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第7話 呑気な魔王の娘(義理)

高校1年生、15歳の天音雫です!

何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです!

盗っ人情報に慌てふためき椅子をひっくり返して立ち上がったハルマに対し、ミューティルは14歳とは思えないほどの落ち着きっぷりだった。


『腹が減っては戦はできぬからのぅ』と、ハルマの暮らしていた日本でも有名なことわざを引用しのんびりと食事を続行。


結局食べ終わるまで15分かかり、皿とフライパンを洗って、ガーデンに水をやってから様子を見に行くとするのじゃ。

やっぱり食堂の模様替えも、さっき語りきれなかった絵の説明もしてから……とかわけのわからないことを言い出し。


ーーーー異常発生から実に2時間後。


ハルマとミューティルは魔王城2階のとある部屋の前に立っていた。


「……盗っ人もう遠くに逃げてそうだけどな」


「無論、いないじゃろう。

ちと確認したいことがあるだけじゃよ」


「何か盗まれたんなら早く盗んだ犯人追いかけるか、通報とかしたほうが良いんじゃねぇの?」


あまりの呑気ぶりに呆れてしまう。


扉の前、人差し指で宙になにか模様を描くミューティルの横顔には焦りも怒りも見受けられない。


異世界では盗みが常日頃から起こるものなのだろうか。


それともミューティルが魔王の英才教育を受けた結果なのか。


ミューティルは指を止め、一言何か囁くと、扉が淡い光を放ち一瞬で消える。


その光に魅せられ、思わず一歩前へ出たハルマを制止するかのように、ミューティルの人差し指がハルマの鼻先へと向けられた。


「お主は分かってないのぉ。

少し泳がせるくらいが丁度いいんじゃよ」


「俺はすぐぶん殴ってやりたいけどなぁ…」


自分の私物が盗まれるのを知っていて何もせずに見過ごすなど、相当な忍耐力がなければできないはずだ。


自分の気に入っているゲームが盗まれている真っ最中に遭遇したなら、犯人をボコボコにしてやりたい。それがハルマの思いだった。


だが、近代日本の強盗犯は大体拳銃かナイフを、持っているので太刀打ちは難しい。


ボコボコにすることはほぼほぼ不可能であるので、警察に通報するのが一番の好手である。


ハルマも実際にそういう場面にあったら、殺気を抑えて警察に通報するだろう。


しかし、ミューティルは誰かに通報する素振りさえ見せていなかった。


警察というものがこの世界にもあるのかどうかは不明だが、コンビニがあるくらいなのだから、きっと警察に似た何かはあるだろう。


それなのにミューティルは何もせず、ただただ時を進めた。


完全に犯人に逃走を許しているのだ。


もしかすると、盗まれたものはミューティルにとってさほど重要なものではないのかもしれない。


「なぁ、盗まれたものってーーーー」


「百聞は一見にしかず、じゃよ。

解錠も済んだことじゃし、お主、先に現場を確認してみろ」


「何かその言い方殺人が起きたみたいなんだけど?!強盗事件で良いんだよな?!」


何も言わずニマニマするミューティル。

完全にハルマの心を遊んでいる。


扉をキッと睨む。

もし扉の先に遺体があったら…


なんて恐怖妄想を振り払い、ドアノブを勢いよく掴み回転させる。


キィィィ……と絶対に油をさしたほうが良いような怪しげな音を立てながら扉が内側へと開いていき、


「……………」


思わず瞠目した。


扉の先に広がる部屋は、これまでのようにハルマに深い感動を与えるようなものではなかった。


むしろ感動とは程遠く、人の心に不快感と恐怖感を与えるような。


「……これは酷いのう」


ハルマの後ろから部屋の中を覗き込んだミューティル。


苛立ち混じりではありつつも剣呑な気配が滲む幼い少女の前方で。


ハルマは全力で、顔をしかめていた。


部屋の中は”破壊“の一言に尽きた。


大きな窓は木っ端微塵に割られ、備え付けられた純白のカーテンは見るも無残にビリビリに破られ床に散らばっている。


シャンデリアがまるまる1つ床に墜落していて弱々しく明滅を繰り返している。


他の部屋と同様に琥珀色であっただろう絨毯は黒と紺青のマーブル模様になっている。


その様子はまるで、


「ーーーーゾンビ映画だったら間違いなくこの部屋急にゾンビでてくるわ……

しかも武器が効かない系のやつ」


「誰かが魔晶石を盗みおったようじゃの」


現代日本の感覚で部屋を評価したハルマ。


そんなハルマの横を通り抜け、部屋の中央へと向かう少女の唇からかすかな失望が吐息となって零れ落ちる。


「何かカッコいいワードが聞こえたな。何だ?その、魔晶石って」


ミューティルは何も無い空間に手を伸ばす。


「魔晶石はこの城にいくつか存在しておるのじゃが、今回盗まれたのは大気中のソルをリーヴによって集めてエネルギー的価値のある物質へと錬成させそれをさらにーーーー」


「ごめん俺の脳がわかんないって喚いてるわ」


同じように部屋に入り、ミューティルの横に立ったハルマは頭をかく。


さすがに専門用語が渋滞しすぎている。


ミューティルはそうじゃなぁ、と前置きをし、しばし考えたのち、


「お主らの世界で言う“電気”の供給を賄う役目を持つ魔晶石じゃ。すごーく簡単にいえば、この魔晶石がなければ先程お主が言っていた通り、この魔王城は停電状態になる」


「異世界の盗っ人の割には地味な嫌がらせだな……」


何を盗んだかと思えば電気の源。


異世界なのだからもう少し盗みのスケールが大きくても良いような気がする。


いや、よくはないか。


「この魔晶石がないと何かと不便じゃ。何せ、電気が使えないのじゃからな。電子レンジも、エアコンも、ストーブも、冷蔵庫も使えん」


「こう並べられると改めて電気の重要さが分かるな……魔王城いえども電気は欠かせないもんだな」


ハルマの日常に馴染む家電の数々、それらが使えなくなることへの不便さは想像以上だろう。


ミューティルが困るのも無理はない。


「まぁ、かなり泳がせたことじゃしーーーー」


思案気な顔から一変、その幼くあどけない顔はいたずらを思いついた子どものような笑みを浮かべ、


「そろそろ取り返しに行くとするかのう」


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