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落語【声劇台本書き起こし】

落語声劇「小言念仏」声劇版

作者: 霧夜シオン
掲載日:2024/08/20


落語声劇「小言念仏(こごとねんぶつ)」声劇版


台本化:霧夜(きりや)シオン@吟囁亭喃咄(ぎんじょうていなんとつ)


所要時間:約25分


必要演者数:2名

      (0:0:2)

      (2:0:0)

      (1:1:0)【性別準拠人数比率】

      (0:2:0)


※当台本は落語を声劇台本として書き起こしたものです。

よって性別は全て不問とさせていただきます。

(創作落語や合作などの落語声劇台本はその限りではありません。)


●登場人物


ご隠居(いんきょ):とあるお家のご隠居(いんきょ)。

    事あるごとにお小言(こごと)を言う。


奥様:ご隠居(いんきょ)の奥さん。

   お小言(こごと)の多い亭主(ていしゅ)にも負けてない。



●配役

(※枕は1セリフのみなので、どちらでも好きな方が兼ねて下さい。)


ご隠居:

奥様:



※:【注1】

   作中、ご隠居(いんきょ)役はひたすら扇子(せんす)か何かでどっか硬(かた)いのを叩きながら

   木魚(もくぎょ)を叩く演技をしてください。

   全編通してほぼ叩きっぱなしになりますが、時々いい具合に叩くの

   止めてセリフを言うと良い感じになるかもです。

  【注2】

   なみあみだぶ、のセリフは適当な節(ふし)をつけて若干(じゃっかん)歌うようにすると

   良い感じになるかと思います。他の演者が台詞(せりふ)を言っている時も

   ひたすらなむあみだぶしてますが、その時はトーンを下げて聞こえ

   やすくすると感じ良いです。】


枕:世の中に宗教と呼ばれるものは様々あります。

  宗派(しゅうは)によって教義(きょうぎ)はさまざまに異(こと)なり、人はより自分の心の拠(よ)り所(どころ)に

  しやすい宗派(しゅうは)を信仰(しんこう)するものです。

  日本だと仏教が多いですが、信心深(しんじんぶか)い人になると毎朝お仏壇(ぶつだん)の前に

  座り、お念仏(ねんぶつ)を唱(とな)える。

  けど毎朝毎朝やってるとはいえ、それが本当に信心(しんじん)の深さからきてい

  るかと言うと、人によっては決してそうではない。

  どちらかというと、朝起きて歯を磨(みが)かないと気持ち悪いとか、朝食は

  必ずとらないと心持ちが悪いとか、そういうものに近い心境でやって

  るんじゃないでしょうか。

  その証拠(しょうこ)に家(いえ)の者に小言(こごと)を言いながらお念仏を唱(とな)えるなんてとんでも

  ない人もいるわけでして。


ご隠居:さて…今日も仏様にお念仏をお上げしないとな…。

    【お鈴(りん)を鳴らすSEあれば】

    【ここから木魚を叩く動作】

    ぁ、あっ、ん”ん”っ。

    な~むあみだぶなむあみだぶ【×6~8くらい、ここは真面目に】


    ばあさんや、おいおばあさんや。

    ちょっとこっちへおいでよ。


奥様:【遠くから】

   はぁーいー、何ですー?


ご隠居:何ですじゃないよ、呼ばれたら来なさいよ。


   【二拍】


奥様:はいはい、どうしたんですかおじいさん。


ご隠居:お仏壇(ぶつだん)をごらん、お仏壇(ぶつだん)を。

    お仏壇(ぶつだん)の天井(てんじょう)をごらんってんだよ、ええ?

    蜘蛛(くも)の巣が張ってるじゃないか。

    ダメだよ、あんなとこに蜘蛛(くも)を住まわせといちゃ。

    綺麗(きれい)に掃除(そうじ)をしなさいってんだよ。


奥様:いやですよおじいさん。

   湯治(とうじ)で五日(いつか)ばかりお家空(うちあ)けてたんですから、蜘蛛(くも)だって巣の一つも

   掛けますよ。

   いいじゃないですか。ええと…なんて言いましたっけね…、

   茶河(ちゃかわ)劉(りゅう)ノ助(すけ)のアレみたいで。


ご隠居:芥川(あくたがわ)龍之介(りゅうのすけ)の蜘蛛(くも)の糸だって言いたいんだろ。

    知ったかぶりのシッタカブッダするんじゃないよ。

    仏様がやるから意味があるんだ。

    人間が下手(へた)に真似(まね)するもんじゃない。


    な~むあみだぶなむあみだぶ

    あとな、お花も取っ替(か)えなさいよ。

    お花取っ替(か)えなくても水だけ取っ替(か)えとくとな、

    ぐーんと花持ちが違うんだから。


奥様:今朝おじいさんが起きる前にやりましたよ。

   花だってちゃんと替(か)えてます。

   そんなに気になるんでしたら、ご自分でやったらどうなんです?

