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37. 石を積んで

涼しい風が頬を撫で、遠くからは川のせせらぎと鳥のさえずりが聞こえてくる。太陽が頭上高く昇り、木々の葉の間から光が差し込んで、あたりは心地よい緑の香りで満たされていた。


リュウが鞄から取り出した簡単なサンドイッチを広げながら、「こういう自然の中で食べる食事って、何でも美味しく感じるよな」と笑顔を浮かべて言った。彼は少し疲れたように見えたが、その顔には満足感が滲んでいた。


「それ、わかる。都会じゃ味わえない贅沢だよね」とアリスも頷きながら、小さなベリーを口に運んだ。彼女はこうした自然の中での時間を本当に楽しんでいるようだった。


私たちは少しの間、食事に集中して静かな時間を過ごした。軽いピクニックではあったが、この場に流れる時間はゆっくりとしていて、どこか特別な空気を感じさせた。戦いに追われる日々の中、こうして全員が無心で自然と触れ合い、ただ穏やかなひとときを共有できる瞬間は、かけがえのないものに思えた。


「ガイデン、その薬草の話、もっと聞かせてよ」とマークが興味津々に声を上げた。彼は先ほど川に落ちてずぶ濡れになったが、すでにそのことは忘れているようだった。


ガイデンはふっと微笑みながら、彼に向かって小さな花を指差した。「この花、リューマティックにも効くのよ。昔は旅人が、ここでこの薬草を使って足の痛みを癒したり、体力を回復させたりしていたわ。今もその効能は変わらないの」


「へえ、そんな昔から使われてたんだ」とリュウも興味深そうに耳を傾ける。彼もやはり、戦いによる体の疲れが少しは残っているようだった。


「自然ってすごいな。こうしてただの植物が、人を癒したり助けたりするなんて」とマークがしみじみと呟いた。


私はその言葉に心が温かくなった。戦いに明け暮れる私たちがこうして自然の中で癒され、また次に進む力を得ている。それは、まるで自然が私たちに少しの休息を与えてくれているような気がした。


「次に進む力を得るために、こうしてしばらく休むのも悪くないね」と、私がそう言うと、アリスが微笑みながら同意してくれた。「そうね。こうして仲間と一緒に過ごす時間が、私たちの力になるんだわ」


その後も、川辺でのんびりと過ごし、私たちはお互いの話に耳を傾けたり、冗談を言い合ったりしながら、リラックスした時間を共有した。特に、リュウとマークのやり取りはいつもながら賑やかで、私たちを何度も笑わせてくれた。


「なあ、リュウ。さっきのダム、まだ壊れてないか?」マークが突然思い出したように川の方を振り返った。私たちもつられて視線を川に向けると、彼とリュウが積み上げた石のダムがまだ健在だった。川の流れをわずかにせき止めていて、その小さな構造物が思った以上にしっかりしていることに驚かされた。


「お、ちゃんと残ってるじゃないか。さすが俺たちだな」とリュウが満足げに笑い、マークもそれに続いて得意げにうなずく。


「大したもんね。子供の遊びにしちゃ上出来だわ」とアリスが少し冷やかし気味に言ったが、その顔には微笑みが浮かんでいる。私も笑いながら彼らのやり取りを見守った。こんな何気ない時間が、戦いの日々から少し離れた静けさを与えてくれているようだった。


「まあ、あんまり長くは持たないだろうけどな。水の力ってのは侮れないし、すぐに崩れるさ」とリュウが軽く言った。その言葉通り、川の水はゆっくりとダムを越え、自然に流れていく。しかし、せき止められた水の一部が小さな溜まりを作り、その上を太陽の光が反射してきらめいていた。


「ちゃんと崩れるまで放っておくってのもアリだな。自然に帰すって感じでさ」とマークは笑いながら、自分たちが作ったダムを眺め続けていた。


「でも、あれくらいのダムなら何も問題はないでしょう?」私は問いかけるように声をかける。あの石の積み上げは、川の流れをほんの少し変えただけのように見えた。どこか心配していた私の気持ちも、マークの無邪気な姿を見ていると和らいだ。


「全然問題ないさ。むしろ、もう少し石を足してしっかりしたダムにしてみるか?」リュウが冗談めかして言うと、マークが「それいいな!」と乗っかってきた。


「まったく、男って本当に子供っぽいんだから」とアリスが軽くため息をつきながら笑った。私たち全員が笑いに包まれた瞬間、ふと風が吹き、川の水面が小さく波立った。


その波紋が広がり、光を反射しながらキラキラと川全体に行き渡っていく様子を、しばらく見つめていた。何かが起こりそうな気配……というほどではないけれど、その静かで穏やかな風景に、何か得体の知れないものが潜んでいるかのように、一瞬思った。だが、それもほんの一瞬のことで、すぐに私はその気持ちを打ち消した。


「とりあえず、ダムはこのままにしておこうよ」と私は軽く言い、みんなも同意した。


「うん、自然に崩れる様子を見るのも面白そうだし、あのままでいいさ」とリュウが納得した様子で応じた。


しばらくその場に佇んで、川のせせらぎを聞いていた。水がダムにぶつかって、穏やかに流れていく音が心地よく、自然のリズムに溶け込むようだった。


そんな中、ガイデンがふと真剣な顔で口を開いた。「さて、みんな。そろそろ戻りましょうか?体を休める時間も大事だけど、長く外にいると疲れが取れるどころか、逆に溜まることもあるわ」


彼女の提案に、私たちは頷いて立ち上がった。確かに、川で遊んでいる間に時間はあっという間に過ぎ去り、太陽はすでに傾き始めていた。


「じゃあ、また温泉に戻ってのんびりしようか」とリュウが提案すると、マークが「賛成!」と元気に返事をした。私たちは再び温泉街に向かって歩き始め、次の癒しの時間を楽しみにしながら、その道をゆっくりと進んでいった。


再び温泉に浸かって、体の疲れを癒しながら、私たちはこれまでの冒険や、これからのことについても少し話し合った。川での出来事や、ガイデンの薬草の話、そしてマークが川に落ちたドタバタ劇など、さっきのことを思い返しながら笑い合い、温泉での時間も和やかに過ごした。


「また明日もこんなふうにリラックスできるといいな」とリュウが呟きながら、空を見上げた。その顔には、戦いに備えながらも、今だけは心からの休息を楽しんでいる様子が見て取れた。

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