第186話 炎の境界
森の空気が、一瞬で変わった。
三つの影が、木々の間から飛び出してくる。
地面を蹴る音。
枝が折れる音。
そして、重い足音。
現れたのは召喚獣だった。
だが普通の召喚獣ではない。
狼に似た体。
熊のような肩。
背中には黒い結晶。
そして目が濁っている。
レナが低く言う。
「……さっきの獣と同じだ」
ヴァルクが剣を抜く。
「結晶を壊せ」
「それが核だ」
三体の獣が一斉に動いた。
森の地面が揺れる。
レナが前に出る。
槍を構え、地面を蹴る。
最初の一体が突進する。
レナは真正面から踏み込む。
槍が横に薙ぐ。
金属音。
結晶が刃を弾く。
だが勢いは止まった。
「硬い!」
レナが叫ぶ。
次の瞬間。
二体目が横から飛びかかる。
ヴァルクが割り込む。
剣が閃く。
鋭い斬撃。
結晶の一部が欠ける。
獣が咆哮する。
森が震える。
カイルが後方で叫ぶ。
「魔力が増幅されています!」
「普通の召喚獣より強い!」
エレノアは静かに立っていた。
目は三体を見ている。
その奥にあるものを感じている。
これは召喚獣ではない。
召喚獣だったものだ。
壊され、
削られ、
無理やり動かされている。
胸の奥が痛む。
(やるぞ)
ラグナが言う。
炎が揺れる。
エレノアは小さく頷く。
「お願いします」
次の瞬間。
炎が地面から吹き上がる。
赤い光。
森が一瞬で明るくなる。
そこに立っているのは――
ラグナ。
炎の召喚存在。
背丈は人と同じ。
だが体の奥で火が燃えている。
レナが思わず呟く。
「……何度見ても慣れないな」
ラグナが肩を回す。
「燃やしていいか?」
エレノアは首を振る。
「壊さないでください」
ラグナが舌打ちする。
「めんどくせぇ」
三体の獣が同時に動く。
ラグナへ向かう。
一体が跳びかかる。
ラグナは動かない。
拳を振る。
炎が爆発する。
衝撃。
獣の体が空中で弾かれる。
地面に叩きつけられる。
レナが息を呑む。
「……すごいな」
だが獣は立ち上がる。
結晶が赤く光る。
狂っている。
ラグナが笑う。
「しぶとい」
もう一体が背後から襲う。
ラグナが振り向きざまに蹴る。
炎が足元から噴き上がる。
獣が転がる。
三体目が突進する。
ラグナは横に避ける。
その瞬間。
ヴァルクが踏み込む。
剣が一直線に走る。
結晶へ。
砕ける音。
結晶が割れる。
獣の動きが止まる。
カイルが魔力を流す。
「今です!」
レナが槍を突き込む。
結晶の中心へ。
破壊。
獣の体が光に変わる。
空へ散る。
一体目が消えた。
ラグナが笑う。
「あと二つ」
だが次の瞬間。
森の奥で、低い音が響いた。
ズン――
地面が揺れる。
ネファルが言う。
(まだいる)
ヴェルナシアの声が、風の奥で響く。
(来る)
木々が揺れる。
三体ではない。
さらに大きな影が、森の奥から姿を現した。
レナが息を呑む。
「……嘘だろ」
それは巨獣だった。
さっきの三体よりも大きい。
体の半分が結晶に覆われている。
地面が揺れる。
森が震える。
ラグナが笑う。
炎がさらに強くなる。
「やっと本命か」
エレノアは静かに言う。
「……ラグナ」
ラグナが振り返る。
エレノアの目は真剣だった。
「壊さないでください」
ラグナは少し驚いた顔をする。
そして笑う。
「面白い」
巨獣が咆哮する。
森が揺れる。
戦いは、まだ終わらない。




