隣界の旅人 灰色の追憶
「隣界の旅人」シリーズはメインの「雷宝」シリーズの過去編、またはif世界の話になります。
私の両親は殺された。
目の前で猪の獣人に食い殺された。
学校の帰り、山の麓、開けたままの玄関、玄関で血まみれで倒れている父親。
私は警察へ通報しながら母が居るであろうリビングへ向かう。
漂う獣臭と血の臭い、目の前に佇む巨大な獣、血まみれで原形がわからない母親。
私は逃げた。とにかく人が多い所へ、できるだけ明るい所へ。
どれだけ走り続けたかわからない。友達とよく遊びにいく街にたどり着いた。
大通りから脇道に入り隠れる。とにかくあの怪物に見つからないように。
「………ない。」
スマホがない、走っている間に落としたのか。時間を確認できない。助けを呼ぼうにも連絡手段はない。通りにいる人に助けを求める?あの怪物が化けてるかもしれないと考えると…。
私はそのまま朝になるまで待っていた。
「神奈月 梨沙、あってるか?」
突然知らない女性の声で名前を呼ばれ反射的に顔を上げる。
黒いコートに灰色の髪、鋭い目つき。
「鏡博士…お前の父親の同僚だ、上司からお前を保護しろと言われてな。」
「この人は信用していいのか、あの獣人なのではないか、こう思っているだろ、安心しろ警察より安全だ。」
「お前が警察に保護されればメディアが報道してあの獣人がお前を殺しに来る、あいつは人間に化けることが出来る、人間には見分けが出来ないだろう。」
私はこの人を疑っている、だが父の名前を知っている。私の名前を知っている。信用してもいいのかもしれない。
「本当に父の同僚ですか?」
「あーもうめんどくさい、死ぬか生きるかさっさと選べ。」
口が悪い。なんなのこの人。
「…生きt…」
「ならさっさと行くぞおい!」
口の悪い女性は私の手首を掴んで無理やり連れて行く。これ誘拐じゃないの?。
私を連れて歩いて行く女性、名前を教えられてないのでどう呼べばいいのかわからない。
「GONER-ヘプタだ、ヘプタって呼べ。」
ごなー…へぷた…?
「ヘプタさん、どうして私を保護するように言われたんですか?どうして警察に保護されると死ぬと断言できるんですか?」
「あー、簡単に言うと上司の鳳天極夜、あいつ未来が見えるからな、警察に保護されたお前が殺されるのをその『眼で見てる』。我々が保護した方が助かる確率が高いのも見てる。今こうして話してるのも見て聞いてるかもな。」
「未来が見える…」
「未来が見えてるからお前の父親に警告したぞ、その日は家族を連れてどっか遊びに行けってな。でもお前の父親は死ぬことを選んだ、私たちGONERには理解出来ない、人は死ぬことを恐れているのにな。」
なぜ父は死ぬことを選んだのか、なぜ私だけ生き残ることになったのか。それが知りたい。
「お前が今知りたいと思ってることはあのクソやろ…鳳天極夜に聞けば全部分かる。」
悪口が聞こえた。
「おい極夜、連れてきたぞ。」
ごく普通の二階建て一軒家に入り、ヘプタさんが言う。
「はいはいクソ野郎が来ましたよ〜、ようこそ梨沙、ここが我々GONERの拠点、残念ながら鏡君の職場ではないよ。」
「聞いてたのかよクソ野郎。」
笑顔で迎えてくれた高身長の男、この人も黒いコートに灰色髪。GONERとはなんなのか。
「さっそく君の疑問に1つ答えよう。GONER。この世界層で死んだ者で構成された組織、死者故に情報が無い、更新されないし追跡されない。調査やスパイ活動をするのには便利だろ。ヘプタは死んで何年目だったかな?」
「まだ80年だ。あと脳を勝手に覗くな気持ち悪い。」
意味がわからない。死んだ人?生き返ったってこと?
