第30話 悪女梨々花の視点
小さな蜘蛛が窓の外から糸を垂らしながら小晴と紫苑、そして黒鉄浅緋とのやりとりを凝視していた。それらを通して梨々花は、近場のカフェで新作のイチゴのパフェを頬張る。
梨々花の視界は、眷族の蜘蛛を通して視ることが出来た。
紫苑を見つけたのも、偶然眷族の目で見つけたのだ。
芸術的に美しい男は一瞬で梨々花のハートを射止めた。そして調べてみれば、白銀財閥の重鎮、つまりは玉の輿である。
(ふふふっ。まさか専門学校時代に引き立て役として声をかけていた小晴がねえ。あの子、大して可愛くないくせに、いつも周りに誰かがいて、利用して貶めようと画策していたのに、見ず知らずの誰かに助けられていたし!)
梨々花は華美で、お金といい男が好きだった。
しかし梨々花が気になった異性は小晴に惹かれていることが多い。一度や二度ではない。だからこそ小晴を貶めて廃除しようとした。眷属を、異性を無理矢理振り向かせたのもある。
(浅緋も幼馴染みで初恋だって言うから、奪ってやったのに……。ああ、腹立つ。小晴が浅緋の復縁を受け入れていれば、彼を私が慰めて上げようとしたのに。もう、計画が崩れるなんて最悪だわ)
赤々としたイチゴを口にすると、次のプランを考える。
先ほど浅緋には興奮剤と毒を少しだけ注入していたので、強引にでも小晴と関係を持つように仕向けたのに失敗だった。
(音声まで拾えなかったのは残念だけれど、次のプランを練れば良いだけ)
甘ったるい生クリームを口にしてすぐに手を止めた。半分以上残っているけれど、もう食べる気は無いのか携帯端末で、画像加工を始める。
(他にも手はあるし。彼が堕ちるまで――絶対に逃さないんだから♪)
梨々花の一族は女郎蜘蛛の末裔らしく、稀に蜘蛛を使役することができる。使いこなせば有能な諜報活動などが可能らしいと本家は話していたが、梨々花にはそういった野望はない。いかに自分が楽をして人生を謳歌できるか。
それだけだ。
それ故、人外のコミュニティに疎く、紫苑が白銀財閥の重鎮――つまり玉の輿相手であり、ドストライクのイケメンだということしか理解していなかった。いや梨々花にとってはそれだけが重要なのだ。
外見、地位や名誉、知名度、金持ちかどうか。
自分に堕ちない男はいない。そう信じて疑わなかった。
(そうだ。小晴を呼び出してちょっときつめの毒を盛って脅せば……。それとも媚薬にして適当な男たちの慰みものにしちゃおうかな~。ああ、それなら浅緋はまだ使えるかも)
艶然と笑みを浮かべながら梨々花は、妄想を加速させる。小晴の隣にいる男が人外だと本物を知らない彼女は愚かにも曇った目でしか紫苑を見ていなかった。




