第176話 調査隊
丘から戻ったあと、ヴァルクはすぐに動いた。
昼前には、街の管理棟に数人が集められていた。
大きな会議ではない。
ごく少人数。
街を守る役割の者だけ。
ヴァルク。
エレノア。
先ほどの地脈を読む召喚士の男。
それから――
鎧姿の女性が一人。
彼女は腕を組んだまま言う。
「それで?」
「地脈が減っている?」
ヴァルクは短く答える。
「正確には、“集められている”」
部屋の空気が変わる。
冗談ではないと、全員が分かったからだ。
女性は眉をひそめる。
「自然じゃないのか」
「違う」
ヴァルクは地図を机に広げる。
「森の南で流れが細くなっている」
「そこからさらに南へ続いている」
エレノアが補足する。
「自然の減り方ではありません」
「乱れていないんです」
「きれいに減っています」
男が頷く。
「つまり、どこかで“使っている”」
女性は地図を見つめる。
「戦争か?」
ヴァルクは首を振る。
「それなら、もっと荒れる」
「今回は違う」
エレノアは静かに言う。
「溜めている感じです」
沈黙が落ちる。
街の外で、風が鳴る。
女性が深く息を吐いた。
「つまり――」
「誰かが、力を集めている」
ヴァルクは頷く。
「可能性が高い」
女性は腕を解く。
「で?」
「どうする」
ヴァルクは地図を指す。
「調査隊を出す」
「南の丘を越えて、さらに奥まで確認する」
男が言う。
「大人数は危険です」
「今回は四人」
女性が笑う。
「少ないな」
「静かに行く」
ヴァルクの声は変わらない。
女性はエレノアを見る。
「あなたも?」
エレノアは頷く。
「はい」
「召喚士の感覚が必要です」
女性は少し驚いた顔をした。
「戦えるの?」
ラグナが小さく笑う。
(いい質問だ)
エレノアは穏やかに答える。
「戦うためではありません」
「止めるためです」
女性は一瞬黙る。
そして、肩をすくめた。
「まあいい」
「私はレナ」
「街の警備隊長」
エレノアは軽く頭を下げる。
「エレノアです」
ヴァルクが言う。
「出発は明日」
「夜明け」
レナがうなずく。
「装備は軽くする」
男が続ける。
「地脈測定具は私が持ちます」
エレノアは窓の外を見る。
南の空は穏やかだ。
何も起きていない。
それなのに。
胸の奥が静かに告げている。
これは、まだ入口だ。
ネファルが言う。
(この先だ)
ラグナが続く。
(ようやく面白くなってきた)
ヴェルナシアは風の中で静かに言う。
(嵐の前は、いつも静か)
エレノアは南を見つめる。
まだ遠い。
だが。
もう、歩き始めている。




