14. 裏切り
新たな飲み物の開発が成功し、私のカフェはますます繁盛していた。特にアリスの新しいレシピは大好評で、カフェの評判をさらに高めていた。しかし、その裏で不穏な動きが進行していた。
ある日の夕方、リュウは久しぶりにカフェの裏手にある畑を見回りに行った。普段はレオンが畑の手入れをしており、彼の細やかな管理のおかげでハーブの供給は安定していた。しかし、最近はカフェの繁忙期で、私もリュウも畑の様子をあまり見に行く機会がなかった。
リュウが畑に到着し、しばらく観察していると、何かが変だと気付いた。
「おかしいな……ハーブの数が少ないような気がする。」
リュウは畑の隅々まで見て回り、確信を得た。確かに、いくつかのハーブの株が明らかに減っていた。彼は急いで私に報告することにした。
「菜々美、大変だ。畑のハーブがいくつか消えている。」
驚いた私はすぐに畑に駆けつけた。
「え？それは一大事だわ。レオンが畑を担当しているけど、彼は何か言ってなかった？」
「いや、特に何も。でも、最近カフェが忙しかったから、みんな気付かなかったのかもしれない。」
私は深く考え込んだ後、レオンに確認することにした。
「レオン、ちょっと話があるんだけど、畑のハーブがいくつか消えていることに気付いてる？」
レオンは一瞬顔を曇らせたが、すぐに答えた。
「ええ、実は気付いてました。でも、最近カフェが忙しかったから、報告するのを忘れていました。ごめんなさい。」
私はレオンの言葉に疑念を抱いたが、さらに詳しく調べることにした。翌日、リュウと一緒に再び畑を見回り、消えたハーブの数を確認した。
「これだけの数が消えるなんて、普通じゃないわ。誰かが盗んだのかしら？」
リュウは考え込んだ。
「もし誰かが盗んだとしたら、レオンが担当している畑だから、彼が一番詳しいはずだ。」
私はレオンに再度問いただすことにした。その夜、カフェが閉店した後、レオンを呼び出して真相を確かめた。
「レオン、正直に言って。畑のハーブが消えたことに関して何か知ってる？」
レオンは一瞬顔を曇らせたが、深呼吸して正直に答えた。
「……ごめんなさい。実は、あのハーブの一部をミリアムという女性に渡してしまいました。彼女に頼まれて、つい……。」
驚きと同時に、裏切られたショックを受けた。心臓がドキリと音を立てる。
「どうしてそんなことを……？」
レオンは涙を浮かべながら説明を始めた。
「ミリアムは、新しいカフェを開くためにどうしてもハーブが必要だと言ってきました。彼女の熱意に押されて、俺も手助けしたくなってしまって……でも、今は後悔しています。菜々美さんのカフェがこんなに素晴らしい場所だとは思わなかったんです。」
その名前を聞いた瞬間、頭の中に彼女の顔が鮮明に浮かび上がった。そうだ、ミリアムは以前、私たちのカフェのバイト面接に来たことがあった。明るく社交的な彼女は、その時も魅力的だったけど、どこか話が大げさに感じられた。そのせいで最終的に採用しなかったのだ。
あの時の彼女の表情を思い出す。微笑んでいたけれど、その奥には計り知れない何かが隠れていたような気がした。そして今、彼女が私たちのハーブを手に入れて新しいカフェを開いたという事実に、得体の知れない不安が心を支配する。
ミリアムが私たちのカフェに対して何を企んでいるのか、彼女の本当の目的は何なのか、まったくわからない。でも、彼女がここに来たのは偶然ではなかったのかもしれない。私たちのカフェの評判を聞きつけ、その成功を狙って近づいてきたのかもしれない。
その考えが頭を巡り、私の心はますます重くなる。信頼していたレオンがその陰謀に加担していたことも、裏切りの痛みとして胸に突き刺さる。でも、今はレオンを責めるよりも、ミリアムの動向を注視し、対策を練ることが先決だと自分に言い聞かせた。
「分かった。君が本当に反省しているなら、もう一度チャンスをあげる。でも、これが最後だからね。」
レオンは涙を拭いながら深く頭を下げた。
「ありがとうございます、菜々美さん。必ずお返しします。」