   いくら花の持ちが良くたって、おじいさんの態度が鼻持(はなも)ちならない

   と、仏様だって喜びませんよ。


ご隠居:なに花持ちと鼻持(はなも)ちを掛けてドヤ顔してんだ、まったく…。

    落語の聞きすぎだよ。


    な~むあみだぶなむあみだぶ

    誰だいこのお線香(せんこう)曲げて立てたのは。

    お線香(せんこう)はまっつぐ立てろって何べん言わせるんだい。

    わからないんだなあ。


奥様:最初はしゃんと立ってましたよ。

   数珠(じゅず)でも当たって傾(かたむ)いたんじゃないんですか?

   それかおじいさんが偏屈(へんくつ)だからお線香(せんこう)も真似(まね)したんですよきっと。


ご隠居:なにさりげなく亭主(ていしゅ)サゲてんだい。

    まだサゲるのは早いんだよ。5分もたってないじゃないか。

    そんな事よりこっち見なさいよ。

    お線香(せんこう)曲げて立てるから、周りが灰だらけだ。

    たまにはお線香立(せんこうた)て掃除(そうじ)して、灰をふるいに掛けたらどうだって

    んだい、ええ?


奥様:なにおっしゃってるんですか。

   灰はもともと燃えかすなんですから、古いものに決まってるじゃあり

   ませんか。 

   ふるいに掛けたって掛けなくったって”新灰(しんぱい)(心配)”は

   ありませんよ。


ご隠居:だから落語にかぶれてるんじゃないよ。

    見ろ、お線香(せんこう)よりマッチ棒のが余計に立ってんじゃないか。

    マッチの棒立ててたって、仏様喜びゃしないよ。


奥様:またご自分の事を棚上(たなあ)げして。

   そのマッチ棒の卒塔婆(そとば)の山、ほとんどご自分で作ったんじゃありま

   せんか。


ご隠居:何うまい事言ったつもりになってるんだよ。

    まったく……はぁー、

    なむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ

    なんだい、もうお供物(くもつ)さげちゃったのかおい。

    上げるより下げるほうのが早いんだなこのうちは。

    みーんな生き仏(ぼとけ)が食っちまうんだろ。

    なーむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ

    乗せといたの、アレぁちょっと良い餅菓子(もちがし)だったんだよ?

    みんな食っちまう奴があるかい。

    俺だってちょいと目を付けてて楽しみにしてたんだよ。

    一つくらい残してくれたって良さそうなもんだ。


奥様:あらごめんなさい。

   昨日お友達が見えた際にお出ししちゃったのよ。


ご隠居:な~むあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ

    おーい、子供起こして学校にやらないと遅くなるぞー。


奥様:今日は開校記念日だとかでお休みですよ。


ご隠居:なーむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ

    おい鉄瓶(てつびん)が滾(たぎ)ってるぞ。


奥様:はーい?なんですー?


ご隠居:鉄瓶(てつびん)が滾(たぎ)ってるってんだよ。


奥様:なんですー?

   いま手が放せないんですよー。


ご隠居:~~だから!

    鉄瓶(てつびん)の蓋(ふた)がさっきからパックンパックンパックンパックン

    言ってんのがわからねえのかい!


奥様:えー、なんですってー?

   もっと大きな声でおっしゃってくださいなー!


ご隠居:鉄(てつ) 瓶(びん)!

    蓋(ふた)きらねえと噴(ふ)きこぼれるぞ。


奥様:もう、そんなにおっしゃるなら一旦(いったん)お念仏(ねんぶつ)止めて、

   ご自分でやればいいじゃありませんか。


ご隠居:いったん始めたら最後まで止めない事にしてるんだよ。

    いいから早く鉄瓶(てつびん)なんとかしなさい。


奥様:はいはい。


ご隠居:な~むあみだぶなむあみだぶ

    なむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ

    飯(めし)が焦げくせえぞー。


    飯(めし)が焦げくせえってんだよ!


奥様:ウチじゃありませんよ、お隣です。


ご隠居:なに、お隣?

    お隣だって飯(めし)が焦げていいわけないだろ。

    教えてやんなさい、まだ若夫婦(わかふうふ)なんだから。


奥様:はいはい、言ってきますよ。

   【遠くで】

   お隣さーん!

   ご飯が焦げてますよー!


