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第4話 静かすぎて美しすぎる魔王城

高校1年生、15歳の天音雫です!

何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです!


「お、お邪魔しまーす……」


「うむ。ようこそ、我が魔王城へ。

あ、土足で大丈夫じゃよ」


「お、おう……

っぱ、中もすげーなこれ……」


日本文化を知ってか知らずかわざわざ教えてくれるミューティルの後ろ。


絵に描いたように煌びやかな魔王城のエントランスにハルマは感動していた。


ハルマは今、色々あってこの荘厳で優美な、良い意味で魔王城とは思えないようなこの城にお邪魔している。


現代日本でふつうに生活していれば目にかかることのない美しさにハルマは思わず立ち止まって感嘆の吐息を漏らした。


まさに中世の貴族や王族が住むオシャレな城、といった感じだ。


外装だけに限らず、内装も白を貴重として作られている。


キャッチボールでもできそうなくらい広いエントランスで、上を見上げれば首が痛くなる。

そして、昼間なのに煌々とした灯りを放つシャンデリアと目が合い目も痛くなる。


左右には大きな螺旋階段があり、エントランスから真っ直ぐ進んだ突き当たりには大きな扉が一つあった。


「食堂はこっちじゃ」


どうやらあの扉の向こうが食堂らしい。


「あ、あぁ…悪い」


ミューティルが立ち呆けていたハルマを置いてかなり先に進んでいることに気がつく。


慌ててそちらに駆け寄れば、純白の大理石にスニーカーの音がやけに大きく響き渡る。


「……静かすぎねぇ?」


城ってこんな静かなもんなの?と首を捻るハルマに、


「使用人が1人もおらぬからのう。

まぁ、わし1人でも騒がしくしようと思えば出来ぬこともないが」


ニマっと笑って茶化すような言い方をする。


しかしハルマはその言葉にさらに引っかかりを覚え眉を顰めた。 


「……1人でこの城を管理してるのか?」


とてつもなく大きなこの魔王城(に見えないほど美しすぎる城)。


1人で管理となると、掃除やら侵入者やら勇者の宣戦布告やらガーデンの管理やら、何かにつけて荷が重すぎる気がする。


「……3日前から、1人で管理している。

まぁ、そのことについてはおいおい詳しく話すことになりそうじゃな」


謎の3日前宣言をするミューティルはどこか遠い目をしていた。


引っかかる点は増えたが、ハルマはそれ以上の追求は避け、疑問を飲み込んでミューティルの少し後ろに立ち、目の前の扉を見つめた。


エントランスの突き当たりにあった扉がどうやら食堂につながっているらしい。


美しい植物の模様が施された両開きの扉はネットオークションに出せば何十万円の値がつきそうだ。


そんな扉をミューティルは躊躇はせず、しかし少し重たそうに開ける。


かすかな音を立てて開いた扉、その向こう側を見て、ハルマは舌を翻した。


「こりゃ、最後の晩餐でもできそうだな」


部屋3つ分くらいはあるかというほどの広いダイニングルームが、この城の主と余所者のハルマを迎え入れた。


そこには白いテーブルクロスのかかった長いテーブルと、揃いの美しい白い革張りの椅子が手前側と奥側で10脚ずつ並んでいた。


美しい幾何学模様の天井に、相変わらず煌めきを放つシャンデリア。


まさに最後の晩餐を開くのにふさわしい雰囲気を醸し出している。


ミューティルは部屋の中へと入っていく。

ハルマも後へと続くが、日本の制服とは、いかんせん場違い感が拭えない。  


「この奥が厨房じゃ」


さらに先に今度は片開きのタイプの扉があり、ミューティルはそれを指差す。


そして、何の反応もなかったことを訝しんだミューティルは後ろを振り返った。


「どうかしたのか?

……何か盗みを働こうなどと考えないほうが良いぞ?」


挙動不審に周りを落ち着きなく見渡す人物を見れば、誰であろうと同じ言葉が出てくるだろう。

盗人扱いされたハルマに非がある。


「盗む気はねぇよ……

ただ感動して……

凄すぎね?この城。

内装も外装もめちゃくちゃ凝ってて綺麗なんですけど……」


渋い顔で一旦否定しておき、率直な感動を述べる。


現代日本に生きていたハルマにとってはこの空間に対して謎の緊張感すら感じる。


ここにいるだけで入場料金的なものが発生してもおかしくないレベルの豪華さだった。


魔王不在とはいえ、(というか魔王不在も改まって余計に)魔王城には見えない。

何度も言っているのだが。


魔王独特のセンスの悪さ(無駄に骸骨の飾りがたくさんあったり歴代の破れた勇者の剣が飾ってあったり)や禍々しさ(黒や紫にこだわったデザイン、あちこちに飛び散った鮮血の跡など)が一切感じられない。


廊下に勇者の石像があるわけでもなく、あちこちに勇者を捕らえるための罠が張ってあるわけでもなく、ただだだ美しく、敵を貶めることは一切考えられていない城だった。


「この絵とか100万くらいしそうだよな……」


とっくの昔に城に対する警戒心をかなぐり捨てたハルマはミューティルの後ろを離れ、食堂に飾られた美しい絵の一つに勝手に近づいていった。


群青の夜空に無数の鮮やかな光が流れ星のように、しかしそれよりも遥かに鮮烈に軌跡を刻まれた絵だ。


絵を引き立たせる金色の額縁に入れられていてそれがまた余計に高級感を増している。


その見た目にハルマが思わず前述の言葉を零せば、


「ほう。お主、なかなか良いセンスの持ち主ではないか」


「っつ……!ビビった……

い、いつから隣に……?!」


「ずっとお主の隣におったが……

ちと気配を消しすぎたかの」


「お、おう…心臓が口から飛び出るかと思った」


「すまんすまん」


特に悪びれる様子もなく謝罪の言葉を口にするミューティル。


その視線はハルマではなく絵に向けられている。


「良き絵じゃろ?」


隣に立つミューティルの瞳は輝いているかのような光で満たされていた。


「この絵はな、かつてシュトラール鐘楼付近の様子が繊細に描かれたものじゃ。

かの有名な画家に描かせた世界に1つしかない逸品なのじゃよ。

この色合いと光の輝きが素晴らしいじゃろ?

これほどに鮮明に美しく描ける者はそうそういるまい?

昔、このシュトラール鐘楼付近では100年に一度、珍しい現象が起こったものでなーーーーーーー」


ミューティルの熱心なご説明は、小一時間続いたのだった。

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