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一年越しの晩酌、なんでもない一日

作者: しめさば

 妻が一年越しに晩酌をした。

 妊活の時期から数えれば、二年近いかもしれない。

 妻はどちらかといえば、お酒は友達派の人種だった。

 勲章ものの忍耐である。


 デパートでちょっと贅沢なおつまみをいくつか選んだ。

 戦績は3勝1敗といったところだ。

 千円近いカマンベールチーズがスマッシュヒットだった。

 今まで食べていたカマンベールチーズは、カマンベールチーズではなかった。


 冷凍ピザがあんなに美味いとは思わなかった。

 デリバリーピザは言わずもがな、飲食店のピザよりも美味いのではないか。

 チャンジャを買ったら、正確にはチャンジャではない何かだったようで、あんまりだった。

 岩下の新生姜は安定だった。


 アサヒのマルエフという生ビールは、妻が断酒してから発売したもので、広告をみるたびにハンカチを噛んでいたのだが、今回やっと手に入れることができた。

 松下洸平を何度、松下幸之助と呼び間違えたことか。

 待望の味は、そこそこだった。

 やはりアサヒは、起用するタレントの価値を、商品価値が超えない。


 品数を増やすため、台所に立った。

 きゅうりを叩いて、梅とかつお節、麺つゆと醤油で和えたおつまみは、飲み屋で知った味だ。

 ペンネアラビアータはYouTubeから。

 久々に料理をすると、鷹の爪を切らしていたことにも気付ける。


 晩酌の視聴覚的お供は、実写版リトル・マーメイドだった。

 褐色のアリエルは斬新で、セバスチャンとフランダーも見た目はただの魚介だった。

 トリトン王に感情移入するようになったとは、自分も歳をとった。

 娘を送り出してやることが正しい愛なのだという真理は忘れないようにしたい。


 母乳に頼らない夜泣き対応はなかなか難儀だった。

 なぜ母に抱かれているのに吸う乳がないのじゃ、とご乱心だった。

 ミルクを作っておいて、泣いたらすぐ温められるようにした。

 起こされて、時計を見たときに、意外とまだ浅い時間だとビビる。


 知らなかった美味しいもの、物語、苦労、葛藤がそこらじゅうに転がっている。

 この先もまだまだ残されている。

 私ですらそうなのだ、娘ならいわんやである。

 そういえば今日うんち出てなかったなあ、未来は明るいのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 暖かさが感じられるエッセイで、こういうの大好きです。 ペンネアラビアータに鷹の爪が入ってないって…ただのガーリックパスタかい?笑 カマンベールチーズ…気になる。。。 [一言] 素敵な何で…
[一言]  お酒以外にもいろいろあったのでしょう。  我慢というか、そこに注いでいたものを育児のほうに注いだぶん、そちらに注げなくなったかんじかと思います。  そのぶん、新しい小さなグラスには水が汲め…
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