アウローラ村
ポコについていくと、やがて草原を抜け、ぼんやりといくつかの灯りが見えてきた。
灯りは理央とポコを誘うように、先へ先へと続いている。
この子は、この先を知っているのだろうか。
なにが起こるのかわからなくて少し不安な気持ちと、楽しみな気持ちが入り混じる。
ま、ポコがいるならなんとなくどうにかなりそうか。
そう気持ちに折り合いをつけて進んでいった。
灯りは段々と等間隔になり、やがて不思議なほどまっすぐと大きな門に繋がった。導かれるように整列した灯りは、まるで結界のようだ。
「アウローラ、村……」
どうして文字が読めるのか。謎は深まるばかりだが、まあこの際流されてみよう。
ここは村人の住まう集落のようだ。
門の先には幾つかの家らしき建物と、それとは別のまるでランタンのような建造物。そしてそれらを取り囲むようにランタンがあちこちに灯されていた。
「ピヨ!!」
ポコがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
こちらへ来いと言っているのだろうか。
理央の足は逆らうことなど知らないように、自然と前へ進んでいた。
右を見ても左を見ても灯り、灯り。
灯りが理央とポコを包んでいる。でも眩しくはなく、目に優しい灯りだった。
幻想的なその風景は、夢であってもそうでなくても忘れられないだろう。
ポコなんて、もはや発光してるんじゃないかってくらい光を集めている。
歩き続けていると、やがて村の中でも一層光り輝く屋敷に到着した。
「ここは……?」
「ピヨ!!」
ポコがより一層高くジャンプをしている。
入ってほしいのだろう。
「えーっと、」
コンコンコン。
ノックを3回。理央はおずおずと少し訝しげに扉を見つめながら優しく叩いた。
「入んなさい」
家の中からしわがれた、けれどあたたかみのある声が聞こえる。
おそるおそるドアを開けると、ポコがいち早く飛んで入った。
理央は手を伸ばして叫ぶ。
「あっポコ!!」
「ふぉっふぉっふぉ、旅人かの」
「え?」
「……いや、これまたお前さん、面白い子を連れてきたのう」
「ピヨ!」
「わしはこの村の村長。ベルムートじゃ」
どうやらポコとベルムートは知り合いのようだ。
ベルムートは椅子に座ったまま、にこりと笑った。
見た目は7、80代のお爺さんだ。長年伸ばしているのであろう白い髭とずっと着続けているのかボロボロになったコート、まさしく長老という言葉の似合う人だった。
ポコはベルムートの周りを一飛びすると、理央の横に戻ってきて着地した。
「私は、一之瀬 理央です」
「いちのせ……ふむ、珍しい響きじゃの。こちらの言葉ではなかろう」
「そうなん……でしょうか?」
「やはりお主は旅人じゃな?」
「あ、えっと……」
まごついた理央を見て、空気が変わった。ピリついた。
旅人かどうかは理央にはわからない。ただ、この世界の住人ではないことだけは確かだった。そうなったら、やっぱり旅人なんだろうか。
ベルムートが鋭い目つきで見ている。お付きの人達もじっとこちらを見ている。まるで理央を敵かどうか見定めているようで、少し鳥肌が立つ。
「そう、です。……たぶん」
理央がそう答えるとパッと場が明るくなった気がした。
ベルムートの目つきも柔らかなものになり、これが村を守る村長の重みなのだと実感する。
「そうかそうか!ようやっと旅人が現れたわい!今夜はゆっくり休んでいくといい。……明日から忙しくなるかもしれんがの」
「え、あ、はい……ありがとうございます?」
理央は困惑しながらも、その場の喜ばしい雰囲気に飲まれてお礼を言った。
「ポコ、宿に案内お願いできるかの」
「ピヨ!!」
やっぱりポコって名前で合ってたんだ。でも、それにしても村長と仲がいい。
ポコは改めてぴょんぴょんと跳ね、理央にこの建物を出るように促している。
「おやすみなさい」
「あ、おやすみ、なさい」
ベルムートの包み込みような声色に、理央も思わず挨拶を返して、村長の家を出た。