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戦わない召喚士エレノアの異世界記録 ――名を受け取り、世界に触れる  作者: ぷにゅん


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第175話 南へ

夜明け前の街は、静かだった。


灯りはほとんど消え、

東の空がわずかに白みはじめている。


南門の前には、すでに三人の影があった。


ヴァルク。

そして、ヴァルクが連れてきた“地脈を読む召喚士”の男。

最後に、エレノア。


正式な調査隊ではない。

騒がせないための、最小人数だ。


ヴァルクが短く言う。


「今回は“確認”だ」


「不用意に踏み込まない」


男が頷く。


「了解しました」


エレノアも静かに頷いた。


「はい」


(戦闘にならなきゃいいがな)


ラグナが言う。


(まだ小さい)


ネファルが落ち着いて返す。


門が開く。


三人は南へ向かった。


街を離れると、すぐに畑が広がる。


朝露が葉に光る。

土は湿り、苗は生きている。


一見、何も変わらない。


けれど――


男が足を止めた。


「……やはり、薄い」


彼は地面に片膝をつき、掌を土に当てる。


呪文を唱えるでもなく、印を結ぶでもない。

ただ、耳を澄ますように目を閉じる。


召喚士が“呼びかける”時の、あの沈黙。


少しして、男が息を吐く。


「流れはあります。止まってはいません」


「ですが…量が減っています」


ヴァルクがエレノアを見る。


「どうだ」


エレノアは目を閉じる。


足裏から伝わる感覚。

地脈は確かに動いている。


でも、昨日より軽い。


「……減っています」


「南へ流れていく感じです」


ヴァルクの視線が南へ向いた。


「自然の変動の可能性は」


男は首を振る。


「自然なら、もっと揺れます」


「波が出ます」


「今は、きれいすぎる」


エレノアの胸が少し重くなる。


自然は、きれいに揃わない。

揺れ、乱れ、偏る。


なのに今は、同じ削り方で減っている。


(桶に溜めてる感じだな)


ラグナが低く言う。


(溜めてる)


ネファルが続ける。


ヴェルナシアはまだ沈黙している。



畑を抜け、小さな森へ入る。


ここから先は街の管理が及びにくい。


空気が変わる。


鳥の声が減る。

風はあるのに、軽い。


男が歩きながら、何度も地面に意識を落とす。


「……下がっています」


「ここから急に」


ヴァルクの声が低くなる。


「森の奥か」


男は頷いた。


「おそらく」


エレノアは森の先を見る。


遠くに、かすかな“揺らぎ”がある。


霧ではない。


景色の端が、微かに歪むようなもの。


(あそこ)


ネファルが言う。


(意志がある)


エレノアの指先が、少し冷える。


戦いの匂いではない。

もっと静かで、もっと嫌なもの。


「戻りますか」


男が小さく問う。


ヴァルクは首を振らない。


「もう少しだけ」



森を抜けると、小さな丘に出た。


南の平野が見える。


草地が続くだけ。

建物も、煙もない。


それなのに――


エレノアははっきり感じた。


地脈が、一本の線になっている。


網の目のように広がっていたはずの流れが、

細く、長く、南へ引き伸ばされている。


男が息をのむ。


「……これは」


ヴァルクの目が鋭くなる。


「意図的だ」


エレノアはゆっくり頷いた。


「集めています」


もう迷いはない。


(街単位じゃねぇな)


ラグナが言う。


(もっとでかい)


ネファルが続ける。


そして――


ヴェルナシアが、初めてはっきりと声を出した。


(規模が違う)


その声は、静かで重い。


エレノアの胸が高鳴る。


怖いのではない。

理解してしまったからだ。


これは街の問題ではない。


もっと広い。


もっと遠い。


ヴァルクが言う。


「報告する」


「正式に調査隊を組む」


そして、エレノアを見る。


「あなたも来るか」


問いではなく、確認。


エレノアは南を見つめたまま答える。


「はい」


声は揺れない。


「止めなければいけません」


風が丘を渡る。


静かだ。


だが遠くで、確かに何かが動いている。


見えない。

けれど確実に。


世界は次の段階へ入った。


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