「あの…」
「不可能だよ。君の両親は生き返れない。私の目の前で自ら命を絶つ必要がある。」
「…そうですか。」
希望が消えた瞬間、あの怪物に対しての怒り、そして両親が死んだことへの悲しみが湧いてきた。
「とりあえずリビングの方に連れて行ってあげてくれないか?私は少し準備をする。」
ヘプタさんは何も言わずに私の手を引いて歩く。
「…ほら水、とりあえず飲みな。」
私は感情を抑えることに必死でその声が聞こえてなかった。
「まぁいいや、飲みたくなったらでいいよ。」
私はふと、思い返した。なぜあの時混乱するのではなく冷静に警察に通報したのだろうか。
「あの時の君の行動は普通ならしないよ。申し訳ないがここに効率よく来てもらうために私が少し操らせてもらった。」
テーブルを挟んでそう話す灰色の男。
「いまさら驚かないよね未来見たり死者蘇生したり未来操作したり異世界と自由に行き来したり、なんでもできるバケモノだからね。」
「さて、私は忙しいのでね、ささっと終わらせよう。君は復讐したいと思っている。だがそんな力も金もない。そこで我々GONERだ、我々なら君が扱える武器の調達からアイツの捕獲、証拠隠滅も全部可能だよ、いやー便利だねー!」
私はただただ聞いてるだけだった。怖い。この男が。私の考えを全て言い当て私の行動を操っていたと言うこの男が。
「聞こうか、君は復讐として君の手でアイツを殺したいかい?それとも日本の警察が殺すのをただ待つかい?後者は残念ながら死ぬことは無い。残念だが警察が死ぬだけでアイツは死なない。その点我々であれば捕獲も殺害も可能だが1つ条件がある。君にはGONERになってもらう。」
GONERになる、それはつまり。
「神奈月 梨沙は死ぬ必要がある」
神奈月 梨沙は選択した。己の意思で。
私は彼女を連れて歩く。
罪人にプレゼントするために。
私は彼女に銃を渡す。私が開発した最大限反動も音も出ない第1世界層の貧弱な人間でも簡単に扱える拳銃だ。オート照準機能もついてる。それでいて十分に殺傷能力もある。
「着いたよ。ここの中に罪人がいる。大丈夫、拘束して動けなくしてるから、君が好きなタイミングでその銃で撃ち殺していい。」
GONERは嘘を嫌う。
私は選択した。己の意思で。
男は私を連れて歩く。
私の家族を食い殺したバケモノを殺すために。
私は拳銃を渡される。私でも扱える銃だと。
男は倉庫の前で立ち止まりこの中にあのバケモノが居ると話す。
私は今からこの銃でバケモノを殺した後。この銃で自分の頭を撃ち抜く。
中に入る。そこに縛られ床に転がっているあのバケモノが居た。
やつは私を睨みつけ何か言っている。だが私には何も聞こえない。
やつを取り囲むように7人のGONERと思われる人達が居た、全員仮面を被って顔が見えない。
私は冷静に、銃を構える。アニメや映画で観たポーズでいいやと。
そしてバケモノの頭を狙って引き金を引く。
無音のまま弾け飛ぶバケモノの頭。血肉皮毛骨眼球脳、全てが飛び散る音がする。引き金を引いた瞬間に鳳天極夜は私の視界を手で塞いだから私は飛び散る光景を見ていない。
「罪人の死を確認しました。」
ヘプタさんの声がする。
「さあ、次は君の番だ。このまま自分の頭を撃ち抜いてもいいんだ。」
私がそう囁く。彼女は少々躊躇ったが最終的に己の意思で頭を撃ち抜いた。頭が飛び散る。
「契約完了だね」
私はGONER達が居た家で目が覚めた。テレビではアナウンサーが獣人と少女が銃殺されて発見されたと報道されていた。
「…そっか、私死んだんだね。」
「ああ、死んだよ。派手に頭砕け散ってな。」
そうヘプタさんは言う。
「これでお前はGONERだ、名前は極夜に聞け。あとこれお前の制服だから着替えとけ。安心しろ、私たち女性陣が選んだんだ。」
そう言われて私はヘプタさんと同じデザインの制服に着替える。ただ1点だけ違うところがある。ヘプタさんは七角形のデザインがあるが私のは八角形のデザインになっている。
黒い服に黒いコート、黒いタイトスカート。あと…ツノ?
