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第7話 一人ぼっち

 メールの発注依頼は常連の『たま姫』様だ。週に一度大量発注をしてくれる方で、今回は京都でパーティーがあるから、参加者にプレゼント用でほしいという内容だった。数は五十個とかなりの数だ。


(こんなに発注してくれるなんて!)


 三代目からご贔屓にしてもらい、以前は電話注文だったがネット通販も始めたと手紙を添えてからは、定期的に頼んでくれるようになった。この店が潰れないのは来店が少なくとも、ネット販売で大量に依頼をしてくれる常連さんがいるからだ。有り難い。


 特に年明けのお正月用飴細工はかなりの人気で、あれでかなりの収入が入る。その分、年末から年明けまでは休み無しでかなりの重労働だが、嬉しい悲鳴だから頑張れるのだ。

 他にも『キジン』様や『天ちゃん』様、『スーさん』様、『マリーシテン』様など変わったニックネームの方が多い。


「(たま姫様の依頼は明日から取り組むとして、今日は下拵えに止めて店を閉めよう)……ん、あれ?」


 入り口の額に入れておいた幾何学模様が焼き焦げているのに気付いた。額縁は無事なのに、紙と模様だけが黒ずんで見えない。


「どうしよう。おじいちゃんが『大事にしておくように』って言ってくれていたものだったのに……」


 祖父は書道の先生だったこともあり、達筆な文字とは別に幾何学模様やら変わった文字を書いていることがあった。


 私はそれが綺麗で、格好いいと何枚か貰っていた。

 部屋にも何枚かあるし、お財布にも入れておくと良いとストックはかなりある。


(そう言えば、『小晴は狙われやすいから』とか言っていたのって、お人好しだって見抜かれていたのかな……。この紙もまだ家の奥に同じような物があったはず……。明日の朝、探してみよう)


 今度こそ店を閉めた。

 雪がしんしんと降り注ぐ。明日まで雪が降っていたら結構積もるだろうか。


(明日から大量の発注をするから、お店は午後から時間を見て空ける程度にしよう!)


 その日は明日の準備をして、早めに床に就いた。

 暖房があまり付きにくいのでお風呂に入ったら、素早く髪を乾かして布団に潜り込む。静かで、時計の針が耳につく。


 暗闇は嫌いだ。

 孤独感がさらに煽られるし、ヨクナイモノがこちらを覗いているような気がするから。

 ふいに家の周りで飲み会が近くであったのか、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。私が布団に入ったのは十時過ぎで、二件目の店を求めて歩いている人たちだろうか。


 笑い声が遠のくと、静寂が部屋を包み込んだ。

 誰もいない。

 広すぎる部屋は凍えるほど寒い。


(昔は、店のみんなと季節変わりに飲みに行ったっけ……)


 懐かしくも何だかむなしくて、私は身を縮込ませて瞼を閉じた。



 ***



 騒いでいた連中が酔った勢いでタバコのポイ捨てをしたことなど、小晴は知るよしもない。本来なら雪の中で消えるはずだったタバコは、黒々としたヨクナイモノの媒体となって墨色の炎へと昇華する。


 ボッ。ボボボボッ。


 普段は護符による結界により、ヨクナイモノは侵入することはできない。しかし、札の効果が消えた今、ヨクナイモノは溢れ出る霊脈を吸収し、急成長を遂げる。


 ゴゴゴゴゴッ。ボコッ。ゴォ。


 怪しく揺らめく炎は徐々に敷地内に広がっていく。

 禍々しくもそれは全てを炭化させ、店を、あるもの全てを喰らって急成長し、小晴を求めて膨張する。



 ***



(ん?)


 気付けば星明かりの綺麗な屋敷に佇んでいた。

 白い石砂利が見え、広々とした庭はキチンと手入れがされており、屋敷も立派だ。もうすぐ十二月なのに藤の花が咲き乱れて、その美しさに見惚れてしまう。


(綺麗……。この世界の物とは思えないほど、透明感があるなんて……)


 ふと空を見上げれば月が二つあり、片方が少し小さくて不思議な光景だった。

 ここは私のいる世界とは異なるのだろうか。

 夢だと思いたいのに、歩く度にじゃらじゃらと鳴る足音と感触が妙にリアルだ。

 頬に触れる風も、花の香りも本物のよう。


「小晴」

「──っ!?」


 声に振り返った瞬間、ふわりと白檀の香りと共に紫苑さんに抱きしめられる。


 突然現れた彼は空から舞い降りたかのように、長い髪や袖がふわりと浮遊していた。まるで長い髪が生き物のように揺れ動く。


「え、紫苑さん?」

「小晴、今すぐ目を覚ますんだ。私もすぐに助けに向かう、だから──」

「え」


 紫苑さんが何かを言っているのに、意識が明瞭化して夢が醒める。

 もう少しだけ抱きしめられた温もりを感じていたかった。



 ***



 焦げ臭いような嫌な匂いに顔を顰めて、重たげな瞼を開いた。


「──っ!」


 夢にしては現実味を帯びたような不思議な感覚だった。

 上半身を起こして水分でも取るかとした矢先、青黒い炎が部屋のドアを呑み込むように燃え上がった。


「え、なっ!?」



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