1 お金持ちの従妹がやってきた
17歳で両親を亡くしすというのはどういう気持ちなのだろうか。
私はその時両親を亡くして、それから上手く生きて行けるだろうか。
始めてきた東京
やってきた理由は叔母とその夫のお葬式だった。
「紬が小さいころ、会ったんよ。覚えてる?」
「全然覚えてない。けど、同い年ぐらいの子とショッピングモールのキッズスペースで遊んだのは覚えてる」
髪を巻いて、すごくかわいいワンピースを着た女の子だった。
「咲ちゃんね。あの子、どうなるんかね。誰が引きとることになるのかね」
母は自身の姉が亡くなったことよりも、その娘の咲ちゃんの事をしきりに心配していた。
「ウチで引き取れるなら引き取ってあげたいけど。どうしても多額の遺産が絡んでくるからなぁ」
「そうねえ」
母の姉、私の叔母は会社の御曹司と結婚、玉の輿となりそれはそれはお金を持っていた。その遺産を相続する咲ちゃんを狙ってくる親戚もいるかもしれない。だからそのお金をめぐって、ウチ以外ピリピリしている。
人が死んだというのに、人が死んで出来たお金の事でにらみ合っている大人を見ることはきっとこれから一生見ることはないでしょう。
滑稽である。
「トイレに行ってくる」
「気を付けてね」
「うん」
田舎の森の中に住んでいる私にとって、大都会は晴れやかというより、窮屈で息苦しい。人酔いしてしまったから、トイレで落ち着こう。
トイレはなぜだか空いていた。
中へ進むと、大きな鏡の前で、少女が髪を垂らして、両手をついていた。
「安心してる…」
そう少女はつぶやいた。
「咲ちゃん?」
その子は昔見かけたときの面影を残して成長していた。とても化粧をしているせいかもしれないけれども、綺麗だ。見たこともないセンスのいい制服を着ている。
顔を上げた咲ちゃんは私を見ると、なんだか安心しているようだった。
「大丈夫?じゃないよね」
こういう時なんて言葉をかければいいのか全く分からない。
「具合悪かった、施設の人に言って、人がいない場所で休憩させてもらったら?私聞いてくるよ」
「ありがとう。でも大丈夫」
絶対大丈夫じゃないよ。親を二人とも亡くして、すぐにこんなたくさんの人に囲まれて、相手しなきゃいけないなんて。
「そう」
トイレを済まそうとしたとき「やっぱり」と背後から声をかけられた。
「展望台に行く階段を見つけたの。一緒についてきてくれない?」
「、いいよ」
その展望台は、そこまで高くはなかったけれど、結構見渡せて面白かった。
「すごく変なこと言うんだけど」
「うん」
ワンテンポ置いてから咲ちゃんは息を吐きだした。
「私、お父さんとお母さんが死んで、安心してるの。私もなんでこんなこと思うのか分からないんだけど、二人が死んでよかったと思っているの。涙も出てこないの」