図書館<ランティアの灯>
ランタンの光が目立たなくなり、再び朝がやってきた。
今日は村の1番の名所、<ランティアの灯>に案内してもらえるという。
コンコン。
身支度を整え終えてすぐ、ちょうどのタイミングで部屋のノックが聞こえた。
「ランティアの灯の司書をしております。セラフィーナです。本日図書館の案内をということで参りました」
まだ扉を開ける前から、丁寧な自己紹介。
申し訳なくなって、理央は急いでドアを開けた。
セラフィーナはサラサラな銀髪をゆるく一つでまとめている女性で、眼鏡をかけている。スッと通った鼻筋が、きらりと光る眼鏡と相まって知的な印象を与える。
「一之瀬 理央です。こっちはポコです。今日はよろしくお願いします」
「ピヨー!!」
理央とポコも挨拶を終えると、セラフィーナはその場でお辞儀をした。
合わせて理央もお辞儀をする。
「それではご案内します。行きましょう」
お辞儀の文化はこの世界にもあるんだな……などと思いながら、理央たちはセラフィーナについていった。
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理央たちがセラフィーナに連れられて辿りついたのは、まるでランタンそのものだった。昼間でもぼんやりと光っており、その光の強さが窺える。夜きたらさぞ綺麗なことだろう。
入り口には木の扉。その上に浮かび上がるようにして「ランティアの灯」と書かれたプレートがある。
「中へ、どうぞ」
セラフィーナの案内で中に入る。
慣れ親しんだ古書の香り。そして穏やかでふんわりとした花の香り。それらが混ざり合った優しい空気に理央は包まれた。
中はしんと静かで、天井のランタンたちが音もなく揺れている。棚は丸みを帯びた不思議な形をしていて、本たちがまるで自分の居場所を選んでいるかのように並んでいた。
「ここには、“語る本”もいくつかございます。必要なときにだけ、話しかけてくるんですよ」
セラフィーナがそう言って、微笑む。その横顔が、どこか懐かしさを帯びて見えた。
「本が語る……」
昨晩の不思議な現象といい、語る本といい、元いた世界ではあり得ないことが起こる世界なのだと理央は実感していく。
「この図書館は、名前の通りランティア様が建てられました。ランティア様は旅の魔法使いで……特に灯りの魔法がお得意でした。人々の心の中の暗がりに灯りを灯す、そんなこともしてくださっておりました。今もずっと、この村が照らされ続け、明るい村でいられているのも、ランティア様の魔法のおかげなのです」
セラフィーナは少し遠くを見つめながら語りだす。
魔法、と理央は口の中でつぶやく。
やっぱり、ここはただの別世界ではない。
「ランティア様は長く滞在され、自身の知識を残すため、この図書館を建てられました。そして自らの魔法を村のランタンや本棚へと託した。
____この図書館が、誰かの心を照らす光となりますように____
この願いと共にです」
ランティアの意思を村人たちは継いで、ここまで守ってきたのだ。そして灯りは村人たちをも守ってきた。
ただの綺麗な灯りじゃない。誰かを守り、誰かに守られ受け継がれてきた強い灯りなのだ。
「と、このあたりでしょうか。良い時間なのでお昼にしませんか?」
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昼食のあと、理央はセラフィーナに礼を言い、村の中を少し歩いて回った。
灯りのない昼間のアウローラ村は、まるで別の場所のように静かで穏やかだった。
けれどどこかで感じるのだ。
この村の“夜”には、まだ知らない顔があると。
そして、夜が来た。