ご隠居:な~むあみだぶなむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ

    なむなむなむあみだぶ

    赤ん坊が這(は)って来たぞー。


    【一拍】


    赤ん坊がこっち這(は)って来たよ。


    なむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ

    赤んぼそっちへ連れてけ。赤んぼをそっちへ連れてけってんだよ。

    お念仏(ねんぶつ)の邪魔になるじゃないか。


奥様:いいじゃありませんか。

   お念仏(ねんぶつ)聞かせてあげたら。


ご隠居:いいから赤ん坊連れてけって!

    俺のツラぁのぞき込んで変な顔してんだよ。

    なむあみだぶなむあみだぶ

    【赤ん坊に】

    …ばぁ。


    なむあみだぶなむあみだぶ

    赤ん坊がなんか考えてるから気を付けろー。

    首かしげたまんま動かなくなっちゃったんだよ。


奥様:おやまあ、何でしょうね?


ご隠居:何でしょうじゃないよ、こっち来てごらんこっち。

    ちょっとこっち来て、赤ん坊そーっと持ち上げて、そーっと。


奥様:ぼうや、むずかしい顔してどうし…あら…あらあらあら。


ご隠居:あーぁ、やっちゃったよこらぁな。

    粗相(そそう)しちまうのはしょうがないんだ、赤ん坊なんだから。

    鉄瓶(てつびん)の湯を畳(たたみ)こぼして、

    ぼろっ切れ持ってきて拭(ふ)きなさい。


奥様:あらあら、ぼうや、ちょーっとこっちにいなさいね。


ご隠居:いいから早く、鉄瓶(てつびん)の湯をじかに畳(たたみ)へこぼしていいから、

    染み込んじまう前にぼろっ切れ持ってきて拭(ふ)きなさい!


奥様:いま拭(ふ)いてますよ。

   そんなに怒鳴(どな)らなくたっていいじゃありませんか。


ご隠居:な~むあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ

    いいか、ちゃんと畳(たたみ)の目なりに拭(ふ)くんだよ。


奥様:あたしを何だと思ってるんです。

   嫁(とつ)いできてウン十年、家事全般(かじぜんぱん)きちんとこなせる相手に対して

   それはないんじゃありませんか。


   聞いてらっしゃるんですか!


ご隠居:な~むあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ

    なんだようるさいね。

    あのな、人がお念仏(ねんぶつ)あげてるとこへ話しかけるんじゃないよ。

    そんなことされたら、信心(しんじん)に身(み)が入らないだろ。


奥様:あちこち気を散(ち)らしながらやってる人に言われたくありません。

   はいはい、邪魔者はお台所に引っ込んでますよ。


   【二拍】


   あ、御御御付(おみおつけ)の実(み)を考えてなかったわね。

   おじいさーん。

   おじいさーん! お付けの実(み)は何を入れますー!?


ご隠居:なむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ

    お付けの実(み)なに入れましょう?

    そんなものはね、ゆんべのうちに考えて支度(したく)して、

    それから寝るんだ。

    今ごろになって考えてる奴があるかよ。


奥様:しょうがないじゃありませんか。

   昨日はついつい内職(ないしょく)で午前様(ごぜんさま)だったんですから。

   お芋(いも)入れましょうかー?


ご隠居:午前様(ごぜんさま)ってツラかよ。しわくちゃ梅干し顔(がお)じゃないか。

    お芋(いも)ってお前、そんなもの入れたってな、

    胸が焼けて屁(へ)ばかり出るじゃないか。

    お、表(おもて)をドジョウ屋が通るから呼べ、あれ入れっから。


奥様:え、何ですって?

   ドジョウ屋さんをお付けに入れるなんてそんなこと、

   できるわけないじゃありませんか。

    

ご隠居:ドジョウ屋を入れるんじゃない、

    ドジョウを入れるんだよ、何言ってんだい、バカだな。

    早く呼ばないと、ドジョウ屋むこう行っちゃうぞ。


奥様:はいはい。


   【そんなに声を張らずに】

   ドジョウ屋さーん!


ご隠居:あのな、もっと大きい声で呼ばないからドジョウ屋に聞こえない

    んだよ。


    なむあみだぶ

    ほら、早く呼ばないとドジョウ屋がむこうっ、


    ドジョウ屋ぁぁーーーーーーーーい!!!!!


    なむあみだぶなむあみだぶ


    ドジョウ屋ぁぁーーーーーーーーい!!!!!


    なむあみだぶなむあみだぶ


    なむあみだーーーーーーーーい!!!!!


