54. 王族の影
リュウとガイデンは、地下貯蔵庫で手に入れた書類を持ち帰り、菜々美のカフェへと戻った。
「これは決定的な証拠にはなるが、まだ不十分だな。」
リュウが机の上に書類を広げ、険しい顔で言った。
「この書類だけでは、ミリアムが黒幕であると直接証明するのは難しいわ。」
ガイデンも書類に目を通しながら答えた。
「それに、王族の使者の関与を示す具体的な証拠がまだ足りない。裁判で勝つには、彼らが実際にどんな取引をしているのかを掴む必要があるわね。」
菜々美は二人の話を聞きながら、不安げに視線を落とした。
「じゃあ、まだ私の無実を証明するのは難しいってこと……?」
「今のままじゃな。」
リュウが腕を組んで答える。
「だが、ミリアムの動きは確実に掴めてきた。問題は、王族の使者がどこまで関与しているかだ。」
「直接接触するしかないわね。」
ガイデンが冷静に言った。
「でも、王族の使者と簡単に話ができるとは思えない。」
「何か手はあるはずだ。」
リュウが考え込む。
「王族の使者がミリアムのカフェに頻繁に出入りしているなら、どこかで隙ができるはずだ。それを狙って話を引き出せれば……。」
その時、アリスが戸口から顔を出した。
「町の広場で王族の使者が何か話してるみたいです!大勢の人が集まっていて、何か発表があるみたい……!」
「なんだと?」
リュウがすぐに立ち上がる。
「行ってみるしかないな。」
菜々美、ガイデン、リュウの三人は、急いで町の広場へと向かった。すでに大勢の人々が集まっており、中央には豪華な服を纏った男が立っていた。
「町の皆さん、本日集まっていただきありがとうございます。」
男は落ち着いた口調で話し始めた。
「私は王族より派遣された使者、エドモンド・クラウス。現在進行中の裁判について、王家としても関心を寄せています。」
広場の人々がざわめく。
「王族が関与してるってこと?」
「それだけ大きな問題になってるってことじゃないか?」
エドモンドは一呼吸置き、さらに言葉を続けた。
「この町の平和と安全を守るため、我々は正義を貫きます。皆さんもご存知の通り、現在審議されている事件では、町の安全を脅かす可能性が指摘されています。我々はこれを見過ごすわけにはいきません。」
菜々美は息を呑んだ。
「まるで私が有罪であるかのように話してる……。」
「落ち着け。」
リュウが小声で言った。
「何か意図があるはずだ。」
ガイデンはじっとエドモンドを見つめ、何かを探るような表情をしていた。
「今の発言、少しおかしいわね。」
「どういうことだ?」
リュウが問うと、ガイデンは慎重に言葉を選びながら答えた。
「『町の安全を脅かす可能性』と言ったわ。まるで、事実ではなく可能性の話をしているように聞こえるの。」
「つまり、王族側もまだ決定的な判断は下していないってことか……?」
「そう考えられるわ。」
その時、エドモンドが少し声を潜めて言った。
「この件については、王族側もさらなる調査を進める必要があると判断しました。したがって、今後、王家から新たな監査官を派遣し、公平な視点での審査を行います。」
「監査官……?」
菜々美は思わず口にする。
「王族が直接裁判に介入するってこと?」
「面白くなってきたな。」
リュウが不敵に笑う。
「これで王族の使者と話をするチャンスができる。」
「でも、それが私たちにとって有利に働くとは限らないわよ。」
ガイデンが慎重に答えた。
「監査官が本当に公平な立場ならいいけれど、ミリアム側に取り込まれている可能性もあるわ。」
「その可能性も考えないとな。」
リュウが唸るように言った。
「どちらにせよ、王族の監査官と接触し、何を調べているのか確認しないと。」
エドモンドの演説が終わると、町の人々はざわめきながらも、それぞれの持つ疑問を抱えたまま散り散りに帰っていった。菜々美たちは、その場を離れながら顔を見合わせる。
「今が正念場ね。」
ガイデンが言った。
「監査官が来る前に、私たちがもっと確実な証拠を掴まないと。」
「その通りだ。」
リュウが力強く頷く。
「王族にまで関わってきたとなると、ここからは一気に勝負が決まる可能性がある。俺たちでミリアムの陰謀を暴き、菜々美を救う。」
菜々美は二人を見つめ、小さく微笑んだ。
「ありがとう。私もできることを探してみるわ。」
三人は決意を新たにし、それぞれの役割を果たすために動き出した。
町の未来を決める戦いが、いよいよ本格化しようとしていた。




