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第20話 ある剣士の最期(※閲覧注意)

「うう、どうして……ひぐっ、どうしてこんな目に……嫌だ……もう街に戻りたい……」


 ふと気づけば近くからすんすんと鼻を鳴らし、すすり泣く声が聞こえる。

 青年と狩人と続く仲間の死に、誰からともなく心が折れてしまったのだろう、抵抗する気力すら起きないほどに。


「げっげっげっ、安心しろ寂しくないようすぐにお仲間の元に送ってヤル。オレサマは優しイ!」


 しかしそれで許してもらえるはずもなく、ボス猿の指示の下で再び血の宴が開始される。


「ひっ――いやああぁぁああっ!」


 今度の犠牲者は……ああ、剣士の女性か。

 見れば、いつの間にか樹冠の中から姿を現していた巨大蜘蛛(アトラススパイダー)の吐き出した糸によって彼女の体がぐるぐると巻かれている。まるで綿飴みたいに。

 かろうじて頭だけは露出しているが、あれでは自力で逃げ出せないはずだ。

 誰かが助けに行かないと……誰か? そんなのまだ生きてる俺がやるしかないだろう。

 そうだ、なにを寝ているんだ。

 目の前でまたかつての仲間が殺されようとしているんだぞ。

 なんの役に立たなくてもほんのわずか時間稼ぎをするくらいはできるはずだ。

 そうして他の人間が奮起してくれたら最良だ。


具御語号後五(グゴゴゴゴゴ)!」


 体を起こすために力を込めると、それを察したホブゴブリンに思いきり地面に押しつけられる。

 まるでこのまま黙って見ていろと言わんばかりであり、悪趣味なことこの上ない。

 懲りずにまた立ち上がろうとしたところで再度ホブゴブリンによって邪魔をされ。

 こうして俺の抵抗はむなしく終わりを告げた。

 やはり無力な執事ではこの程度が限界か。


「こ、こんなところでまだ死にたくない……! アタシには夢があるの、可愛くてすごく強い有名な剣士になるって夢が。あの『まつろわぬ槍』のリーダー、ヴィオレットを超える存在にアタシはなるんだ……! そうすればアタシを馬鹿にした連中全員を見返してやれるの……!」

 

 このタイミングで訥々と自身の夢を語り始める剣士の女性。

 さながら遺言のようにも聞こえるが、無情にもそこに魔物の牙が向けられる。

 いまだに彼女と繋がったままの蜘蛛の粘糸が、その宿主の元に向けて徐々に巻かれていく様子が見て取れた。

 俺との距離がどんどん離れていく。影が小さくなっていく。もはやいくら伸ばそうとも互いに手の届かないところまで。

 だけど彼女のその痛ましい視線とだけは確かに交わり。

 そして――。


「ホントはずっとあの時のこと謝りたかったから昨日再会できた時はすごい嬉しかったんだ、でもおっさんにあんな酷いことしちゃったから素直になれなかっただけなの! ね、キチンと謝るからアタシのことまで見捨てないで、お願い助けてよ怖いよ死にたくないよおっさ――《《レイド》》さん! ……ねぇ聞いてる⁉ もしかして絶対にアタシたちを許す気はないってことなのそうなのレイドさんレイドさんレイドさぁん!」


 壊れたように何度も俺の名を呼ぶ剣士の女性。

 他の誰でもなく最後に彼女が縋ったのは、以前自らが必要ないと切り捨てたはずの男だった。

 しかし今の俺は知っている。あの時の追放劇はなにも彼女たちの本心からの行いではないと。

 だから許す気もなにも、あの出来事はとっくに自分の中で消化しきったことで恨みはない。

 ただその上でこの状況からあの子にかける言葉も取れる行動も見当たらないだけなんだ。

 図らずも俺が彼女を見捨てる結果になったのは事実なのだから、逆に恨まれることで役立たずの執事に怒りの矛先を向け、少しでも彼女の死への恐怖が和らぐことを期待するしかない。


「きゃあぁああああぁぁぁあああっ!」


 絹を裂くような悲鳴と同時に強く糸が引っ張り上げられ、木々の間に張られた蜘蛛の巣(テリトリー)まで一気に連れていかれた剣士の女性。

 ひたすら泣き叫ぶ彼女の肩口辺りに、巨大蜘蛛の注射針のような二つの牙が突き立てられた。

 その光景自体はあのボス猿が狩人女性の脳みそをすすっている時と酷似していたが、行為の意味合いはまるで違った。


「おうっおうっおううううううう」


 紙切れほどの抵抗力を奪うためにおそらく毒液を送られているのだろう、蜘蛛の巣に磔となった剣士の女性は目をぎょろんと剥いて苦しみだす。

 やがて頃合いと見たのか巨大蜘蛛は彼女から牙を引き抜き、上あごと下あごをギチギチと鳴らしながら大きく開く。

 いわゆる『体外消化』と呼ばれる、蜘蛛独自の捕食方法を行うために。


「いーーーーーーーーーーーー」


 もはや言語ですらないただの雑音を発する剣士女性の顔が一瞬にして消える。

 それが巨大蜘蛛の口の中に頭から飲み込まれたせいだと気がついたのは、グチャグチャと下品な音が響き出してからのことだった。


「げっげっげっ、良い食べっぷりダ! 見ていて気持ちがイイ! 人間には他人の食事風景を見て楽しむ文化があると聞いたガ、その意味がヤット分かったゾ! げっげっげっげっ!」


 美食家なのか、巨大蜘蛛はその巨体に似合わず味わうように少しずつ、それでいて丁寧に彼女の体を噛み砕いていく。

 巨大蜘蛛が一噛みする毎に意思の介在する余地もなくなった遺体がビクン! ビクン! と外部からの筋刺激ででたらめに動く。

 その様子を手の空いているホブゴブリンは頭上で手を叩き、さも愉快そうに見て笑っている。

 中には指笛を吹く個体すらいた。つまみに狩人女性の足の指を()みながら。

 魔物にとって人間の死とはかなり面白い見世物らしい。

 とはいえ、これで被害者が三人目になる。


 ……この悪夢はまだ終わらないのか。

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