    【なむあみ~と同じリズムで】

    どじょやのどじょがの——ぁああべこべになっちゃったよこれ。


    ぁ~こっちこっち。

    細(こま)っかいとこはいいんだ、柳(やなぎ)っ葉(ぱ)ってぇとこの、うん。

    値段いくらか聞いてごらん、値段。


奥様:ドジョウ屋さん、おいくらですか?


   はあ、12銭。

   おじいさん、12銭だそうですよ。


ご隠居:12銭? 高(たけ)ぇぞ12銭は。

    2銭まけろ!


    お、どうだった?


奥様:ええ、気前(きまえ)よくまけて下さいましたよ。


ご隠居:なに、すぐまけた?

    ぁ~惜(お)しい事したな、もう1銭(せん)値切(ねぎ)っときゃ良かったなこらぁ。


奥様:そんなさもしい了見(りょうけん)、いけませんよ。

   ああドジョウ屋さん、気にしないでね。


ご隠居:な~むあみだぶな~むあみだぶ

    【声を落として】

    ほらほらほら、ぼんやりしてっちゃダメだよぼんやりしてちゃ。

    ぼんやりしてっちゃダメだよって!

    ドジョウ屋がむこう向いてる隙(すき)に、2~3匹つかみ込め。


奥様:【声を落として】

   なんですか、仏様の前で。

   普段(ふだん)小言(こごと)つきながらお経(きょう)をあげてるから、そんな浅ましい考えが

   浮かぶんですよ。

   鬼(おに)の空念仏(そらねんぶつ)じゃありませんか。


ご隠居:お前はなんにも知らないんだね。

    それは鬼がそら、念仏を唱(とな)えるぞ、と掛(か)け声を上げた事から

    できた言葉なんだ。


奥様:まあ、おじいさんこそあたしが何にも知らないと思って、そんな

   屁理屈(へりくつ)をこねるんですか。

   こねるのはおうどんかお餅(もち)だけになさって、

   くだらない言い訳は、屁(へ)と一緒に始末してくださいな。


ご隠居:いいから、お代払ったらドジョウ持ってこっち来なさい。

    ザル入れたってダメだよ、鍋(なべ)に入れるんだ鍋(なべ)に。

    鍋(なべ)入れて、蓋(ふた)して隙間(すきま)から酒を注(つ)ぎこむんだよ。

    そうするとドジョウが酒吸(さけす)いこんで美味(うま)くなるんだ。


奥様:はいはい、ほんと昔から自分が不利になると誤魔化(ごまか)すんですから。

   お酒を入れて…。


   【二拍】


   ホントに吸ってるのかしらこれ…。


ご隠居:な~むあみだぶなむあみだぶ

    どうだー、ドジョウ苦しがって暴れてんだろー。


奥様:平気な顔して泳いでますけどー?

   ドジョウにも酒呑(さけの)みいるんですかねー?


ご隠居:えっ、平気な顔して泳いでる?

    ドジョウの呑(の)んべえなんざいてたまるかよ。

    …酒薄いんじゃねえのかそれ。

    そのまま火(ひ)ぃ掛けちまえ。

    ドジョウがバタバタ暴れて鍋(なべ)から飛び出すといけねえから、

    鍋(なべ)の蓋(ふた)ァしっかり押さえてろー。


奥様:はいはい。


   【二拍】


   あら、鍋(なべ)が…

   おじいさーん、鍋(なべ)がゴトゴト言い出しましたよー。


ご隠居:な~むあみだぶなむあみだぶ

    え、ゴトゴトゴトゴト言ってる?

    おぉ聞こえる。

    そらァドジョウが苦しがって暴れてんだよ、ええ?

    へへへ面白(おもし)れぇなぁ。


    な~むあみだぶなむあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ

    …だいぶ静かになったな、蓋(ふた)取ってみろ。


奥様:はいはい。

   あら…、

   おじいさーん、ドジョウがみんな上向(うえむ)いてひっくり返っちゃってま

   すよー!


ご隠居:なに、腹ァ出してみんなひっくり返っちゃった?

    はははは、ざまあみろィ。


    【節を付けたりせず真面目に】

    な~むあみだぶなむあみだぶなむあみだぶ


    はぁ、ドジョウの供養(くよう)になっちゃったなこりゃ。




終劇



参考にした落語口演の噺家演者様等(敬称略)


柳家小三治(十代目)



用語解説


柳っ葉:「柳の葉」と「泥鰌」の関係は、柳川鍋(やながわなべ)に由来します。

    柳川鍋はドジョウを卵でとじた料理で、鍋にドジョウを並べた姿が

    柳の葉に似てることから、その名前がつけられたという説がある。



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