第180話 地面の下
森は、再び静かになっていた。
さっきまで暴れていた巨獣の気配は消えている。
光の粒が空へ溶け、
風がゆっくりと戻ってくる。
レナが槍を地面に立て、息を吐いた。
「……助かった」
カイルはまだ巨獣が消えた場所を見ている。
「普通の召喚獣じゃありませんでした」
ヴァルクはしゃがみ込み、結晶の破片を拾う。
黒い結晶。
光を反射しない。
「……嫌な石だ」
エレノアは黙って南を見ていた。
胸の奥が、落ち着かない。
まだ終わっていない。
(まだある)
ネファルが言う。
(近い)
ラグナも笑わない。
(さっきのは見張りだな)
レナが振り向く。
「どうした」
エレノアは少しだけ森の奥を指す。
「……あちらです」
ヴァルクは迷わない。
「進む」
四人はゆっくり歩き出す。
森の奥は、さらに静かだった。
やがて。
木々の間に、小さな空間が見えた。
人工的に開けられている。
レナが眉をひそめる。
「誰かいるのか?」
カイルが首を振る。
「気配はありません」
ヴァルクが手を上げる。
止まる。
そして一歩進む。
地面が見えた。
そこには――
円形の装置があった。
石で作られた輪。
直径は三メートルほど。
地面に半分埋まっている。
そして。
無数の細い溝。
その溝が、南へ続いている。
カイルが息をのむ。
「……これは」
ヴァルクが言う。
「地脈を引いている」
エレノアは装置の縁に触れる。
冷たい。
だが、かすかに脈打っている。
まるで。
呼吸しているみたいに。
ラグナが低く言う。
(吸ってる)
ネファルが続く。
(運んでいる)
エレノアの胸が強く打つ。
この装置は。
地脈を吸い上げている。
そして。
どこかへ送っている。
カイルが震える声で言う。
「こんな装置……見たことがありません」
レナが呟く。
「誰が作ったんだ」
ヴァルクは答えない。
ただ、溝の方向を見ている。
南。
ずっと南。
森の奥。
その先。
「……これは」
ヴァルクの声が低くなる。
「一つじゃない」
エレノアの背中に冷たいものが走る。
カイルも気づいた。
「まさか……」
ヴァルクは言う。
「線だ」
「地脈を一本の流れにしている」
つまり。
この装置は。
始まりにすぎない。
もっと南に。
もっと大きな何かがある。
ヴェルナシアの声が、風の奥から届く。
(嵐の根だ)
森の奥が、急に暗く感じる。
エレノアは南を見る。
遠い。
だが。
確実に、そこにある。
世界を削る装置が。




