第十九話 逃げてないでしょ
畑の作業が終わり、
三人は水路のそばに腰を下ろしていた。
ミラが、ぐっと伸びをする。
「はー……
今日は、よく動いた」
「……お疲れさまです」
エレノアは、水筒を差し出す。
「ありがと」
ミラは一口飲んでから、
リーナの方を見る。
「で?」
「で?」
「さっきの話」
リーナが、少しだけ肩をすくめる。
「……言えなかったやつ」
「聞こえてたよ」
「……やっぱり」
ミラは、にやっと笑う。
「でもさ」
少しだけ、真面目な声になる。
「ちゃんと、
話しに来たじゃん」
リーナは、きょとんとする。
「……はい」
「それ、
前のリーナなら、
どうしてた?」
リーナは、少し考えてから答えた。
「……一人で、
悩んでたと思います」
「でしょ」
ミラは、エレノアを見る。
「ねえ」
「……はい」
「もうさ」
間を置く。
「逃げてないよね」
エレノアは、一瞬、言葉に詰まった。
「……え?」
「人からも、
自分からも」
リーナが、そっと続ける。
「……逃げてない、
と思います」
エレノアは、視線を落とす。
「……まだ、
怖いです」
「うん」
ミラは即答する。
「それ、普通」
「……でも」
「でも、
前ならさ」
ミラは、指で地面をトントン叩く。
「『大丈夫です』って言って、
引いてたでしょ」
エレノアは、否定しなかった。
「……はい」
「今は?」
「……聞いてます」
「でしょ」
ミラは、満足そうに頷く。
「それ、
立派な前進」
リーナが、小さく笑う。
「……エレノアさん、
気づいてないだけですね」
「……そう、
なんでしょうか」
ミラは、肩をすくめる。
「だってさ」
少しだけ声を落とす。
「頼られるの、
前より、
嫌そうじゃない」
エレノアは、少し考える。
「……嫌、
では、ないです」
「ほら」
ミラは、にっと笑った。
「それ」
風が、畑を抜ける。
杭の影が、
三人の足元で重なる。
リーナが、ぽつりと言う。
「……言葉、
もらえて、
よかったです」
「……こちらこそ」
エレノアは、そう返した。
「……一人で、
考えなくて、
済みました」
ミラは、立ち上がる。
「じゃ、
今日はここまで」
「……はい」
「また、
続き、
やろう」
エレノアは、頷いた。
「……はい」
胸の奥で、
静かに、でも確かに。
何かが、前に進んでいる。
羽ばたきじゃない。
でも――
もう、立ち止まってはいない。
(つづく)




