夢と現実
きらきら。
灯火が明るく輝いている。
きらきら。
村が輝いている。
理央は迷い込んだように村を彷徨う。ポコはいない。
やはり村の人々には理央の姿は見えていないようだった。
ピカピカのクワや鋤を手に、畑仕事に励む村人たち。
白く洗いあげられたタオルが、風に揺れている。
誰もが、笑顔だった。
「灯し守に会いに行こう!」
子どもの誰かがそう叫び、おー!と歓声があがる。
小さな足音が地面を打ち、理央もその波に引き寄せられるように走っていった。
「灯し守さま!灯し守さまのおかげで、今日も元気に過ごせています」
声をそろえて讃える子どもたちの先にいたのは、ランティアの灯火で見た、あの“灯し守”と、どこか似た輝きを放つ存在だった。
「……全然違う。本来は、こんなに明るい村だったのかな……」
胸の奥がざわつく。
本当はこんなにも素敵な村だったのだとしたら、どうして……あんなにも異様な姿へと変貌してしまったのだろうか。
ふと子どもたちの輪の中に、見知った背中を見ついた。
フィンだ。
今よりもずっと大きく、明るく笑っている。
理央が見ていることに気づいたのか、フィンはゆっくりと振り返った。
意味深に微笑みながら理央を見つめる。
「また、会おう」
_______はっと目を見開いた瞬間、
……夢だった。
自分の腕越しに、作業机が見える。机に突っ伏して眠っていたようだ。
横を向くと、たくさんのランタンが目に入る。すやすや気持ちよさそうに眠るポコの姿もあった。
そうだ、ランタン屋敷でランタンを修理しようとして上手くいかなくて……椅子に座ったまま、眠ってしまったのだ。
理央はぼんやりと思い出す。
夢を見ていたようだった。
けれどその胸の高鳴りと、瞼の裏に残る光景だけは、現実のものだった。
理央はゆっくりと上体を起こし、手のひらを見つめた。
そこには、あの村のきらめきも、フィンの笑顔も、もうない。
だけど、確かに____触れた気がした。
「……フィン……」
名前を呼んだ声が、小さく部屋に落ちて、消えた。
外はもう、朝になっていた。
「フィンに会いに行かなくちゃ」
「……ピョ??」
決意のこもった理央の声に、ポコが目を覚ます。まだ眠たいのか目を擦っている。数度瞬きをして理央を見た。
「ポコおはよう。フィンに会いにいくよ!何か手がかりがあるかもしれない」
「ピヨ!!」
昨晩より少し元気になった理央に嬉しくなったのか、ポコはぴょんぴょんとその場で飛び跳ねた。
…
理央とポコはランタン屋敷を出た。
細く頼りなげな炎が今もランタンの中でゆらめいている。
屋敷の外も相変わらず灰色に包まれて、ずっと眠っているかのようだった。
「ピヨッ??」
ポコが何かに反応してぱたぱたと走り出す。
「あ、待って!ポコ!」
理央も慌ててポコを追いかける。
曲がり角を曲がった先、そこにいたのは、見覚えのある背中だった。
「フィン!」
振り返った少年は、夢で見たよりもどこか小さい。
「あ、夢のお姉ちゃん……おはよう」
「おはよう。ねえ昨日……これ、置いていったよね」
理央は思わず食い気味に、昨日拾った記憶の鍵をポケットから取り出した。
フィンはその鍵をじっと見つめている。
「その鍵で……灯火のところに行けるんだ」
「フィンのものなの?」
「そうだけど……お姉ちゃんにあげる」
その言葉の裏に、どこか重たい決意が滲んでいた。
フィンは何かを知っている。今、聞き出さなくてはならない。
いつ母親らしき人物や、そのほかの村人が通りかかるかわからない。そうなってしまうとまた振り出しに戻ってしまう。
「どうして私にくれるの?何か知っているの?」
「助けて、僕たちを……この村を」
フィンの絞り出されたような寂しさの混じった声に、夢で明るく笑っていたフィンが思い出されて、理央は胸が痛くなった。
「フィーンー!」
遠くからあの母親の声がする。
フィンは理央を一瞬だけ見つめると、そのまま背を向けて走り去っていった。
残された鍵を、理央はぎゅっと握りしめる。
「任せて。……必ず助けるから」