私は深く息をつき、ミリアムとの対決に向けて心を固めた。彼女が何を企んでいようとも、私たちのカフェを守り抜く決意は揺るがない。仲間たちと共に、この困難を乗り越えてみせる。
レオンが反省してカフェに戻った後、私は仲間たちと一緒にミリアムのカフェの動向を探るために行動を開始した。リュウは再び町の酒場に向かい、情報を集めることにした。そこで、いくつかの興味深い話を耳にした。
「新しいカフェのオーナー、かなり野心的らしいぜ。なんでも、あの有名なカフェの秘密を知ってるって自慢してたとか。」
リュウはその話を聞き逃さず、詳しく聞き出した。
「そのオーナー、どんな人なんだ？」
「若くて美しいけど、かなりやり手だって噂だよ。彼女のカフェは町外れにあって、最近急に人気が出始めたらしい。」
リュウはその情報を持ち帰り、私に報告してくれた。
「菜々美、ミリアムは俺たちのカフェの秘密を知ってると自慢してるって噂がある。」
私は仲間たちとミリアムのカフェに向かうことを決意した。そこで、真相を確かめるためにミリアムと対話を試みることにした。カフェの営業時間外にミリアムのカフェを訪れ、彼女と再会する時が来た。
「こんにちは、ミリアム。」
ミリアムは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷静な顔に戻った。
「こんにちは、菜々美さん。今日は何のご用でしょうか？」ミリアムは平静を装って尋ねてきた。
「実は、私たちのカフェのハーブが消えていることに気付いたの。誰かが盗んだ可能性があると考えているの。」
ミリアムは眉をひそめた。「それは大変ですね。でも、どうして私にそんな話を？」
リュウが鋭い眼差しでミリアムを見つめた。「レオンが君と会っていたのを見た人がいるんだ。それについて説明してもらえるか？」
ミリアムは一瞬視線をそらし、深く息をついた。「確かに、レオンさんと会ったことはあります。でも、それは純粋にビジネスの話でした。彼のレシピについて興味があっただけです。盗むつもりはなかった。」
私はミリアムの言葉に疑念を抱きつつも、冷静に続けた。「私たちも証拠を持っているわけではありません。でも、ハーブが消えたことは事実です。これ以上問題を起こさないためにも、きちんと話し合いたいんです。」
ミリアムは一瞬黙り込み、その後冷たい笑みを浮かべた。「話し合い？何のために？証拠もないのに私を疑うなんて失礼ね。もしこれ以上追及するつもりなら、出て行ってもらいますよ。私のカフェにはそんな無礼者は必要ありません。」
リュウが一歩前に出ようとしたが、私は手を挙げて止めた。「わかりました、ミリアム。これ以上の無礼はいたしません。」
私たちはミリアムのカフェを後にした。明らかにミリアムがしらばっくれていると感じたが、現時点では証拠がないため、これ以上追及することはできなかった。
カフェに戻り、仲間たちと対策を練ることにした。まずはセキュリティを強化し、ハーブの管理をさらに厳重にすることを決めた。そして、レオンも心を入れ替えて、新たなレシピの開発に全力を尽くすことを誓った。
「これからは、もっとお客様に喜んでもらえるカフェにするために頑張ります。」
レオンの決意に、私は笑顔で応えた。「その意気だよ、レオン。みんなで一緒に素晴らしいカフェを作り上げよう。」
レオンの情熱と創意工夫によって、カフェのメニューはますます充実していった。新たな挑戦と共に、私たちはカフェの未来に向けて一丸となって進んでいった。
数週間後、私のカフェはさらに繁盛していたが、ミリアムのカフェも人気を博していた。私はミリアムの動向を注意深く見守りつつ、新しいメニュー開発やカフェのサービス向上に努めていた。
ある日、常連客の一人が私に話しかけてきた。「菜々美さん、最近ミリアムさんのカフェにも行ってみたんですが、そちらも素晴らしいですね。特に新しいドリンクメニューがとても美味しかったです。」
私は微笑みながら答えた。「そうですか。私たちも負けずに頑張りますので、引き続き応援よろしくお願いします。」
その言葉を聞きながら、心には一抹の不安がよぎった。ミリアムのカフェがこれほど短期間で人気を得るのは何か裏があるのではないかと疑念が募った。
