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第44話 好きな人

(紫苑……)


 傷ついて血塗れの姿を見つけた時、息が止まりそうになった。

 この神様は自分自身を損なうことに鈍感すぎる。鈍感という言葉で合っているのか疑わしい部分はあるだろう。


 時折見せる老獪な年長者としての顔、人間の価値観とは異なる姿に、幸せそうに微笑み「可愛い」と口にする言葉。子供のように目を輝かせる表情の豊かさに、傍にいるだけで胸が温かくなった。

 ちぐはぐで、けれど全部含めてそれが紫苑だと思うと、愛おしい。


 どう接すればいいのか分からないこともあるし、価値観の違いに眩暈を覚えそうな時はままある。

 強引な形で譲らない頑固さも、外堀を埋めながらも嫌われないだろうかと臆病な一面を見せる──不器用な人。


(ああ。紫苑に会いたい。最近、ずっと話せなかった……のに……)


 もっとお互いに言葉を重ねて、折り合いを付けたかった。

 人と神様は違うから、考えや価値観のすり合わせは大事だったのに、どこか遠慮してしまって先延ばしにしてしまったのだ。

 出会い方や付き合うきっかけは突拍子もなくて、強引だったかもしれないけれど、それでももっと寄り添えなかったはずなのに、と後悔ばかりだ。


(紫苑……。紫苑はどこ?)


 酩酊状態に近いからだろうか。

 自分の体がやけに熱くて、息苦しくて、気だるい。

 頭が上手く回らない。


(こんなことならもっと早く加護や祝福のグッズを買っておけばよかった)


 そんなことを考えている間に、意識は溶けていった。



 ***



 次に目を覚ましたのは、広々としたダンスフォールだった。照明はいくつか付いているので、分厚い赤紫色のカーテンが不気味に見える。

 廃墟になったホテルだろうか。

 至る所に白い蜘蛛の糸が張り巡らされており、照明の明かりで白銀に煌めく。


(どうして……こんなところに?)



 酩酊状態が続いているのか意識が混濁して、上手く考えがまとまらない。

 息苦しいし、体がだるくて堪らない。体を動かそうにも、拘束されているのか動くことすらできなかった。


 上からぶら下がっているのか、視線が立っている時とあまり変わらない。ただ吊されている浮遊感はある。


(吊るされて……?)

「おや、目が覚めたようだね」

「小晴、久しぶりー。私のことを覚えている?」

(……だ……れ?)


 ぼんやりと女性らしい輪郭は見えるものの、顔まではよく見えない。聞き覚えのあるような親しげな口調だが、どこか人を馬鹿にしたような感じだ。

 昔、そんな風に一方的に話す知人がいたような気がする。


「専門学校の時に同じクラスだった彼氏を奪っちゃったんだけど覚えていない? ほら、地味だったけれど、真面目で背丈が高くて……あー、名前とか思い出せないけれど!」

(……そういえば、そんなことがあったような?)

「それからほら、あの浅緋って男も私を選んでくれたし~。だからね、今回もあの美しい彼がほしいのよ。紹介してくれるわよね」

(彼……紫苑のこと?)


 まるで自分の物だと言わんばかりに切り出す彼女に、眉を寄せた。

 輪郭がぼんやりしたままだが、彼女が誰なのかを漸く思い出す。


 小鳥遊梨々花(たかなしりりか)

 専門学校時代、告白された同級生に返事をしようとした翌日、「奪っちゃってごめんね」と言ってきた最悪の女だ。


 友人だった記憶はなく、いつの間にか彼氏あるいは、いい雰囲気だった異性を奪い取り、勝利宣言を残していた。


 私だけじゃ無く、他の恋人も奪っていたらしく評判は最悪。

 そういった経緯もあり、私が恋愛に対して消極的になった一因を持つ人間だ。できればもう二度と会いたくなかった。


(何で……今さら……)

「連絡しても全然、反応無いし~。でも今回は本家筋も本気らしくてさ。だ・か・ら、絶対にあの男を物にするって決めたの♪」

「お前は大人しく、あの方を呼び寄せて、役目を果たせばいい。あとは餌として喰ってやるから安心しな」

(この……人は……?)


 そう嗤うのは、別の女性だ。シルエットは女性なのだが人外の気配がする。

 禍々しくて、血とドブの匂い。

 あの日、私が襲われた時のヨクナイモノと似ている。


(……紫苑が狙いってこと?)

「お前は本気であの方と自分が、釣り合うとでも思っていたのか? あの美しくも気高き方が一時の気まぐれとはいえ、こんな娘に籠絡されるとは……」

「……っ」


 図星だった。

 私が紫苑と釣り合っていないのなんて、最初から分かっていた。


 種族も、生きてきた世界も、立場も、身分すら違う。

 それでも紫苑は望んでくれたし、私も一緒に居たいと思うようになっていたのだ。それを「戯れ」と言われてしまうのが、とても悲しくて言い返せるほどの力と確信が今の私にはなかった。


 白昼夢での言葉が無ければ、紫苑を信じられた。

 でも、人の気持ちは分からない。

 神様であればなおさら──。


『小晴』


 そう名前を呼ばれただけで、泣きそうなほど嬉しかった。

 温かくて、優しくて頑固なところや老獪なところもあるけれど、私に甘くて、笑う姿が大好きだった。


(紫苑を奪われたくない)


 悔しくて、苦しいけれど、何も言い返せないのはもっと嫌だ。

 そう思って口を開く。たとえ自分の寿命を削る行為だったとしても、言わなきゃ気が済まない。



楽しんでいただけたのなら幸いです。

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