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32. 馬車

朝の光が窓辺に差し込み、カフェの静かな空間が黄金色に包まれた。


昨日の夜、私たちはしばしの休息を求めて温泉地「カレンドラ」へ行くことを決めた。

カフェの中には、旅の準備に励む仲間たちの姿がある。


リュウはリュックを背負い、荷物の最終チェックをしていた。

アリスは小さなバッグに必要なものを詰め込みながら、ガイデンと何やら話している。

マークも窓際で外の景色を眺めながら、旅立ちの準備を進めていた。


「おはよう、みんな」と声をかけると、リュウが笑顔で振り向いた。


「おはよう!準備はできたか?今日はいよいよ温泉でリラックスだ!」


その言葉に、私も少し笑みを浮かべた。

「ええ、やっと少し休めるね」


「ようやく戦いから解放された感じだな。体がバキバキでさ、もう限界だったよ」とマークが冗談を交えながら肩をすくめた。

彼の疲労感が言葉からにじみ出ていたが、温泉でのリフレッシュを心待ちにしているようだった。


「みんな、忘れ物はない?」アリスが全員に声をかけた。

彼女はいつも冷静で、こういう時も誰よりも先に準備を整えている。


「さすが、アリス。抜け目ないな」とリュウが感心したように言いながら、カバンの中をもう一度確認する。

「大丈夫、みんな準備は完了だ。じゃあ出発しようか」


馬車はすでにカフェの外に待機していた。

木製の車体はどこか懐かしさを感じさせ、私たちはそれぞれ乗り込み始めた。リュウが真っ先に前の座席に座り、私たちを呼び寄せる。


「さあ、みんな乗ったか?いよいよ温泉だ!」リュウの声が活気に満ちていて、私たちの期待も高まる。


馬車は穏やかなリズムで動き始めた。

車輪のきしむ音が聞こえ、道を踏みしめる感触が心地よく伝わってくる。

窓の外には青々とした森が広がり、遠くには山々がそびえ立っている。風が優しく吹き込み、旅の始まりを告げていた。


「馬車で半日かけて移動するなんて、久しぶりだなあ」とマークが窓の外を見つめながら言った。

彼の言葉には、期待とともに少しの退屈も含まれているようだった。


「そうだな。でも、こういうのんびりした時間も悪くないだろ?」リュウが答える。

「戦いばかりの日々だったし、こうして景色を眺めながら旅するのもたまにはいいさ」


私も同感だった。

戦いの緊張から解放されて、ただ風景を楽しむことができるなんて、贅沢な時間だ。

心の中に少しずつ安らぎが広がっていくのを感じた。


「カレンドラってどんな場所なんだろう?」アリスがふと口にした。「温泉だけじゃなくて、山の幸も豊富だって聞くけど」


「そうだな、鹿肉の料理が有名だって聞いたことがある。ジューシーで香ばしいんだとか」とマークが答える。彼の目は少し輝いていて、もう頭の中は食事のことでいっぱいのようだった。


「鹿肉か。スタミナがつくな。俺たちにはぴったりだ」とリュウがうなずきながら言った。「温泉に浸かって体を癒したら、そこの料理を存分に楽しもうぜ」


「そうね。温泉に入って、のんびりして、美味しいものを食べて……それだけで幸せになれそうだわ」とアリスも微笑んで同意した。彼女の言葉には、これまでの緊張を解きほぐすような温かさがあった。


ガイデンは静かに窓の外を眺めていたが、ふと振り返りながら言った。「カレンドラの温泉は特別だって言われているわ。温泉の成分が独特で、疲労回復に効果があるらしいの」


「へえ、そんな効能があるんだ。それなら一層楽しみだな」と私も興味津々に返した。


馬車はゆったりとした速度で進んでいく。


外の景色が少しずつ変わり、山道が見えてくる。

木々が生い茂り、ところどころに小さな川が流れていた。静かな川のせせらぎが心地よく、自然の音が旅の疲れを和らげてくれる。


「ねえ、あれがカレンドラの山じゃない?」アリスが指を差して、遠くの山々を指し示した。私たちは馬車の中からその方向を見つめた。


「確かにあの山だ。あの向こうに温泉があるんだな」とリュウが興味深そうに言った。


「でも、まだ半日はかかるから、途中で寄り道しないようにしようね」と私が言うと、みんなも笑顔で同意した。


馬車の旅は続き、風が心地よく吹き抜けていく。


リュウとマークが軽い冗談を交わし、アリスとガイデンも自然の景色について話していた。道中は穏やかで、私たちの心も次第に落ち着いていった。


夕方が近づき、ようやくカレンドラの温泉街が見えてきた。

高台にあるその街は、どこか静かで落ち着いた雰囲気を漂わせていた。山の上からは絶景が広がり、オレンジ色の夕陽が遠くの山々を染めていた。


「すごい……ここがカレンドラなのね」とアリスが驚きの声を上げた。「本当に綺麗な場所だわ」


「温泉の湯気があちこちから上がってるな。さっそく入りたいところだけど、まずは宿に行こうか」とリュウが言うと、私たちはその言葉に頷き、旅館に向かって馬車を進めた。


「ここでリラックスして、すっかり疲れを取るんだな」とマークが嬉しそうに言った。


旅館に到着すると、迎えてくれたのは温かい笑顔の宿主だった。木造の建物からは、歴史と伝統が感じられ、どこか懐かしい雰囲気が漂っている。宿主が私たちを温かく迎え入れ、部屋まで案内してくれた。


「こちらへどうぞ、お部屋をご用意しております」


私たちは案内された広い和室に荷物を置き、温泉へ行く準備を整えた。部屋の窓からは山々が見渡せ、湯気がたちこめる温泉街の風景が広がっていた。


「じゃあ、早速温泉に行こうか」とリュウが言い、私たちはついに温泉の楽しみを目指して、浴衣に着替えて温泉へ向かった。


長い道のりを経て、ようやくたどり着いたこの場所で、しばしの間、戦いの疲れを忘れることができるだろう。

温かい湯に浸かり、心身ともに癒される時間が、今目の前に広がっていた。

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