者は黙る。
男はゆっくり歩く。
奥の部屋へ。
そこには巨大な結晶装置があった。
黒い柱。
そしてその中心に――
小さな召喚獣。
光の獣。
鎖で固定されている。
術者が目を伏せる。
「……安定しています」
男は装置を見上げる。
「当然だ」
「この構造は完成している」
術者が言う。
「ただ……」
「森の装置が一つ破壊されました」
男の手が止まる。
「……ほう」
術者が続ける。
「監視獣も一体消滅」
男はしばらく黙る。
そして小さく笑った。
「面白い」
術者が驚く。
「問題では?」
男は首を振る。
「問題ではない」
「むしろ」
「確認だ」
男は地脈の流れを見る。
「この装置を見つける者」
「それは」
「ただの冒険者ではない」
術者が言う。
「調査隊を出しますか?」
男は少し考える。
そして言う。
「いや」
「様子を見る」
術者が戸惑う。
男は装置を見上げる。
「この技術を理解できる者がいるなら」
「会ってみたい」
術者は言葉を失う。
男は静かに言った。
「世界は変わる」
「力を使う者によって」
そして地下の装置は、静かに地脈を吸い続けていた。




