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第11話 やり直したい? 今更もう遅い

「とにかく考えといてくださいよ今の話。俺マジ無理っスから」


 青年が念を押してきたその瞬間、俺たちのものではない大声が聞こえてきた。


「ふざけないでください!」


 ミュリエルだった。

 その場で立ち上がって元パーティーメンバーの面々をキッと睨めつけている。

 普段怒りの感情を露わにすることがない彼女があんなに怒っているところを見るのは初めてだ。


「寄ってたかってパーティーから追放しておいて今更レイドさんには戻ってきてほしい? そんな自分勝手なことってありますか!?」


 ……ちょうど彼女もまた俺と同じ話を向こうで聞かされているようだ。


「確かにそのことに関してはおっさんに悪いことをしたと思ってる。だけど仕方がなかったの! 青年(あいつ)のユニークスキルのせいで私たちの本音じゃなかったのよ!」


 そう言って元リーダーはこちらを、正確には俺の隣を盗み見る。


「だとしても言い訳になりません! さっきから話を聞いていると結局貴方たちは自分たちのことばっかりじゃないですか。信頼していた仲間からいきなり捨てられたレイドさんの気持ちを考えたことはありますか?」

「か、考えたよ。もしもおっさんの立場だったらきっと悔しいし悲しかっただろうなって。だから今はちゃんとみんな反省してる。ね、みんな?」

「う、うん、それはもちろんだし」

「罪悪感でいっぱいだったのー」


 しかしそれぐらいでは納得できないのかなおもミュリエルは声を荒らげて詰め寄る。


「反省したと口でならなんとでも言えますよね。だけど実際に貴方たちはレイドさんを探し出して謝ろうとしましたか!? さっき会った時は? 私、待ってました。貴方たちがレイドさんにいつ謝罪するのかと。でも、いつまで経ってもありませんでした。たまたま再会できたから今度はあっちの男性を切り捨ててレイドさんに戻ってきてくれだなんて、心から申し訳ないと思っているのならばそんなこと口が裂けても言えないはずです、違いますか⁉」

「そ、それは……」

 

 彼女のあまりの迫力に、さしもの元リーダーの女子も言葉を詰らせた。

 他の二人も困惑したような表情を浮かべ、二の句が継げないでいる。


「本当に最低です、貴方たち――」

「もういいよ、ミュリエル」


 たまらず両者の間に割って入る。

 痛いところを突かれて鼻白む元リーダーの女子と俺のことで顔を曇らせるミュリエルの姿、そのどちらも見たくはなかった。


「ありがとう、ミュリエル。君が俺なんかのために怒ってくれるその気持ちだけで十分だよ」


 慰めるというのは立場が逆なのかもしれない。しかし俺は他人の心の痛みをまるで自分のことのように受け止め、ままならない感情に涙を湛える彼女の姿に、確かに救われたのだ。


「だけどレイドさん、私悔しいんです! なんで貴方みたいに仲間想いの人が馬鹿にされなくちゃいけないんですか。私よりずっと長くレイドさんといたはずなのに、あの人たちにはその優しさが伝わらなかったなんてむなしすぎますよぉ」


 翡翠色の瞳に溜まっていた玉のようなその涙がとうとう溢れだす。

 元パーティーメンバーを責め立てる声はやがて嗚咽へと変わり、やがてひんひんと鼻まで鳴らし始めた彼女の頭をそっと撫でる。

 労るように何度も何度も。


 やがてミュリエルが落ち着いてきた頃を見て、改めて元リーダーの女性に向き直った。


「せっかくのパーティー復帰の話だが、断らせてもらう。悪いが他を当たってくれ」


 ぴしゃりと告げると、「そう」と頷く。

 ミュリエルからの胸を打つような説教が堪えたのか、まるで力のない返答だった。


「……残念だけど私たちがおっさんにしたことを考えれば仕方ないよね」

「そうじゃないさ。その件はもうお互いに済んだことで俺が誘いを断ったことと関係ない。だけど俺たち執事はパーティーリーダーをその時の主と定めて付き従う。そして執事は主の許可なくして自らパーティーを去ることは許されない」


 俺が今(そら)んじたのは初歩的な執事の心得。

 昔と比べて執事の立場がそれなりに見直された現在では、この心得もさしたる強制力を持たなくなった。

 しかし俺はそれを自身の座右の銘として深く心に刻み込んでいた。


 執事とは、雇われるから付き従うのではない。この主に仕えたいと思うからこそ従属するのだ。

 たとえば夢見がちだが、そこが好ましくもある心根の清らかな少女のように。


「俺にとって今の主はミュリエルだ。その彼女が離脱を許さないのだから俺が君たちのパーティーに戻ることはできない。戻るつもりもない」


 つまりは、そういうことだ。

 おっさんと呼ばれる歳までくるとその時感じた理不尽に対する気持ちなんかも、日々の老廃物と一緒に流れ落ちてしまう。

 だからなんの遺恨なく純粋な気持ちで昔の仲間と決別することができた。


「レイドさん……」


 そんな俺の心情の吐露を耳にして。

 泣き止み、鼻をすすった我が優しき主君の反応はといえば。


「……はいっ! 今後も私はウチの執事を手放すつもりはないです。だから貴方たちのパーティーのところに彼を送り届けることも、私がそちらのパーティーに加入するつもりもありません」


 だから私の大切な男性(ヒト)は諦めてください、最後にそう付け足した。

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