第5話 異世界クッキング
高校1年生、15歳の天音雫です!
何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです!
「……早急に頼むぞ、ハルマ……」
「お、おう…3日間何も食ってないのにずっと絵の説明させて悪かったわ……」
場所は魔王城厨房。
立派なホテルにあるそれのような広さと道具の揃いっぷり、モダンなデザイン。
五つ星シェフがイタリアン料理でも作っていそうな雰囲気だ。
厨房の隅っこで、ミューティルが食堂から持ってきた椅子に、座っている。
………天井を見上げて、無気力な様子で。
どうやら極限の空腹状態に絵画の説明という追い打ちをかけたことで全エネルギーが使い果たされてしまったらしい。
正確に言えばハルマのせいではないが、そのミューティルの気の抜け方には流石に罪悪感を覚えた。
「じゃあ、なるべくパパっと、3分クッキングの気分でつくるわ……
何作れば良い?」
「何でも良いぞ。
わしが食べられるものならば」
「えー、俺異世界料理知らないんだよな……
俺のいた世界の料理って口に合うのか…?」
食文化の違いを考慮し考えあぐねるハルマにミューティるは少し前のめりになり、目を輝かせた。
「む、お主の故郷の料理を作ってくれるのか?
それは楽しみじゃな」
「故郷とか言うなよ!
ホームシックになるだろ!
これが作り終わったら元いた世界に帰してくれるんだろ?!」
涙目で抗議するハルマに、当のミューティルはニンマリとした笑みをたたえて、
「それはどうじゃろな」
「おいおい嘘だろ…?」
魔王の娘だと名乗られた時は命さえ助かればとか言う心情だったが。
人間の欲とは際限のないものだ。
「材料は?どんなのある?」
仕方なくそう聞けばミューティルはハルマがいるのとは反対側の調理台を指さした。
振り返れば、大量の材料が綺麗に並べられた調理台。それをみて思わずハルマは頬をかいた。
「………何ていうか、ラインナップが庶民的っつーかノーマルすぎるっつーか」
見た目だけでいけば、どれもこれも、親の顔より見ている気がするものばかりだった。
前列を右から順に、人参、トマト、キャベツ、ブロッコリー、トウモロコシ、ホウレンソウ。
後ろの列にはホカホカの状態のお米がボウルに入っていて、その隣にはクロワッサンや食パンなどのパン類。
そのまたさらに後ろの列には卵やベーコン、ウィンナーect………
食文化の違いによるカルチャーショックに身構えていたハルマにとってはどこか拍子抜けするメンツが勢揃いだった。
「え、本当に何作ってもいいの?」
「何でも良いぞ。
お主1人で作れるものならばな。
わしは手伝わぬからな。
もはや指一本動かす気力もないのじゃ」
「3日も食べてなくて今生きてんのがすげぇよな」
再び天井を仰ぎ、椅子の上に力なく座るミューティルに苦笑しつつハルマは人参と玉ねぎ、ピーマン、ベーコン、卵、ホカホカのご飯を抱えて調理台1へと戻る。
「ミューティルアレルギーとか苦手なものとかない?」
ハルマの姉貴は生粋のピーマン嫌いであり、誤ってピーマン入りの料理を作ってしまった時には家が揺れるほど怒られた。
作ってあげているのに理不尽だ、なんて何度思ったことか。
しかしそのこともあり、ハルマは人の好き嫌いに関して人一倍敏感だった。
「………ピーマン食える?」
「ぴーまん……?
あぁ、ピマレーンのことか?
わしは食べられるぞ」
「あ、やっぱ呼び方違うのか」
見た目は同じでも呼び方はやはり違うらしい。
ピマレーン。何だか人の名前みたいで可愛い。
でもピーマンの原型は少しとどめているところが地味にツボった。
「そこに置いてあるものは全部わしが食べられるものじゃ。」
「ん、じゃあ躊躇いなく使えるなーー食えるもの多くて良いな。
俺の姉貴偏食だったからなー」
「それは大変じゃな」
食にうるさい姉の愚痴を吐きつつも、野菜とベーコンを切り、フライパンで火にかけて炒め、既にホカホカの米を加える。
「ーーーーミューティル、ケチャップ……って分かるか…?
あの…赤い…液体っつーか半液体みたいなやつ、ある?」
「…………血か?」
「血じゃねえよ?!
俺の言い方も悪かったけどさ?!
流石に料理に血使うほど野蛮じゃねぇよ!?」
異世界文化に配慮した結果あらぬ誤解を生んだ。
人生とは難しいものだ。
「あれだよ……調味料ってやつ。血じゃなくて」
「大抵の調味料はお主の横の戸棚の中にあるぞ」
「お、調味料は調味料なのか…
この戸棚の中だな…ってすげー数の調味料入ってますけど?!」
言われた通り、真横にあった戸棚ーーーースパイスラックを開ければ50本以上の調味料が入ったビンが並べられていてハルマは目を剥いた。
「コース料理でも作れそうだぞ、これ……」
ビンには1本1本ラベルが貼ってあるがハルマが聞いたことのない名前のものが大量に並んでいた。
「そこになければ、手間ではあるがコンビニまで行けば恐らく手に入るぞ」
「いや、多分あったっぽい……って、え?コンビニって言った?」
奥から”ケチャップ“とオシャレな文字が書かれたラベルつきのビンを取り出しかけ、ハルマは己の耳を疑い聞き返した。
「……?コンビニじゃ」
「異世界にもコンビニあんの?!」
「無論じゃ」
「あんまりそんな雰囲気じゃなくなかった?!」
どこまでも広がっていた青い草原。
付近に建物はなく、かなり先の方には木々が生い茂る森林が広がっていた気がする。
The・異世界といった感じの美しい自然の風景だったが。
……あの中にコンビニなど不似合いにも程がある。
そんなハルマの思い込みは、
「この辺が田舎過ぎるだけじゃよ。
栄えてる所に行けば、コンビニなど10m感覚であるもんじゃ」
「間隔狭っ!
てかこの辺田舎っていうくくりなのか……」
不便で困ったもんじゃ、とばかりに額に手を当てるミューティルのもたらした新常識に見事に崩壊させられた。
「マジかよ…
異世界ってこんなもん?」
誰に聞かせるでもなく漏れた問いを思案しながら、ケチャップ片手に再びフライパンに向かう。
ミューティルはというと、額を押さえたまま固まっている。
「……?おい、ミューティル」
返事がないどころか身動き1つ、帰ってこない。
まさか石化したのでは、…………なんて異世界チックな事を考えたハルマがバカだった。
その体がグラリと大きく前方に傾き椅子から落ちる。
「ちょっ、おいっ…!」
フライパンを一時放置、ミューティルの元へと駆け寄れば。
スースーと穏やかな吐息を漏らし目を瞑っていた。
「寝てるだけかよ…
焦って損した……
まさか、極限の空腹で昏睡したのか」
これは急がねばならない。
ハルマの異世界クッキングも終盤だ。
出来上がったチキンライスを近くにあったオシャレなお皿に丁寧に盛り付ける。
そして同じフライパンにといた卵を入れてふんわりと巻く。
それをチキンライスの上に乗せれば。
「おい、ミューティル。
起きろー。“オムライス”できたぞー
うまいかどうかは知らねぇけど」
無責任な発言とともにミューティルの肩をつつく。
一瞬まぶたが空いたかと思いきや、魔法の言葉”あと5分だけじゃ“を口にしたまま再び夢へと誘われていく。
仕方なくハルマは、
「起・き・ろ!!!!」
ーーーーと、ミューティルの耳元で大地を揺るがす、BIGVoiceで叫んだのだった。