不思議な恐竜
目が覚めると、草原に寝転がっていた。
ぼんやりとした視界、広がるは淡い水色の空だった。
なにこれ、まるで夢の中みたい。
理央はありもしないことを思いながら、目を擦って上体を起こす。
まずは今の状況を整理しなくては。
背負っていたはずのリュックも無くなっている。理央は今なにも持っていないということに、少しだけ不安が広がる。
理央は頭を横に振った。
ばくばくといつもより早い鼓動を落ち着かせるべく、頭をフル回転させる。
そうだ、よく知らない古書店の中で、眩い光に包まれて、今ここにいるのだ。
ここは、どこ?
少なくとも帰り道ではないし、元いた古書店でもない。
ならば、何か手掛かりを見つけなきゃ。
理央は立ち上がり、制服のスカートについた草を払う。
手掛かりを見つけるといっても、どちらへ進めばいいのかわからない。
方角もわからないのに歩いていいものかと悩んでいた、そのときだった。
「ピヨ?」
高い声。
何かの鳴き声?
理央は辺りを見回した。
「ピヨ!」
目に飛び込んできたのは、草むらで大きくジャンプする小さな緑色の恐竜だった。
「きょ、恐竜!?」
確定だ。夢だ。でも夢にしてはだいぶぶっ飛んでいるし、感覚もしっかりしているし……。
そう考えているうちに、恐竜みたいな生き物はパタパタと羽を使って飛んで近づいてきた。
「え、なになに、どうしたの……」
子猫サイズの小さなその子は理央の足に頬づりをする。気持ちよさそうに、にっこりと笑いながら。
「君も、迷子なの……?」
「ピヨ!」
「そう、一緒だね」
「ピヨ?」
理央はしゃがみ込んでその子と目線を合わせると、にっこりと笑った。優しく頭を撫でる。
その子は嬉しそうに笑うと、小さくジャンプしながら理央の周りをぽてぽてと歩いた。丸っこい体が歩くのに合わせて揺れている。
「なんかポコポコしてる……」
「ピヨ!!」
ぽつりと呟いた理央の言葉に、その子はぱあっと一層嬉しそうに元気に鳴いた。
「ポコ?」
「ピヨ!」
「ピヨ?」
「ピヨ……」
ふふ、と理央は笑う。
「……ポコ、ね。……ま、いいか」
そう言った理央の表情は、ほんの少し和らいでいた。
早くなっていた鼓動も、すっかり落ち着いていて。
焦っても仕方がないなと、理央は立ち上がった。
「ピヨ!!」
ポコがぴょんぴょんと飛び跳ねて、片腕で先を指した。
「あっち?」
ポコは振り返ると大きく頷いた。
どうやら、道案内をしてくれるようだ。
せっかく迷い込んだこの世界、かわいいこの子に導かれて、ちょっと遊んでみようじゃないか。
理央はふっと笑うとポコについて歩いて行った。