着替え終わりヘプタさんに見てもらう。
「似合ってるよ、かっこいいしかわいい。」
「…なんか負けた気分。」
自分の無さに対してヘプタさんのデカさ。
「無い方が機動力あって狭いところ通れるから機能性はそっちが上だぞ?」
オーバーキルやめてください。
私はヘプタさんと一緒に階段を下りリビングに向かう。
「おー、似合ってるなぁ、さすが鏡の娘さん。」
そう極夜がいう。リビングにはヘプタさん以外のGONERが6人居た。皆髪色が灰色だった。
「さてと、君はもう神奈月 梨沙では無くなったからね、名前が必要だよね。」
私は考える。かっこいい名前もいいな、可愛い名前もいいよね!。
「残念だけど君の名前はもう決まってるよ、君は『GONER-オクタ』、8人目のGONERとしてピッタリの名前だよ、可愛い名前じゃなくてごめんね〜」
「オクタ…?それって八角形の?」
「そう、GONERは全員そういう名前だよ、みんな自己紹介しようか!!」
最初に大柄な男
「最初のGONER、GONER-ポリゴンだ。なにか相談したいことでも戦闘訓練でもなんでも受けよう、オクタ君。」
次に小柄な少女が
「私は2番目のGONER、GONER-ディゴン。戦いは得意じゃないけど治療はできるから怪我したら言ってちょうだい。綺麗な肌が傷ついたまま放置するのは許さないからね。」
何故か顔を逸らすヘプタさん。
その後、それぞれ順番に自己紹介していった。
3番目のGONER-トライア
4番目のGONER-クアドリラ
5番目のGONER-ペンタゴ
6番目のGONER-ヘキサ
7番目のGONER-ヘプタ
そして8番目最後のGONER-オクタ
私はこれから彼らGONERの一員として神を欺き、情報を収集し、道を変えていく。
200年後、私は○○県某所の研究所の情報を集める仕事がある。それまではゆっくりしてていいと。
できるだけ、私は両親のために死に続ける。
「あの、このメカメカしいツノってなんなんですか?」
そう頭の両サイドに付けた黒いカクカクしたツノを指さしながら聞く。
「それね、それ付けてる間はGONER同士で通信出来るんだ。あとGONERそれぞれに合わせて特殊能力を使えるようにするための魔力回路も詰まってるよ。」
「結構色々出来るんだ。」
「結構色々出来るよ。」
「鏡博士、来年の3月25日は家族を連れて何処か遊びに行った方がいい。なんなら3日連続で有給取ってもいい。」
「なんだ、お前からそんなこと言われるとは、何が起きるんだ?」
「猪の獣人がお前の家を襲う、全員喰い殺される。」
「…そっか、嘘ではないんだよな?」
「GONERが嘘を嫌う理由は知っているだろ?」
「…そうだな、忠告ありがとう」
「お前、死ぬ気か?娘を生かしてお前と奥さんを殺す気か?」
「…お前に隠し事は出来ねぇなぁ…お前の眼なら出来るだろ?梨沙だけ助けて僕と妻を犠牲にすることが。」
「それはお前の娘の幸せになるのか?私はならないと思うが、まさかお前GONERにさせようとしてるのか?」
「…梨沙には長生きして欲しいからね…あと僕の研究に巻き込みたくないし続けたくない。この研究は僕たち以外に恩恵が無さすぎる。」
「それ私の目の前で言う?私じゃなかったら怒ってるよ?たしかに私たち以外に恩恵は無いがそれでいいんだよ。それはいいとして、私としては君の方がGONERとしてピッタリなんだが、なぜ娘を?」
「…私は向いてないよ、梨沙なら君の後の計画の助けになるよ。■種。」
「……そうか分かった、それが貴様の願いだな、神無月 鏡。」
彼、神無月 鏡は警告通り3月25日に死んだ、そして3月27日、神無月 梨沙は死亡した。
「灰色の追憶」はこれで終わりです。
「隣界の旅人」シリーズは本編の「雷宝」シリーズとは別に私が書きたい、書きたくてしょうがない過去編、if世界を書くためのシリーズです。本編にそんなに関係がある訳ではない場合が多いですが、本編で補足できない設定を書くために書いてる事もあります。
今回は今後「雷宝:零 燃エル山脈ノ伝エ」に登場するGONERたちについて、「GONERとは一体なんなのか」について書きました。