第3話 魔王の子孫(義理)
高校1年生、15歳の天音雫です!
何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです!
「立っていられるとは、お主、なかなかの強者じゃな……名は何と言う?」
「如月…遥真……
しょーじき、立ってんのもギリギリだわ…
ってか、見た目と喋り方のギャップがスゲェな」
吐き気をこらえつつ名乗れば、
「ハルマか。良い名じゃな。
よし、ハルマ。
立っているのもやっとのとこ申し訳ないのじゃがお主に頼み事があるのじゃ。
その為ににお主を召喚したと言っても過言ではないほど、重要な頼み事じゃ」
「えーと、おーけー、とりあえず俺はその頼み事を聞くためにお前に異世界に召喚されたわけだな?」
吐き気がいまいち良くならない。
そんな実感を抱きながら確認を取る。
しかし、
「お前ではなく、ミューティルじゃ。魔王の娘に向かって『お前』とは、ハルマ、お主、なかなか良い度胸じゃな」
「え゙、魔王の娘…?」
ふんぞり返る少女ーーーーミューティルを前にして、ハルマは額に冷や汗を浮かべた。
「う、嘘だろ……
俺完全にコマンド選択ミスったわ…
近くに魔王様もおられるのですか…?」
力が抜け、そのまま芝生の上にひざまずく。
そして額を擦り付けんばかりにハルマは頭を垂れた。
「まぁまぁ、面を上げるのじゃ。我が父は生憎この近くにはおらんくてな。しかしながら、魔王城はあるからちと変わった状況でのう」
「え、魔王城?どれ?」
草がついた顔を左右に振るハルマに、ミューティルは、
「これじゃ」
「え……これ?!」
ハルマとミューティルの目の前にそそり立っていた美しく豪奢な洋風の城を指さした。
「でっか……!?ってか、普通に、めっちゃ綺麗なお城なんだけど!!」
真っ白な外壁に青いタレット。
窓は全て太陽の光を反射して美しく輝いている。
魔王城といえば、黒や紫を基調としていて、禍々しい雰囲気を放っているものだとばかり思っていた奏真にとってはかなり衝撃的な外観をしていた。
勿論、いい意味で。
まるでどこかの国の貴族がダンスパーティーを開きそうなほど麗しい見た目をした城である。
城周辺に砦や山川がないあたり、防衛向きではなさそうだ。
青々しい草原がどこまでも広がっている。
これは魔王討伐にやってきた勇者も唖然として、士気が落ちるに違いない。
そういう狙いの城なのだろうか。
まぁ討伐も何も、現在魔王は不在らしいが。
「我が父がおらぬから、わしがこの魔王城の所有者じゃな」
「……マジか」
魔王城の美しさと所有主の幼さ、何故か不在の魔王という情報過多な状況に頭がパニックになりハルマは口を開けたまま固まった。
「………ってか、魔王の娘で魔王城の所有者ってほぼ魔王みたいなもんじゃん。
今までのご無礼、どうかお許しください……」
段々と力が抜け、再び草とゼロ距離になるハルマ。
そのハルマの様子を見て、ミューティルは含み笑いをした。
「良い良い。わしは寛大な心の持ち主じゃからな。
長い人生の中で広い心を持つことの大切さを学んだからのう」
「で、出た…魔王の不死身能力……
一体全体何年生きておられるのですか……」
魔王が不死身、あるいは長生きの域を超えるレベルの人生を歩んでいるパターンは割とベタだ。
それは娘であるミューティルにも恐らく適応されているのであってーーーー
「14年と6ヶ月じゃ」
「いや俺より年下じゃん?!」
思わず立ち上がれば収まることを知らない吐き気と目眩が襲いかかり、足元がおぼつかなくなる。
「……お主は何年生きてるのじゃ?」
自分より年下だったという単純情報に過激に反応するハルマに、ミューティルは興味深そうな表情でそう尋ね返す。
「17年……だよ……」
「大して変わらなかろう?」
「全然、違ぇよ…!!
俺がたった1歳差で姉貴にどれほどボロクソ言われたと……思って…いやがるのですか」
目をしばたかせたミューティルに反論するも、魔王の娘という事実と自分より年下だという事実が拮抗し、ハルマの言葉遣いを狂わせる。
おかげで説得力も半減だ。
「てか、14歳でその喋り方は父さんの……お父様の英才教育…なのか?」
もはやごちゃごちゃの敬語にミューティルは気にした風もなく、短く「血縁ではないから遺伝ではないぞ」とだけ応える。
あぁ、そうなんですね、とはいかない新事実は、流せないのが如月家だった。
「血繋がってねぇの?!
え、じゃあどういう関係?!」
完全に抜けた敬語で突っ張った言葉が口をついて出る。
「まぁ養子みたいなものじゃな」
「魔王ってそんなに後継者欲しがるタイプなのか?!」
驚きの連続にもはやハルマの脳はキャパオーバーしつつあった。
望まぬ異世界トリップの先は、ハルマの想像していた異世界像とは一風ーーーーいや、大分違うらしい。
孤独を好む魔王像があったハルマにとってはもはやこの異世界とハルマの脳内はカオスな状況になっていた。
第一、魔王が一般人ピーポーと同じ思考回路を持ち、養子をとろう!なんて思う世界線が一体何処にあっただろうか。
「まぁ、誰もが子孫が欲しくなったりするもんじゃろ。
4人も養子をとるのはやりすぎなきもするがな」
「4人もいんの?!」
「そうじゃ。娘がわしを含めて2人、息子が2人じゃな。
血の繋がりはないが皆実の父親のように慕っていったぞ」
「何だ…ちゃんと男も養子にとってるのか……
俺の中の魔王像が強大悪辣な大魔法使いからただのロリコンおじさんに変わるとこだったわ……
4人は多い気するけどな……」
早まった結論を正しつつ、
「魔王もここにいないし、後継者いっぱいいるっぽいし、年下だし、結構親交深めたし…
敬語と様付け、使わなくていい?」
姉に散々言われ続けた因縁は根深い。
年下ならば敬語を使いたくないという謎の高校生男子&次男のプライドもあるものだ。
苦い記憶を、思い出すかのように渋い顔をしてそう提案したハルマに、
「好きなように話せば良いし、好きなように呼べば良かろう。
先はああ言ったが、別にお前呼びでもわしは構わぬぞ。」
「あざっす、ミューティーーー」
「その代わり、じゃ」
先の発言に嘘のない、寛大な心を見せてもらい喜びかけたハルマに、ミューティルは人差し指を立てた。
「そろそろわしの頼み事を聞いてはくれぬか?」
「あ、あ〜、そんな話してたよな…
悪い悪い。その〜、頼み事って何だ?」
こんなにあどけない見た目で、寛大な心を見せてくれているけれど。
何を隠そう、魔王の(義理の)娘。
”共に世界を滅ぼそう“とかいう頼み事じみた世界滅亡計画が語られてもおかしくはない。
むしろ、その可能性のほうが遥かに高い。
親しみやすい人柄だったために、ハルマの警戒心が振り切っていただけで、本当は危険な相手かもしれない。
その親しみやすさこそが、演技だったのかもしれない。
内心の不安を押し隠し、後ろ手に手を組む。
ミューティルの碧眼に真っ直ぐ射抜かれ平常心を失う感覚を味わいながら、その唇から恐ろしい計画が紡がれるのをーーーー
「わしは3日前から何も食べておらず空腹じゃ。お主、わしに何か料理を作れ」
「…………………………は?」
呆けた声が、ハルマの乾いた唇から漏れた。