第172話 確信の夜
夜市が終わったあとも、街はまだあたたかい。
人の声は減ったけれど、
灯りはまだ消えていない。
エレノアは一人で南門の外へ出た。
誰にも言っていない。
今は、自分で確かめたかった。
門の外は静かだ。
虫の音。
草の揺れる音。
いつもと同じ夜。
でも。
足を止める。
地面に意識を向ける。
ゆっくり、呼吸をする。
地脈は流れている。
止まっていない。
枯れてもいない。
それなのに。
「……軽い」
思わず口に出た。
いつもより、重みがない。
水が流れているのに、水かさが少ないような感覚。
ネファルが言う。
(減っている)
ラグナが続く。
(燃やされた匂いはしねぇな)
ヴェルナシアの声は低い。
(乱れてはいない)
そこが、おかしい。
地脈を強く使えば、荒れる。
乱れる。
波打つ。
だが今は違う。
きれいに、少しずつ減っている。
まるで、
どこかで桶に水を溜めているみたいに。
エレノアは土を握る。
乾いてはいない。
枯れてもいない。
でも。
「……薄い」
力が、少し足りない。
ほんの少し。
だから誰も気づかない。
街の灯りも、消えていない。
鍛冶場の火も、安定している。
でも。
確かに、少しずつ減っている。
「吸われている……?」
エレノアは首を振る。
違う。
吸われるなら、引っ張られる感じがある。
これは違う。
「……集められている」
南の方角を見る。
星は出ている。
雲もない。
それでも。
空気の奥が、重い。
ラグナが低く言う。
(誰かがやってるな)
ネファルは短く答える。
(偶然ではない)
ヴェルナシアが、はっきりと言う。
(自然の流れではない)
エレノアは目を閉じる。
怖い、とは思わない。
でも。
胸の奥が、ひやりとする。
もし、このまま減り続けたら。
灯りが弱くなる。
作物が育ちにくくなる。
鉄も、伸びなくなる。
気づいたときには、戻らないかもしれない。
「……止めなければ」
声は小さい。
けれど、はっきりしていた。
まだ誰にも言わない。
確信がほしい。
でも。
これは偶然じゃない。
誰かが、どこかで、集めている。
南の空を見上げる。
夜は静かだ。
静かすぎる。
嵐は起きていない。
戦いもない。
それでも。
エレノアは、初めて思った。
これは、放っておけない。




