49. 見え始めた糸口
リュウとガイデンは翌朝、菜々美のカフェに集合し、前日の調査結果をもとにこれからの動きを話し合っていた。
ミリアムが町外れのカフェを通じて陰謀を巡らせていること、さらに王族の使者が関与している可能性が高いことが判明した以上、慎重に次の一手を考える必要があった。
「ミリアムのカフェに潜入するのはリスクが大きい。」
ガイデンが地図を広げながら言った。
「ただ、あの地下貯蔵庫にはきっと重要なものが隠されているわ。」
「どうやってそこに辿り着く？」
リュウが腕を組んで眉をひそめる。
「従業員も警戒してるし、俺たちが近づいたらすぐにバレるだろう。」
「まずは協力者に再度接触してみる必要があるわ。」
ガイデンは前日会った女性を思い出していた。
「彼女が話してくれた内容は限られていたけど、内部の情報をもっと引き出せるはずよ。」
「問題は、その女性が安全に接触できるかどうかだな。」
リュウが窓の外を見つめながら言った。
「ミリアム側が気づいていないとは限らない。」
「危険を冒さなければならない時もあるわ。」
ガイデンは落ち着いた口調で言った。
「私たちが動かなければ、菜々美の無実を証明する方法がどんどん失われていく。」
菜々美は少し離れたカウンターで彼らの話を聞きながら、小さく溜息をついた。
「私も何かできることはないのかしら……。」
リュウが彼女に向き直った。
「今は俺たちに任せてくれ。菜々美がこれ以上危険な目に遭う必要はない。」
「でも……私が原因でみんなに迷惑をかけてるのよ。」
菜々美は目を伏せながら言った。
「迷惑なんかじゃない。」
ガイデンが優しく微笑みながら言葉を続けた。
「菜々美、このカフェを守りたいというその気持ちが私たちの力になっているのよ。だから、今は信じて待っていて。」
その後、リュウとガイデンは再び町外れのカフェへ向かった。
前日と同じように裏手の搬入口付近で物陰に隠れ、従業員たちの動きを観察する。
「昨日の女性がここに来るとは限らないが……。」
リュウが低い声で呟いた。
「待ちましょう。」ガイデンは目を凝らしながら答えた。
しばらくすると、カフェの中から従業員たちが次々と荷物を運び出しているのが見えた。
箱の一つが大きく揺れ、中から乾燥したハーブの束が飛び出した。
「見て。」
ガイデンが小声でリュウを促す。
「あのハーブ、やはり菜々美の畑で見つかったものと似ているわ。」
「これが証拠になればいいが……。」
リュウが悔しそうに呟いたその時、裏手の物陰に誰かが小走りで近づいてきた。
「来たわね。」
ガイデンが声を潜める。
現れたのは、前日接触した女性だった。
彼女は周囲を警戒しながら、二人に急いで駆け寄った。
「昨日はありがとう。」
彼女は息を整えながら言った。
「今日もあまり長くは話せないけど、少しだけ時間が取れたわ。」
「助かる。」
リュウが頷いた。
「地下貯蔵庫について、もう少し詳しく教えてくれないか？」
女性は少し迷った後、小声で話し始めた。
「地下貯蔵庫は店の奥の鍵付きの部屋から繋がっています。その鍵を持っているのはアーウィンという男性だけです。彼はいつも冷静で、店の管理を完璧にこなしているけど……最近、王族の使者と話しているのをよく見かけます。」
「王族の使者と……。」
ガイデンが目を細めた。
「具体的にどんな話をしているの？」
「詳しい内容までは分かりません。ただ、何か特別な取引をしているみたいで、普通の従業員には近づかせません。」
「その使者はどんな人物だ？」
リュウが質問を重ねる。
「豪華な服を着ていて、態度が高圧的な人です。名前までは聞いたことがありません……。」
彼女は不安げに言葉を続けた。
「ただ、最近の雰囲気は異様です。店全体が何か大きな計画のために動いているように感じます。」
「その計画の内容が分かれば、菜々美を救う手がかりになる。」
ガイデンが考え込むように言った。
「私ができることは限られているけど、また情報を見つけたら伝えに来ます。」
女性は小さく頷いてから、急いでその場を離れていった。
「計画、か……。」リュウが低く呟いた。
「ミリアムはこのカフェで何をしようとしているんだ？」
「分からないけど、王族の使者が関与している以上、これはただの商売の問題じゃないわ。」
ガイデンが静かに答えた。
「もっと大きな陰謀が隠されているかもしれない。」
二人は慎重にその場を後にし、菜々美のカフェへ戻ることにした。
収穫した情報は少なかったが、それでも状況を動かすきっかけになり得ると感じていた。
「次はどうする？」
リュウが歩きながら尋ねる。
「地下貯蔵庫に直接潜入するのが一番確実ね。」
ガイデンが毅然と答えた。
「リスクは高いけど、それを避けていては真実に辿り着けないわ。」
「分かった。」
リュウは力強く頷いた。
「菜々美を守るためなら、どんな危険だって乗り越えてやる。」
次の計画を胸に、二人は菜々美のカフェへと急いだ。
その先にはさらなる困難が待ち受けていると分かっていながらも、二人の決意は揺るがなかった。
